お休みなさいと思ったら
尚也とリンナの久々の絡み
風呂から上がって部屋に戻るとリンナがぐだーっとベッドの上で寝転がっていた。
僕は覗き込むように彼女を見つめる。
「リンナさん、どしたの」
「ん? 尚也か~。いやちょっとのぼせちゃってね」
たはは、と顔を赤くしているリンナの元に冷たい風が吹いていた。
それはどうやらララの杖から出ているようでララは口を尖らせていた。
「リンナさあん、私の魔法こんなことに使うのおかしくないですかあ?」
「そう怒らないでよララ。長い付き合いでしょ?」
「うー」
ララが納得いかないという顔でリンナを見ていた。
僕の隣の人は目をハートマークにして
「はう! 風呂上がりのパジャマ姿のプリンセスもありだ!」
「ああん? エルなんとか卑猥なこと考えてないでしょうね? 削ぐわよ」
鬼の形相で睨みつけるリンナに「ひい」とエルドは情けない声を上げる。
度胸があるんだかないんだか。
「ていうか眠いし。もう寝ましょうよ」
とリンナが言ったと思えば電気が消えた。
リンナが器用に足先でスイッチを押したようだ。
「こらこら見えないじゃん!」
「頑張ってベッドにたどり着いてねじゃあお休み」
ふわあと大きなあくびをしてからリンナはすやすやと寝息を立て始めた。
「ララいつまで魔法を使えばいいんだろお」
ララが物悲しそうに杖から冷たい風を出していた。
しーらないっと。
僕はなんとかベッドにたどり着くとそれに身を委ねた。
目を瞑る、と同時に色々なことを考えてしまう。
---生きていれば楽しいことがある、か。
この世界でははじめこそ恐れ戦いたものの今のこの状況を考えてみれば僕は生きていてよかったと思う。
この世界は僕を拒絶しない、それどころか僕を暖かく迎え入れてくれる。
僕のいた世界で僕の居場所なんて無かった。
暗いじめじめした隅に僕は体育座りをしていただけだ。
もう涙が出ないほどに僕は衰弱していた。
そんな僕にも幼い頃に夢があった。
抱えきれないほどの大きな夢。
両手いっぱいに僕は夢を持っていた。
そんな大それた夢が叶わないと知ったのはいつだったか。
僕は---誰にでも嫌われる少年だったのを思い知らされたあの時だったか。
親曰く僕を見るだけで腹が立つとか学校の奴らもそれと同じようなことを言っていたような気がする。
僕は何もしていなかった。
ただそこにいた、それだけ。
それなのに僕はいじめられた。
世界が僕を拒絶していた。
お前の居場所なんてないって。
お前なんて死んでしまえばいいのにって。
それを、ずっと我慢した。
嫌になるほど我慢した。
辛くて辛くて倒れそうだった。
それでも僕は負けないようにぐっと歯を食いしばって生きた。生き続けた。
生涯孤独だっていい、だから。
でも、負けてしまった。
ある一瞬ほんの一瞬の出来事。
僕の中に生まれた一つの感情。
「どうして僕は生き続ける必要があるのだろう」
それは地雷だったんだ、考えてはいけないことだったんだ。
たった一つのミス。
完璧に耐え抜くためにはこの綻びだけは無視するべきところだった。
もう一歩で、あともう一歩だった。
でも僕は失敗してしまった。
それから僕は自殺しに学校の屋上から飛び降り自殺を試みようとしたのだ---
で。
どうしてか僕はこんな所にいるわけで。
今更ながら頬をつねってみる。
普通に痛い。やっぱり現実なんだ。
いや当然わかっていたんだよ。
体の全感覚がこれはリアルだって告げているもの。
こんな夢存在するはずが無いってわかっていたんだ。
でもそれでもこんな夢みたいに楽しい日々が来るなんて思いも寄らなくて。
そう考えるだけで僕は報われたって思った。
今まで我慢してきたのにも意味があるんだって。
辛くても悲しくても生きてきたのには意味があったんだ。
「・・・・・・尚也まだ起きてるの?」
不意に隣からリンナの声が聞こえてきた。
「起こしちゃった? ごめんなさい」
「別に謝らなくていいわよ。で、どう? こっちに来て」
リンナは実にタイムリーな話題を提示してきた。
僕は素直に率直な気持ちを述べる。
「楽しいよ凄く。皆僕に優しくしてくれるし、この旅だって頼もしい仲間に囲まれてわいわいするのは本当に好きなんだ。初めてだよこんな気持ちになったのは」
「そっか。こんなの普通なのに」
「暖かい世界だねここは。モンスターや邪神がいるっちゃいるけれどそれ以外ではとてもいい世界だと思うよ。僕のいた腐った世界よりね」
自虐の意味を込めて僕は皮肉気味に呟いた。
そうだろ実際、この世界は素晴らしいんだ。
異世界から来た僕が言うんだ。絶対なんだ。
でもリンナはポツリとこんなことを言う。
「そうかな、私はいい世界だと思ったよ」
「っ」
「あ、でもホントよ。私は少なくともそう思った。モンスターなんていないから毎日命の危機なんて感じなくていいしそれに何よりも暖かい」
「暖かい? あの世界が?」
僕は耳を疑った。
そんなこと思ったことも無かったのだ。
「だから尚也。どの世界に行ってもその人の主観によっていい世界か悪い世界かは変わるってことよ。わかるでしょ。で、あんたはこの世界を好いている」
その人の主観。まあその通りかもしれないけど。
「でも僕はこの世界の方が」
「別に優劣を決める必要なんてないのよ。でもあんたが本当にこの世界が好きだって言うのなら強くならなければならないわ。この世界のルールに則る必要があるの」
急に強い口調でリンナは言う。
「この世界は力が全て。力がないものはモンスターに食われて死んでしまう、それか社会的地位を失うってひたすら貧乏に暮らしていくか。その二つなわけ。でね、あんたは確かに覚醒すれば凄まじい能力を持っているわ。それは認めるとする。でもね、あんた自身も強くなる必要がある」
「僕自身も強くなる?」
「そう。あんたが本気でこの世界で生きていくとするならあんた自身の力をも強化しないとね。あんた普段は剣すらまともに振れないんでしょ? それじゃあ世界を救うなんて無理」
すらすらとリンナが述べた後彼女は起き上がって僕の方を真剣な表情で見つめた。
「練習するのね一生懸命。私が教えてあげるから」
そう言ってからリンナは僕に何かを投げつけた。
これは---木刀?
「眠れないんでしょ? 私も目が冴えちゃったから今から剣術の練習をしよう」
「今から!?」
そう叫ぶもリンナはそそくさと外に出ていってしまった。
仕方ないな、と僕も木刀を持って外に出る。
でも僕の顔は自然に笑みがこぼれていた。
これで少しでも剣術が上手くなったら内面的にも強くなったりするのかもという淡い願いを抱きながら僕はリンナの後を追った。




