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勇者ナオヤの条件  作者: シググ
東の国 エグディス
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9/15

美しきかなこの世界

ホントは女風呂編も書こうかなと思ったんですけどね

あれからは4人で夜店で買い食いしてお祭り気分で楽しんだ。

ここの世界の食べ物は思いのほか美味しいものだと再確認できた。

とは言うもののたまにはハズレもあったりするんだけど。

「美味しかったですう」

ララが満足そうにお腹をさすっていた。

幸せそうで何よりだ。

「ふん、まあまあね」

リンナは相変わらずツンツンしていた。

こんなことを言っているが今日一番食べていたのは何を隠そう彼女である。

食べるたびに顔がほころび、翼は輝きを増していたのでどう考えても楽しんでいたに違いない。

「じゃあそろそろ宿屋を探すか」

エルドの提案にみんな頷く。

リンナがひとつ提案する。

「高級ホテルがいいわ。エステ付きの」

「馬鹿、こんなところでお金使ってどうするんだよ! 却下だ!」

「えー」

不満そうに口を尖らせるリンナは無視されエルドが地図を見ながら進んでいく。

今思ったけれどエルドがリーダーのようなもんだね。

リンナもララもちょっとアレで僕もリーダーなんて柄じゃないし。

エルドは何気に庶民の生活を経験しているためかひたすらに常識人だ。

多分彼がいないとこのパーティは崩壊路線だっただろうな。

「あのお兄さん結構使えますねえ。ララやリンナさんが持ってないもの持ってますし」

とララも僕と同じく感心していた。

リンナもちょっと癪だという顔をしながらも

「確かにアイツがいないとやばかったかもね。私王国の外のこと何も知らないし役立つわ」

と悔しそうに評価していた。

王様がエルドを選んだ理由が分かった気がする。

「お前らさっさと来いよ、置いてくぞ」

「「「はーい」」」

3人仲良く声を揃えて返事すると、彼の元へと急いだ。




「よくおいでになりました」

ペコリとここの宿屋の娘さんに見える少女が頭を下げた。

その隣には優しそうなおばあさんもいた。

「こんな田舎の町によく来てくださったね」

「いえいえ、そんな」

別に田舎だとは思えないけれども。

確かにここの位置は東の国エグディスと南の国アステルドの中間地点にある町だ。

因みにここはアステルド領域らしい。

「さあさあお部屋をご案内しますよ」

おしとやかな印象を受ける少女は綺麗な笑みを見せながら僕たちを部屋に案内した。

そこはお世辞にも綺麗とは言えないもののきちんとベッドが4つある部屋だった。

リンナが「きたな--」まで言いかけたときエルドが口を塞いで黙らせたのはナイスな判断だった。

「とても風情がある部屋だね」

フォローの意味で僕が言うと少女は「ふふっ」と笑った。

「ごめんなさいね汚い宿で。年季が入ってるもんだから」

「え、いやそんなつもりじゃ」

「いいんですよ別に。その代わりに温泉があるのでぜひ利用してくださいね」

「こんな所に温泉が?」

リンナが驚いたように宿屋の娘を見た。

「ええ。この町は温泉街としても有名なんです。ご存知ありませんでしたか?」

確かに町を歩いている最中に温泉という文字が複数見えていた。

リンナに限っては夜ご飯探しにぞっこんだったためか気付いていなかったようだ。

そこでエルドが興奮したように口を開く。

「ちなみにそれって混浴---」

「ではないです」

「あっはい」

エルドのテンションが見るからに下がっていた。

その様子を見たリンナとララは「これだから男子は」と引いていた。

エルドを男子代表にはしないで欲しい。

そのやりとりを見た少女はただ笑っていた。

「皆さん仲いいですね。旅に出られてどれくらいになられるんですか?」

「初日」

「え?」

「だから今日から」

リンナがあっさり言ってのけると「ふええ」と少女は目をぱちぱちと瞬かせて驚いていた。

「初日でそんなに仲良くなるものですか? あ、昔から知り合いとかだったり?」

「別に仲良くないわよ。このちっちゃいララって子とはいとこだから長年の付き合いだけどこの二人に関しては出会って1週間も経っていないわ」

「それは凄いですね・・・・・・」

確かに凄いかもしれない。

僕だって今日一緒に旅をしていて初日から馴染めていることには今更ながら驚かされる。

「で温泉はどこ? 私早く入りたい」

「あ、分かりました。こちらになります」

こうして僕たちは温泉に入ることになった。


✽✽✽



「ふういい感じだ」

僕は温泉に浸かりながら空を見上げる。

