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勇者ナオヤの条件  作者: シググ
旅立ちの章
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4/15

プリンセスリンナと王国

アンキロステラ王国へ

 気づいてしまったことに絶望する、失望する、そして---


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 頭を抱え込んでその場にしゃがみこむ。

 馬鹿みたいな行動だ、だがこうせざるを得なかった。


 僕の中にあった正義感というものが理想からかけ離れていた。

 僕はそれほどに最悪最低な人間であった。

 僕はやっぱり---


「それの何が悪いって言うの?」


 リンナは僕の心を読んだかのような発言をした。

 僕は「え?」とリンナを見つめる。

 彼女の表情は達観しているように見える。

「いじめることを快感に思うことってそんなに悪いことかしら。現に奴らは私達からしたら害悪な存在でしかないわ。そんな奴らを倒して喜ぶのって悪いこと?」

 筋は通っている、でも僕はそれは違うと思った。

「敵であれ、命あるものから命を奪っておいて喜んだり楽しむのは違うと思うんだ。僕はそういうことしたくない」

「優しいのね、表面上は」

 リンナはつまらない、といった顔で僕から目を逸らした。

「表面上ってどういう意味だよ」

「そのままの意味じゃない。現にあんたは敵をぶっ倒すことを快感に思えたんでしょ?」

「うっ、そうだけど」

「私もよ。見ての通り私は敵をぶっ殺すのが好き、ワクワクするくらいにね」

 リンナの目が怪しく輝く。

 爛々と光る瞳に僕は寒気を覚える。

 この世界にいれば僕もああなってしまうのか。

「でもそんなことを思っている私だってこの世界では勇者よ? ほらなんにも悪くない。むしろこっちの方が 全然いいじゃない、殺すたびに苦しむなんて馬鹿らしいわよ」


 そんなことを言う彼女の背後から突如大きな影が襲いかかった、がリンナはその姿を見ることなく片手間程 度に真っ二つに叩き割った。

 パキッという乾いた音と共に青い血がばっとその場に降り注いだ。

 あまりに凄惨な光景だ、吐き気がこみ上げてくる。

 リンナは血の雨を浴び、「あはは」と楽しそうに笑った。

 頬についた青い血を舌で舐めとる。

 

「こんなに楽しいのにあんたは変わってるのね」


 おかしいのは僕なのか?

 いや、違うはずだ。なんだこの異様な世界観は。

 先程助けた少年を眺める。彼もリンナと同じような感覚の持ち主なのだろうか?


「伝説の勇者様なんだからしっかりしてくれなくちゃねえ」

 

 心なしか彼女の翼が漆黒に染め上がった気がした。

 もう駄目だ、このリンナという女を見ていると辛い。

 ほら、頭がくらくらしてきた。

 視界がぼやける、歪む。ぐんにょりと世界がねじ曲がる。

 

 そして、目の前が真っ暗になった。


*** 


 もう目を覚ましたくなかった。

 次に目を覚ますときになったら現実に帰れていてくれ、と心の底から願った。

 全て悪い夢だった、と安心させてくれ。

 そのわずかな希望にかけて僕は勇気を出して目を開いた。


「あ、勇者さんが目を覚まされましたあ!」


 幼い声が聞こえた。

 勇者というワードを聞いた途端に僕は深くため息をついた。

 やっぱり帰れていなかった。

 僕はがっかりしながらもゆっくりと体を起こす。

 そこにいたのは見たことのないピンク色の髪をした女の子だった。

 幼い顔立ちに羽のような髪飾りをしている。

 うん、なんか凄い。

 こんな世界に来て最悪だと思ったけれど、一瞬だけ歓喜した。

 だって僕のいた世界だったらピンク髪の女の子なんか不良しかいないもんね、凄く珍しいものを見れたよ。

「大丈夫ですかあ? なんだかニヤニヤされてますけどお」

「あ、うん。大丈夫だよ。ありがとう」

「よかったですう。ララのハグが効いたですう」

「は、ハグ?」

 思わず聞き返すと俺より頭2個分くらいちいさな女の子は「えへへ」と顔をほこぼらせながら

「ララ、勇者さんをギュッと抱きしめながら寝ましたあ」

「あ、そうなんだ。へえ」

 内心結構ドギマギした、---ってこの子はまだ幼いじゃん!

 決してロリコンじゃないからな! そこだけは否定させてもらうよ!

