勇者伝説
尚也がここに呼ばれた意味とは
「よく来たな勇者よ」
王様は威厳に満ちた態度で僕に語りかけた。
僕は緊張のあまり王様の姿を見ることができない。
「そう固くならんでいいぞ勇者よ」
「ふぁ、ふぁい!」
思わず変な声が出てしまった。
隣にいたリンナが「ぶふっ」と笑った。
ちぇ、悪かったな僕が緊張しいで。
王様がその様子を見て少しため息をついたように見えたが、すぐに言葉を続けた。
「異世界の地からはるばるとご苦労だったな、この世界はどうだ? 慣れたか?」
「はい、それなりーーー」
「聞いてよパパ、こいつったらビッグウルフにびびってやがるの伝説の勇者様のくせに。前代未聞じゃない?こんな勇者」
「ちょっ、リンナさん!?」
余計なこと言うなよ!? 最初から印象台無しじゃん!
王様は「ふぉふぉふぉ」と笑った。
「知っておるよ、リンナ」
「知ってたんだつまんなーい」
「ああ、先程からがっかりしていたところだ」
「!?」
え、既にがっかりされてたの!? それは勇者の扱いとしてどうなの!?
「正直人選ミスな感じはある」
「じゃあなんで呼んだんですか!?」
僕は思わず叫んでいた。
すると王様は「何をいまさら」といった目で僕を見た。
「それはお前の前世が伝説の勇者ファルであり、この世界の『鍵』だからに決まっておるだろう」
「・・・・・・」
僕は一体何なんだろう。
前世が伝説の勇者でこの世界の鍵?
こんな僕が? ちっぽけで何も持たないこの僕が?
「人違いではないんですか王様。だって僕ですよ? 見ていたのならわかると思います、僕は弱い。身体的にも精神的にも」
「そうだな、人違いであってほしいものよふぉふぉふぉ」
なんなんだよこの人。
僕はちょっとだけ苛立ちを覚えた。
「怒っておるのか?」
「別に」
「ふぉふぉふぉ、そう怒るでない勇者よ。お前はれっきとした伝説の勇者じゃ安心せい」
「じゃあひとつお聞きしますよ? どうして僕の前世が伝説の勇者であることがわかるんですか?」
王様は「ふむ」と小さく肩をすくめてみせた。
リンナも同じく肩をすくめた。
「お主自身が一番分かっておるだろうよ。私は見ておったぞ、魔界の人食花を華麗に始末する手際を」
「っ! あれはたまたまで!」
「果たしてそうだろうか。あっちの世界でリンナと対峙したときも互角いやそれ以上の実力を持っているようにも見えたぞよ。そうだろうリンナ」
「ちぇ、見てたんだ! そうよ、こいつ強かったわ。特に何もない場所から武器を生成する能力には驚いたわ」
リンナが少し悔しそうに歯噛みしていた。
王様はその様子に満足そうに微笑んだ。
「どうだ? あれは前世の勇者の力に思えないか?」
「それにしても証拠としては薄いですよ。あんな不確かな力で信じるはずがないでしょう。もっと他に何かあるんじゃないですか」
「お前は面倒な勇者だな尚也よ」
呆れたように王様は僕を見据えた。
うう、わかってるよ僕が面倒な奴ってことぐらい!
でも僕は未だ信じられないんだ自分が勇者だってことを。
そのためには決定的な証拠が欲しいんだ。
「わかったよ、お前に見せよう。私達がお前を伝説の勇者であることを信じさせたものを」
王様はそう告げると、玉座から立ち上がった。
一緒になって近辺にいた兵士達も立ち上がる。
「地下室に眠る勇者の伝説をお前に見せてやろう」
✽✽✽
暗い洞窟のような所だった。
幸い懐中電灯で下が見える程度で真っ暗な部屋だ。
先頭にたつのが王様でその背後に僕とリンナ。
その周りには兵士といったところだ。
「これどこまで続くの?」
僕が隣にいるリンナに尋ねるとリンナは「知らないわよ」と首を振った。
「だって私だって入れてもらったことないものこの地下室」
「そうなのか?」
「ええ、そもそもこの場所のことを知っている者なんてこの城にいるものだってせいぜい1割がいいところよ。しかもこの地下室常に鍵かかってるしパパが開けるときしか入ることができないのよ」
そんなに厳重に管理してあるというこの地下室に一体何があるというのだろう。
そこに僕が伝説の勇者であるという証拠があるというのか。
少し怖いような楽しみなような変な気分になった。
そわそわと落ち着かない様子のまま僕は前の王様の背中を追っていく。
しばらく経ってから唐突に王様が口を開いた。
「着いたぞ」
僕は前を見た、そこには暗くてよく見えないが確かに大広間のような部屋があった。