そこには星の海が広がっていた。

まさか露天風呂だとは思っていなかったけれどこれはラッキーだ。

都会育ちの僕は星空なんてまともに見たことが無かったのだ。

ただただ感動だ。

こんな光景なかなか見れない。

「ちぇ・・・・・・混浴ならなー」

満面の星空に興味を持つことなく顔を半分湯に沈めて泡を出しているエルドがいた。

エルドは不機嫌そうだった。

「なあ尚也。お前の世界では混浴なのか?」

「そんなわけないじゃん。ここと一緒だよ」

「そっかー・・・・・・ぶくぶく」

エルドが死んだような目をしていた。

彼はそこまでリンナとララの体が見たかったのだろうか。

エルドが急に「はっ」と顔を湯から上げた。

「そうだ・・・・・・隣は女風呂! あの柵によじ登ってこっそり覗けば!!」

ばっと全裸で風呂から出ようとするエルドの腕をグッと引っ張り半ば強制的に戻す。

「おわっ! 何すんだよ尚也!!」

「そんなことしたらリンナさんに殺されちゃうよ!」

「リスクを賭してでもやらなければならない時ってあるだろ!」

「少なくとも今ではないと思う!」

「わかってないな尚也は。男は欲望に忠実であるべきなんだよ罪を犯してでも!」

「だから駄目だってば! なんでそんな最低なこと堂々と胸を張って言えるの!?」

「堂々としてないと人間として負けだと思ってさ」

「誇りにしちゃいけないこともあると思う! そんな自分を誇らないで!」

「なんだよー、尚也は見たくないのかよー」

そう言われると思わず言葉が詰まる。

見たいよそりゃ僕だって男である以上はね。

それでもやっちゃ駄目なことはやっちゃ駄目だよ。

「尚也は真面目なんだなー。もうちょっと俺を見習えよ」

「ごめん、今のところエルドをリスペクトするところがまったく見つからないよ・・・・・・」

「俺のイケメンな顔とかイケメンな立ち回りとかイケメンな戦い方とか色々あるだろ」

「残念ながらどれも参考にしたくないよ・・・・・・」

自称イケメンとか痛すぎるにも程があるぞエルド。

こいつ黙ってたら普通にモテそうなのに喋ったら残念な感じが凄くする。

調査兵でも浮いてるんだろうなー、とまで考えたときそういえばと口に出す。

「そういえばさあ、調査兵って何をする組織なの?」

「唐突だな。ていうか知らねえの?」

「まだこの世界に来て1週間も経ってないし。この世界のことまだあんまりわかってないんだ」

「そうか。調査兵はな、各国に1つずつ構える組織で主な目的としては世界の異変の調査やモンスター討伐を行っている組織だ。まあ名前が調査兵だけに基本的には世界の調査をすることになるな」

「前に会ったときのは?」

「あれは森に見たことのない花のモンスターがいるから調査しろっていうのと、できたら討伐っていう奴だったんだ。まあ、お前に倒されたんだけどな」

「あ、あれはその」

僕は気まずそうに口をもごもごとさせる。

「それが伝説の勇者の力って奴なのか? 話は聞いたけれど尚也は覚醒すれば最強の力で敵を圧倒するってな。俺は実際は見てないから知らねえがな」

「・・・・・・」

「いいねえ覚醒か。俺もそんな力があったらな」

「別にいいものじゃないよ。覚醒って言っても他の誰かに乗っ取られているような感覚なんだ。だからそのときは自分をうまくコントロールできないし、むしろ勝手に身体が動くのは怖いよ。想像するだけでも身震いする」

「そっか。悪かったな、お前も苦労しているんだな」

エルドが優しい声色で僕を慰めてくれる。

やっぱりエルドはいい人だ。

エルドだけじゃない、リンナもララも心の奥底では優しさで溢れている。

ララに関しては今日のことがあるから真偽は不明だが。

でもそれでもこの世界は僕を暖かく受け入れてくれる。

冷たく拒絶された---あの世界なんかよりも何百倍も素晴らしい。


『死ねよ』『キモイんだよなよなよしてクズが』『とっとと失せろゴミカス野郎』


辛い日々だった。


あの世界では僕は---


「おい、尚也。なんで泣いているんだよ・・・・・・」

はっと気がつけば僕の両目からは涙で溢れていた。

手で拭おうとするが拭いきれない。

「ごめんこれ嬉し涙なんだ」

僕は泣き笑いを浮かべてエルドに言う。

エルドは神妙な面持ちで僕を見つめる。

「そう、なのか?」

「うんごめんね。なんでもないから」

「そっか。何があったか知らねえけどよ」


---まだ旅は始まったばかりだぜ? これからもいっぱい楽しいことがあるはずだ!



楽しいことがある、か。


僕は改めて生きていることの喜びを確認することができた。


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