披露
2017年に投稿後の続きとなります。
参考とした登場人物は作成当時の情報です。
第11話
有栖は、結局あと二日学校を休み、2週間ぶりに登校した。
全身に痛みは残っていたが、普通に歩くことはできる程度まで回復した。
2週間ぶりということで、やはりクラスの注目の的となった。
「聞いたよー!本当に筋肉痛だったんだってー!?」
東雲がお見舞いに行ったあと、クラスメイトから質問攻めをされ、お見舞いに行った時のことを話していたようだ。
それまでは本当に筋肉痛なのか聞いていいか不安がっていたクラスメイトも、東雲のおかげで堂々と本人へ質問攻めができた。
おそらく東雲がお見舞いに行き、クラスメイトに話をしていなかったら、こんな雰囲気にはなっていなかっただろう。
実は病弱だ、とか事故で怪我をしていた、とかならまだ良いが、DVを受けているなどの方向の噂が出てくる可能性だってある。
この雰囲気は、東雲のファインプレーと言っても良かった。
有栖も、2週間ぶりに学校に来たのに気さくに話しかけてくれるクラスメイトの雰囲気から、東雲のおかげという感覚を感じたようだ。
二人は目を合わせ、目だけで「おかえり」と「ただいま」の会話ができた気がした。
久しぶりの授業は、東雲が貸してくれたノートのおかげで、授業の内容が全くわからないということもなく、その日と次の日は、普段通りの学校生活を送ることが出来た。
土曜日になり、有栖はある決意をしていた。
東雲に、筋肉痛になった理由を正直に話そうと決めたのだ。
もちろん、ユニフォームのこと、研修室のことも話すつもりだ。
ユニフォームを着ただけで、本当にそんなことが起こるのかと疑われるかもしれないし、気味悪がられるかもしれない。
でも、東雲には本当のことを知って欲しいと思ったのだ。
ユニフォームを着て、その上にはジャージを羽織ったが、リストバンドだけはつけなかった。
東雲が来るのを待った。
実は昨日、時間を決める為、LINEのIDを書いた紙を東雲から有栖へコッソリ渡していた。
コッソリと渡す必要は無いのだが、周りから冷やかしにあったりすることに抵抗があり、そうした。
約束した時間は13時だった。
東雲は、時間通りに来た。
玄関の呼び鈴が鳴り、有栖が出迎える。
「おは・・」
「こんにち・・」
第一声がかみ合わなかった。
「・・おはよ」
「おはよ」
「すごい、時間通りだね」
「うん、時間はわりと守る方なんだ」
「そうなんだ。早速だけど、練習、付き合ってもらっていい・・?」
「もちろん!有栖さんはもう着替えてるんだね。僕も家からジャージで来たから、いつでもいいよ」
「じゃあ、こっちの庭でお願いします」
そう言って、家と研究室の間にある庭、というかちょっとした広場というか、二人で軽くバドミントンをするくらいなら問題ない場所へ移動した。
「へぇ、こっちも有栖さんちなんだ」
「こっちは、研修室があるとこだよ」
「研究室!?あぁ!そういえば有栖のご両親、研究者だったね・・あっ」
「ううん、大丈夫だよ!そう、二人とも研究者。そのまま残してあるの」
「そう・・なんだ」
「うん!じゃあ、ラケット2つあるんだけど、東雲君、どっちがいい?」
「ラケットのことはよくわからないけど、じゃあこっちの青の方で」
「わかった!じゃあ、私は赤にするね。・・東雲君、私、下手くそだけど、引かないでね・・」
「全然大丈夫だよ。僕も授業でしかしたことないし」
「ありがとう。じゃあ・・いきます」
そう言って有栖はシャトルを持ち、シャトルを落として下からラケットを振り上げた。
スカッ
「・・・」
「・・・」
「ご、ごめんね。もう一回いくね!」
有栖は同じようにシャトルを落とし、ラケットを振り上げた。
