練習の約束
第10話
「ううん…東雲くんにノート返さなくちゃ…」
有栖は布団の上でうなされていた。
実は、前回東雲がお見舞いに来てくれた際に、最近の授業の様子が少しでもわかるようにと、自分のノートを貸してくれていた。
本来であれば今日返すはずだったのだが、また休んでしまった為に返せずにいたのだ。
「ノートが無いと…。東雲くんに迷惑かけちゃった…」
「今日はどうしても外せない用事があるから学校には持って行けないけど、夕方だったらおばあちゃんが東雲くんの家に連絡して、学校が終わった頃に持って行こうか?」
「う、うん…。ごめんね、おばあちゃん。そうしてもらえると助かるなぁ…」
学校が終わったらおばあちゃんが持って行くことになった。
おばあちゃんは用事を済ませ、夕方になって東雲の家に電話をしたが、誰も出なかった。
「まだ家には帰ってないようだね」
「そうなんだ…」
「帰る時間もわからないし、直接行ってしまおうかな。もしまだ帰ってなかったらポストに入れてくるよ」
「う、うん。ごめんね…」
そう言って東雲の家に向かおうと靴を履き、玄関を開けると、東雲がいた。
「あっ」
「おや!」
お互いに驚いた様子だ。
「おやまぁ、今から東雲君の家に、このノートを返しに行こうとしてたんだ。あの子が借りたまま休んじゃって、すまなかったねぇ」
「あっ、いえ、ノートは何とかなったんで、大丈夫です。それより、この前は月曜から学校に来るって言ってたのにどうしたのかなって…。それと、この前貸して欲しいって言われてたものがあったので、そのことについて話したいと思って」
「あら、またあの子、何か借りようとしてるのかい?」
「あっ、いえ!いいんです!有栖さんが頼ってくれたのが、何だか嬉しかったんで…。それに、よくはわからないけど、最近すごく頑張ってるって感じが伝わってきて、僕も何か出来ることあればなって思ったので…」
「そうかいそうかい!あの子のことをちゃんと見てくれてる人がいて、嬉しいね!せっかく来てくれたんだし、上がっていってちょうだい!」
「あっ、でも、今日は飲み物も何も持ってきてない…」
「何言ってんだい!ノートを借りてたのはこっちだし、こっちがお礼をしたいくらいだよ!さっさっ、あがって」
「は、はい」
おばあちゃんに促され、東雲は有栖の部屋へあがった。
「東雲くん!?なんでうちに!?」
「ちょうどうちに寄ってくれたとこだったんだよ」
「う、うん、心配になって来ちゃった…」
「え、心配になってって…えっ?えっ?」
有栖は赤面し、うろたえた様子だ。
まさか今日も来てくれると思っていなかった上に、心配だったと言われたらドキッとするもの、ということだろうか。
「あらあら、おばあちゃんはお邪魔のようだね。それじゃ、ゆっくりしてってね」
「お、おばあちゃん…!」
そう言ってそそくさと部屋を出て、階段を降りていった。
「ごめん、急にまた来ちゃって」
「う、ううん、ノート、ごめんね。今日返すつもりだったのに…」
「いや、ノートはいいんだ。まだ辛そうだね。すぐ帰るから」
「ごめん…。せっかく来てくれたのに…」
「この前オリンピックの時のテレビ見たいって言ってたから、今日学校で渡そうと思ったんだけど、渡せなかったから持ってきたんだ」
「あ、ありがとう…」
「テレビの映像ってやっぱり著作権が厳しいらしいんだけど、父親がわざわざ人に貸しても大丈夫なのを買ってたんだって。これをスマホに挿せば見られるらしい」
「そう…なんだ。ありがとう。お父さん、準備いいね」
「機械ものとか好きみたい。人に貸すことなんてそんなに無いから、友達が借りたいんだってって言ったら喜んで貸してくれたよ」
「あはは…いたたっ」
「あ、ごめん!また筋肉痛になったんだってね…」
「う、うん」
「そんなに頑張って大丈夫?あんまり無理しないでよ」
「うん…ごめんなさい…」
「い、いや、謝るようなことじゃないよ…!ただ、僕に手伝えることがあれば言ってほしいなって」
「え…」
「あ、あぁ!い、いや!そ、そんな変な意味じゃなくて…!」
「変な?」
「あ、いや、変なっていうのも変だね…。何か出来ることあったら遠慮無く言って。って言っても、僕もそんなに運動が得意ってわけじゃないんだけど」
「ありがとう…。ねぇ、東雲くん、今度の土曜日、空いてる…かな?」
「土曜日?うん、空いてるよ」
「じゃあ…早速なんだけど、一緒にバドミントンの練習に付き合ってもらえないかな…?」
「いいよ!バドミントンの練習か!だからオリンピックにバドミントンあるか聞いたんだね」
「う、うん…」
「わかった!じゃあ、土曜日また来るよ。バドミントンのテレビも録画してるから、これ見といて」
「ありがとう…」
「それじゃ、今日はこれくらいで帰るよ。早く学校に戻ってきてね」
「うん…。本当にありがとう」
「ううん。じゃあまたね!バイバイ」
「バイバイ」
「おや、もう帰っちゃうのかい?」
「はい。まだ辛そうだったので。でも、土曜日にまたお邪魔します。それじゃ、失礼します」
東雲はおばあちゃんに軽く挨拶し、帰って行った。
「土曜日に…また…?」
おばあちゃんは、自分が思った以上に話が進んでそうな状況に、きょとんとした様子だった。




