仮想金メンダリストと
第14話
右腕のリストバンドは、時計回しに回すと強さのレベルがあがり、反時計回しに回すとレベルダウンとなる仕組みのようだ。
有栖は、すでにレベル1になっていたリストバンドを9回回し、いきなりレベルMAXまであげた。
「東雲くん、あんまり長い時間この状態だと、また筋肉痛で動けなくなっちゃうから、危ないと思ったらそこのリモコンで止めて」
「あ、あぁ、わかった」
有栖の様子は、まるで大一番の試合に臨む、本当の選手のようだった。
「私はいつでも大丈夫」
「大丈夫って、相手は二人だけど、いいの」
「うん」
完全に勝負のスイッチが入ったような雰囲気に、それ以上声をかけることが出来なかった。
「それじゃあ・・いきます。始め」
パシッ
東雲の合図で、有栖のサーブから試合が始まった。
手前奥に向かって打たれたサーブだが、レシーバーの松友がいとも簡単にコート左奥隅にクリアした。
有栖は松友が打った瞬間に落下点に移動し、ストレート方向にスマッシュを打ち返す。
まとも松友がたやすくカットし、有栖は右に振られた。
やや低姿勢から対角線にクリアすると、右方向に移動いた高橋が、シャトルが落ち始める頃には反対の左側の落下点でベストな姿勢で構えていた。
そこからストレートに打ち抜いたスマッシュを打たれ、なんとか反応してラケットに当てたシャトルはちょうど右奥へクリアされた形となった。
そこに高橋が左から右に瞬間移動でもしたかのような速さで移動し、強烈な対角線にスマッシュを放つ。
自分も右に移動していた有栖は逆をつかれた形となり、必死に体を反転させ、ラケットに当てはしたものの、そのシャトルはネットに当たって落ちた。
「はぁはぁはぁ!つ、強い・・!はぁはぁ・・」
東雲は、世界トップクラスの試合が目の前で行われているこの光景に呆気に取られ、ただ見ているだけだった。
「いや、いやいや!いやいやいやいや!有栖さん、互角に戦ってたよ!」
「はぁはぁ・・、全然・・互角じゃ・・なかったよ。なんとか拾ってたけど、左右に揺さぶられるし、どこに打っても返って気がして、どこに打てばいいのかわからなかった・・」
「そ、そうなの・・?こっちからは同じくらいの力に見えたけど・・。強い人同士だと、そういうもんなのか・・」
「それに、1ポイント取られただけでこんなに疲れてたら、試合にならないよね・・」
「あっ!有栖さんが危なかったら止めるっての、すっかり忘れてた!」
「大、丈夫・・。一回分くらいだったらまだ大丈夫だけど、これ以上はあんまりやらない方がいいかも・・」
「そう、だね。有栖さんが作ったアイテムの効果が凄いことがわかったし、今日はこれくらいにしようか」
「東雲くんのおかげだよ」
「え、え、あ、いやぁ!それほどでも!」
ヴンッ
「あっ、モニターの電池、切れちゃった。どっちにしても続きできなかったね」
「そうだね」
「ちょっと休憩したら、後で手伝ってほしいことがあるの」
「うん、わかった」
水分補給などの小休憩後、二人は研究室で作業を始めた。
「有栖さん、よく一晩でユニフォームの機能をリストバンドだけにしたり、モニターなんて作れたね」
「うん、始めは無理だと思ったんだけど、ユニフォームの場合は、使ってる生地を調べたらヒントがあったから。それにモニターも、最近はAI(人工知能)の技術が発達しているから、それを使ったの」
「そ、そう・・(あっさり言うなぁ)。生地って、特別な生地を使ってたとか?」
「うん。生地に光とか風で発電する繊維が使ってあって、ユニフォームの上下、それからリストバンドそれぞれが体の部位の筋力を増幅させる役目を持っていたの」
「は、はぁ・・」
「でも、ユニフォームだけ着たり、リストバンドだけつけたりしてもダメで、全部が体に装着されると、電気が体内を経由してそれぞれのパーツ同士でペアリングしあって、それでスイッチが入る仕組みになってた。それとこのリストバンドのロゴっぽいところにメモリが入ってて、それにバドミントンに関する情報が記録されていたから、あとはそれぞれのパーツの役割をリストバンドに集約すれば・・」
「ご、ごめん・・!聞いた僕が馬鹿だった!よくわかりません!」
「あ、ご、ごめん・・。ついしゃべりすぎちゃった。つまり、ユニフォームをちっちゃくしたってことだよ!」
「わかりやすいけど、中身は全然理解出来なかった・・。そうだ、僕に手伝って欲しいことって何かな?もう手伝えるようなことなさそうだけど」
「東雲くん・・」
「は、はい・・(なんだろう・・。まさか、お礼にとか言って・・!?)」
「リストバンド、つけてみてもらえない?」
「へっ?」
「私以外の人がこれをつけたらどうなるのか知りたいの」
「えっ!?僕が!?つ、つけていいの?(違ったか・・。いや、でもこれは凄いことだぞ)」
「うん。東雲くんにも同じように効果があるなら、もう一個作ってみようかなって!」
「ほ、ほんとに!?じゃ、じゃあつけてみるよ・・」
ドキドキ
「つ、つけたけど、あとはどうすればいいのかな?」
「リストバンドのロゴのところを軽く長押ししてみて。・・うん。これで大丈夫だと思う」
「こ、これだけで・・」
「あとは時計回りにリストバンドを回してみて。一回転でレベル1ずつあがっていくから、3くらいで試してみて」
「わかった・・。3回回したよ」
「それじゃあ・・、そのままゆっくり前に進んでみて・・」
「う、うん・・。うわぁーーー!!!」
ステーン
足を前に出して歩き出そうとした瞬間、出した足がそのまま上に持ち上がり後ろにバランスを崩して転んでしまった。
「いっっったぁぁぁ・・」
「だ、大丈夫!?」
「うん・・。びっくりしたけど、大丈夫・・」
「そっか、よかった・・」
「一体なんだったんだろう・・。よっこいしょっ・・」
つるっ
ビターン
「あだっっっ!」
起き上がろうと手をついたが、ついた手が氷の上を滑るように滑り、顔を地面にぶつけてしまった。
「え・・どうなってるんだ・・」
「まさか、体に合ってないとか・・?」
「そんな・・。せっかく僕もあんなに凄いことができるようになると思ったのに・・」
そう言って、今度はうつ伏せの状態から少し腰を浮かせ、膝を立てて起き上がろうとしたが、体ごと浮き上がり、くの字になったところへ勢いのついた膝が顔を蹴り上げた。
「がはっ・・」
「東雲くん!!」
ドサッ
自分の膝とはいえ、結果的に膝にむかっていった頭と、頭にむかっていった膝が衝突したのだ。
その衝撃は凄まじいものだろう。
「リ、リストバンド、外すね・・!」
リストバンドを外すと自動でスイッチがオフになるようだ。
「だ、大丈夫・・?」
「大丈夫じゃ・・ないです・・」
二人はしばらく休憩することにした。