スカッ
「・・・」
「・・・」
2度目の沈黙。
「ぼ、僕が打とうか」
「うん・・・そうしてください」
東雲が代わりに打つことにした。
「じゃあ、いくよ」
「はい」
有栖と同じようにシャトルを落とし、ラケットを振り上げた。
パシッ
シャトルは有栖の頭上にきれいにあがった。
「わっ、わっ」
有栖は慌てた。
そろそろ打点というところまで落ち、タイミングをみてラケットを振り抜いた。
スカッ
ポトッ
「・・・」
「・・・」
「む、難しいね・・・」
「そう・・・だね」
東雲は、予想していた以上の有栖の出来なさに、正直驚いた。
ただ空振りが続いただけならいいのだが、そのフォームは、素人目から見ても初心者、というよりも”運動がすごく苦手な人”だった。
「・・ごめんね」
「い、いやいやいや、練習すればうまくなるよ・・!」
「ありがとう・・。私、下手くそだよね・・」
「・・・」
「あのね、東雲君!私、今から本気・・というか、めちゃめちゃな動きするかもしれないけど、引かないでね!」
「え、めちゃめちゃ・・?」
有栖はそう言い、リストバンドを左手にはめた。
その瞬間、有栖の立ち姿、ラケットを持っている様子、雰囲気そのものが変化した。
シャトルを拾い、さっきと同じように下から打つ姿勢を取った。
しかし、さっきと違い、シャトルを持っている左手は、肩くらいの位置、右腕は肩より高い位置で構えた。
そこからシャトルを落とし、一気に振り上げた。
バシッ!
強い音とともに、東雲の頭上に高々とあがった。
「あっ、へっ?えっ?」
目の前に起きていることの整理がつかないまま、頭上のシャトルを目で追いかけ、条件反射のような形でなんとか打ち返した。
しかし、ラケットのフレームに”カン”と当たり、有栖までは到底届かない位置に落ちようとしていた。
「ご、ごめ・・」
タッタッタッ
ポン
どうやっても届くと思えない位置から、有栖が詰め寄り、優しくシャトルをすくい上げるように拾った。
「えっ、わわっ」
パシッ
またも条件反射のようにラケットを振った。
今度は有栖の後ろに、ロブを打った形となった。
これも、試合なら決まった!と思うようなショットだ。
だがしかし、有栖は一直線に落下地点へ移動し、届くどころから、体を反転しテニスのサーブを打つような完璧な体勢で打ち返した。
バシッ!
シャトルは東雲のちょうど頭上に落ちるように、しっかりコントロールされている。
「た、たっか・・!!」
ここが体育館なら、天井まで届くのはないかという高さまでシャトルはあがっていた。
「え、これ、タイミング・・」
経験したことのない高さから落ちてくるシャトルに、打つタイミングが全くわからない様子だ。
それでも必死にタイミングを読み、思い切ってラケットを振り抜いた。
パシッ
しっかりとラケットの芯にあたり、見事に有栖の方向へ打ち返した。
がしかし、シャトルはコートアウトするようなほど高く、遠くに向かっている。
「わ、ごめ・・」
タンッ
有栖は、自分の身長くらい跳び上がり、空中で完璧な姿勢を取った。
バチン!!
空中で、海老反りようなその姿勢から、地面に叩きつけるようにスマッシュを打ち放った。
ヒュンッ
有栖がジャンプした瞬間から、口を開けて見る以外何もできない状態でフリーズしていた東雲の頬をかすめ、地面に落ちた。
シャトルが地面に落ちたあと、上空から時間差で風が東雲の顔をなでた。
タタッ
有栖が着地した。
東雲は、有栖の顔を瞬きもせずに見ながらフリーズしている。
有栖はリストバンドを外した。
「実は、これがしばらく学校を休んでた理由なの・・。驚かせてごめんなさい・・!」
そう言って、東雲に向かって頭を下げた。




