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勇者ナオヤの条件  作者: シググ
旅立ちの章
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6/15

決意を胸に ~旅立ち~

旅立ちの時


「僕は勇者になる」

本当は嫌だった、嫌に決まっている。

それでも、僕は自分自身を変えるために戦おうと思った。

なぜこの世界に来た?

その答えはただ一つ。


---強くなるため。


最初は逃げだった。あっちの世界でうまくいかないのならこっちでうまくやればいいと。

でもこの世界も間違いなくリアルだ。

むしろ僕のいた世界の方がぬるいくらいなのかもしれない。

怪物だってたくさんいる、脅威だっていっぱいあるはずだ。

大変かもしれない、辛いかもしれない。

でも、それは自殺でこの世を去ることよりはずっと魅力的だった。


---リンナに会わなければ僕は死んでいたんだんだ。


死より恐ろしいことなんてない、僕はやれる。

今だって足がすくんでいるけれど関係ない。

僕はこの世界を救ってみせる。・・・・・・僕自身のために。

もう、逃げたくない。


「ふーん、なんだか知らないけど急にやる気になったんだ」

そう言うリンナの目は先程とはうって変わって優しい瞳をしていた。

「リンナさんのおかげだよ」

僕は彼女の眼を見て返す。

「ずっと心の中で葛藤してた、勇者になるかそれともやめるか。当然弱虫の僕はやめることを選んだよ?

でも、リンナさんに言われたことで思い出した。これも『逃げ』になるんだって」

拳をギュッと握り締める。

そうだ僕はいつだって現実から逃げてきたんだ。

いじめが嫌ならば対抗手段を考えればよかったそれだけだった。

僕はただ思考するのを放棄していただけ。

どうにもならない状況であると僕が勝手に逃げていただけだったんだ。

だからこそ今は。


「もう逃げるのは嫌だから。僕は勇者になって強くなりたい!!」



✽✽✽


目を覚ました。

僕はどうやら眠っていたらしい。

ゆっくりと上体を起こす。


「安定の寝坊ね尚也」


「うおっ!?」

僕は思わず体をのけぞりベッドから落ちてしまう。

ずてーんと情けない尻もちをついてしまう。

「あはははははは! だっさっっっっ!!」

「笑わないでよ」

僕はふてくされた顔を浮かべると「ごめんごめん」とリンナは謝った。

「ていうかそんなにチキンで大丈夫なわけ? こんなことで驚いてるようじゃ先が思いやられるわ」

「うるさいな、大丈夫だってば」

「ならいいけど。それよりあんたわかってるでしょうね? 今日のこと」

リンナは急に声のトーンを変えてきた。

僕は頷く。


「今日が旅立ちの日だよね?」


そう今日は僕たちの旅が始まる日だ。




「この旅の目的はわかっておるな尚也よ」

王様はいつもの通りに厳しい表情を浮かべていた。

その隣には珍しく王妃と見える女の人が座っていた。

「分かっています。残りの3人の勇者を見つけ出すことと世界の異変を調査することですよね」

「ああ、その通りだ。ちなみにまず始めに向かってもらうところは東の国エグディスである。他の国は何人かの兵士によって勇者を探させる、ここまで分かっておるな」

この旅の目的は勇者を揃えること。

つまり手分けして探した方が効率がいい。

国民達にそのことを伝えてしまえばいいのでは? と王様に尋ねたところ

「それでは駄目だ。邪神の復活など知ればパニックや混乱で満たされてしまうだろう? ただでさえその影響で今は魔界の怪物と戦う羽目になっているのだ、内密に頼むぞ。時間はまだなんとか残っておる。バレないよう慎重に探すようお願いする」

とのことだ。

いまいち納得はできないがその方がいいと王様が言うのならそうなのだろう。

まだこの世界のことはよくわかっていない身からすればそんなことを言う権利もないのだ。

「じゃあそろそろ旅の仲間の紹介といこうか」

王様はそう告げると、扉から3人入ってきた。

リンナがいることは当然わかっていた。

ただ他の二人については何も聞かされていない。

ぱっとその3人を見ると


---全員見知った顔だった。


「お、お前が伝説の勇者だったのかよ!?」

まず驚きの声を上げたのはどこかで見たツンツン頭の黒髪の少年が驚愕していた。

ああ、確か人喰い花に食われていた時に助けようとしてくれた調査兵の少年だ。

名前は----知らないや。

そしてリンナ。いつも通りに煌めくブラウンの髪と翡翠色の瞳が僕を捉えている。

そして最後に小さな小さな影。

---って!?