ぼくのいた世界で例えるとすると甲子園一個分ぐらいの大きさだ。凄く広い。
「ここに何が」
「待ちなさい。今光魔法を使うから。リンナ」
「はいはい任せなさい」
リンナは手を上に掲げる。
「フラッシュ!」
某ポ○モンの秘伝技みたいな言葉を叫ぶと手に光が集まり輝き始めた。
そして瞬く間に洞窟全体が光で満たされた。
暗くてよく見えなかった場所の真ん中に大きな石版が立っているのが見えた。
「尚也よ、あれが伝説の勇者の石版と呼ばれるものだ」
「あれが?」
僕はおそるおそるその石版に近づいた。
石版はリンナの魔法によってよく見える。
それを見た途端僕は衝撃を受けた。
「これは・・・・・・僕なの?」
石版には絵が彫られていた。
そこに描かれている絵には4人の人間らしきものとそれに囲まれた悪魔? らしきものが描かれていた。
そしてその4人の中に僕の顔があった。
リンナは目を瞑りながらスラスラと歌うように語る。
「かつて、数100年に及ぶ邪神と人間の争いがあった。人間は世界を守ろうとし、邪神は世界を滅ぼそうとすると同時に願いを現実にする力を得て、人間の願望や欲望を全て吸い尽くし世界は暗黒に包まれた」
一息ついてから再び語り始める。
「天は荒れ、海は嵐で全てを飲み込む渦を生み、そして大地は枯れ果てていった。世界の人々は世界の終焉をやむなく嘆き悲しむことしかできなかった。その運命を見し天の神、それを許すべからずとて人間の中から4人の勇者を選び力を与えた。4人の勇者果敢にも邪神と渡り合い、長い年月をかけて邪神の封印に成功した、己の命を引き換えにして。彼らはいつしか伝説の勇者と呼ばれることになった---」
「・・・・・・人類は邪神に勝ったって話か。でも、これ昔話なんだろう?」
「話はまだあるのよちゃんと聞いて」
注意を促されたので仕方なく口をつぐむ。
リンナはそれを見ると再び口を開いた。
「これは予言である。また幾数年か経ちし時世界は再び邪神の復活により支配されてしまうことだろう。
邪神に対抗すべき手段、それにはやはり伝説の勇者の力が必要となることである。伝説の勇者に姿形のにた魂宿りし4人の選ばれし者を見つけ出すべし。それらの勇者集いし時、邪神は朽ち果て世界に再び平和を与えようぞ、と」
「・・・・・・」
僕はただ黙っていた。
これが本当ならば僕は。
「一人は異世界の人間界に住む者、一人は北の国エルドラードに住む者、一人は西の国ウェスタンフラット、一人は東の国エグディスに住む者って書いてあるの」
「じゃあ僕がその異世界に住む勇者? ってことか?」
「まあ、そういうことね」
リンナは胸を張ってこちらを見下ろすように眺めた。
「わかったかしら? あんたは邪神を倒すために召喚されたのよ」
邪神を倒す。ピンと来ないがきっと魔王みたいなものであっているはずだ。
そんな奴を僕が倒す?
・・・・・・はは。
乾いた笑みを浮かべながら僕は思わず口に出していた。
「僕には無理だ」
ざわざわとなる。
王様とリンナは呆気に取られた表情を浮かべ兵士の目には侮蔑の色があった。
なんだよその表情!
僕には無理だってば! わかるだろ普通に考えて!
しかし王様はぴしゃりと言い放った。
「お前に拒否権はないぞ尚也!」
「意味わからないよ! なんで僕みたいな弱虫が戦わなくちゃいけない!? なんで!」
「尚也」
リンナがこちらを見ていた。
その表情は凍てつくほど冷たいものだった。
「また逃げるの?」
逃げる。逃げちゃ駄目なのか?
なんでどうして僕はこんなに。
分かっているこの世界を救うには僕の力が必要なんだってことくらい。
それでも逃げることって悪いことかよ?
悪い? いやどう考えてこれは---
『戦えよ』
体の中で何か熱いものが溢れてくる。
この感覚は---覚醒。
乗っ取られる、もう一つの魂に。
感情が上書きされていく感覚。
それをなんとか振り切ってみせる。
それでも視界の隅に映るもう一人の自分の影。
そいつが僕に語りかけるのはただ一つ。
僕と同じ顔をした彼は怒った顔というよりはむしろ笑みを浮かべていて。
彼はたった一言僕にこう告げた。
『自分を心の底から変えたいと思うのなら戦え』
何かが自分の中に流れ込んだ。
そうだ僕がこの世界に来たのは---
「わかったよ」
僕は僕自身の感情で自分自身の言葉で宣言した。
「僕は勇者になる」