 強引に話題を変更する。

「えっと、それで君の名前はララっていうのかな?」

「はい、ララはララですう! 勇者さんは?」

「僕は伊上尚也。で、ララちゃんここはどこかな?」

 周囲を見渡したところ随分と綺麗なベッドルームだった。

 どこかの家かな、と思って尋ねてみたのだがララの返答は思っても見ないことだった。


「ここはアンキロステラの王宮ですう」


 ・・・・・・なるほど、勇者あるあるで王様からの呼び出しか。

 きっとリンナも王様の使いだったんだろ、あれでも。

 リンナの姿を思い浮かべただけで顔が強ばった。

 駄目だ、考えちゃ。他のこと考えなくちゃ。

「そっか、じゃあ王様に会いに行った方がいいのかな」

「そうですねえ。ララが目を覚ましたら勇者さんを連れてくるよう言われてるんで」

「うん、じゃあ案内してくれるかな」


 りょーかいですう、と小さく笑ったララは僕の手を引いた。

 僕はベッドから降りると小さな手がどんどんと僕を引っ張って行く。

「こっちですう」

 仕方なく彼女の行く先に身を任せる。

 にしても凄い豪邸だ。こんなところ今まで行ったことないなあ。

 ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると大きな部屋に出た。

 そこに映ったのは


「あ、やっと目を覚ましたのね」


 見覚えのある天使。その途端に僕は思わず眉をしかめた。

 やっぱりいるか、リンナが。

 覚悟はしていたものの実物が現れるとどうしても気分が悪くなる。

「リンナさん、どこ行ってたんですかあ? ララ凄く退屈でしたあ」

「ちょっとお使い頼まれててね。で、今帰ってきたところ。で、今からパパのところに行くの?」

「はい、そうですう」

 ん、なんだこの違和感は。

 がすぐにその正体がわかる。

「ってリンナさんのお父さんが国王なのか!? てことはあんたがお姫様!?」

「ああ? なんか今更じゃない尚也君? 言ってなかったっけ」

 リンナは不思議そうな表情を浮かべていた。

 こうして話している分には普通の女の子にしか見えない。

 ほんの少しだけ気分が良くなった気がした。

「まあそういうことよね、じゃあとりあえずパパの所に行きましょ」

 あっさりとしているんだな随分と。

 まあいいけどさ。

 僕は素直にリンナについていくことにした。

 彼女の背中から生えている白い羽が道しるべかのように落ちていく。

 にしても見慣れないなあ、羽なんて。

 あっちの世界に天使なんて存在しなかったからな。

「そんなに珍しいですか天使族が」

 隣にちょこんと可愛らしく首を傾げたララが物珍しそうに僕を見つめていた。

「ああ、だって天使なんて最早空想上の生き物みたいなものだったからね」

「そうなんですかあ。じゃあ何が存在していたんですかあ?」

「特に変わったものは。基本的に人間しかいないかな」

「へえそうなんですかあ!? サラマンダーとかレプラコーンとかもいないんですか?」

 ララが凄く驚いていた。

 まあ世界の常識が違うというものだろう。

 僕の世界には特にそんなに面白みのあるものはなかった。

「でも私は面白いものをあっちで見たわ」

 不意に前にいたリンナが振り向いた。

「例えばメイドの格好をした女の子にデレデレしてる人とか、ムチで女の人にペシペシ叩かれて

『お許しください女王様ぁ』とか言って喜んでいる人とかいてすごく面白かったわ」

「ええ何ですかそれえ? ララも見たかったですう!」

「いや子供は見ちゃいけません」

 リンナが挙げた人々はちょっとアレな人ばかりだった。

 駄目だ、こんな純粋な子供にそんな変なプレイを見せちゃ駄目だ!

「で、尚也君もそう言うのが趣味だったりするの?」

「そんなわけないだろっ!」

「メイド服なら着てあげてもいいのよ?」

 ふふん、と笑いながらリンナは僕を上目遣いで見た。

 うわ、ちょっと見たい。

 こんな残酷邪道なお嬢様のメイド姿ちょっとだけ見たい!

 何しろリンナは姿形は完璧な美少女なのだ、性格はアレにしても男なら見たい。

 そこで横にいたララが急に薄い胸を張って言ってのけた。

「ゆ、勇者さん! ララだってメイド服ぐらい着こなしてみせますよ! 言われれば裸エプロンだってやってあげます!」

「うんそんなことしなくていいから」

 やめて、何それ。ロリな女の子の裸エプロンなんて僕ただの変態じゃん。

 リンナは眉をひそめた。

「あ、そっち系のヒトなの尚也君は」

「違ええええええええええええええええええええ!」

「そっか幼女に裸エプロンのプレイか。そういう特殊な性癖もあるものなのねあっちの世界の人は」

「何一人で納得してるの!?」

「大丈夫、あんたは勇者だからそういう性癖を持っていてもちゃんと優しくしてあげる。でもあまり近づかないでね」

「なんか理不尽に嫌われたっ!?」

「大丈夫ですう勇者さん! あなたにはララがついています!」

「うん、ありがとう。でもこうなったの全部君のせいだから!」

 ララちゃんはなんて恐ろしい子なんだ。

 「あはは」とリンナは楽しそうに笑っていた。

 と、くだらない会話をしている間に王の部屋の前にたどり着いていた。

「準備はいいかしら」

 リンナは返事を待つこともなく大きな扉を開いた。


「よく来たな勇者よ」


 重みを持った低い声。


 長いヒゲを生やした王様がそこにいた。

 

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