「ララちゃん!?」

幼い顔立ちをしたピンク色の髪を羽のような髪飾りで束ねたララがそこにいた。

「はい、ララはララですう」

にこりと笑って若干ずれた答えを出していた。

思わず僕の思考が停止する。

え、なんでララちゃんがこの旅に?

「あんた知らないの?」

リンナが安定の呆れた表情を浮かべていた。

相変わらずリンナは人を見下しているような印象しか受けない。

「ララはこの歳でも最強クラスの魔道士なのよ」

「え? えええええええええええええええええ!?」

「はい、ララはAクラスウィザードとして名を馳せるほどの実力はあるんですよお、知りませんでしたかあ勇者さん」

嘘だろ、マジかよ!?

なるほど、ならばこの旅に同行する理由も頷ける。

「ていうか僕と彼以外最強のメンバーですね・・・・・・」

「おいこら、それ俺のこと言ってんのかてめえ」

調査兵の少年が僕にガンを飛ばしてきた。

僕は「どうどう」と優しくなだめてあげる。

「馬じゃねえよ俺は!? 俺だって最強の調査兵だからな!」

「へー」

「何その信用してない目! あの時は油断しただけだからな! ていうか俺のディスペルが無かったらお前は死んでたんだからむしろ感謝しやがれ!」

「あーそっか。あの時はありがとう。助かったよえーと」

「エルド・ナッシュだ。エルドでいいぞ尚也」

「エルドありがとう」

なんとか彼の名前も聞き出せたしさらに仲直りもできた。

と王様のごほん、と咳払いが聞こえた。

「その4人で旅に出てもらうぞ、わかったな尚也よ」

「はい、わかりました」

うむ、と王様は満足げに微笑んだ。

黙っていた王妃も「頑張ってね」と微笑んでくれた。

「リンナよちょっと来なさい」

王様はリンナを呼び出す。

「何よ」と不機嫌そうにリンナは王様の元へ向かうと王様と王妃はリンナを抱き寄せた。

「ちょっ!? 何よ急に!?」

頬を赤らめたリンナを離そうとしない二人。

「本当は行ってほしくないんだよリンナには」

王様は名残惜しそうに彼女を抱き寄せる。

「でもお前は力があるから。彼らに必要な力があるから」

王妃もリンナの栗のように明るい髪を優しく撫でながら囁く。


「無事に帰ってきてねリンナ」


「っ! わかってるわよ! そんなに心配されなくても私は大丈夫だってば!」

そんな彼女の態度とは裏腹に彼女から生えている翼は一層輝きを増しているように見える。

翼には感情が現れるとリンナは言っていた。

だから心に嘘はつけないと。

リンナは嬉しいのだろう、心配されることが。

その光景を見て僕は。

僕は。

僕は。



『あんたなんて私の息子じゃない。あんたみたいな子望んでいなかったのに!』

『お前なんて俺の恥さらしでしかない。いじめられる? お前が軟弱だからだろ!』



「勇者さん? どうしたんですかあ?」

ララの声ではっとする。

「な、なんでもないよ」

僕は無理やりに笑顔を作る。

ララは何かを感じ取ったのか「そうですか」と引き下がってくれた。

僕は何を考えているんだろう。

今は旅立ちだ。


さっきみたいに旅立ちに胸をワクワクさせたらいい。


「リンナ行くよ」

自然な感じで口から出た。

「わかってるわよ! そろそろ離してよパパとママ!」

名残惜しそうにしながらもリンナは王様と王妃の手を払ってこっちにやって来た。

「い、行くわよ! 恥ずかしいところ見せちゃったわね!」

顔を赤らめてそっぽを向くその仕草にずきゅんと来た。

なにこれ可愛い。

リンナの態度はとても可愛かった。

照れている様子は何にも例えられない、ただ愛らしいというだけだ。

他の二人も一緒だったようで二人は行動に出始める。

「リンナさん、超可愛いですう!」

「は? 何言ってんのよララ、ってちょっとあんたまで抱きつかないでよ!」

「姫様まじラブリー! 結婚して!」

「ちょっ、触るなエルなんとか! あんたに限っては初対面でしょ! ふざけんな!」


・・・・・・なんだかんだで楽しい旅になりそうです。色々残念な面子揃いなのはさておいて。


「戯れてないでさっさと行かんか!」


僕たちは王様の一喝で強制的に外に追い出されましたとさ。






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