ディアマーク山 1
ディアマーク山編スタートです。
ディアマーク山。
南の国アステルドと東の国エグディスを結ぶ中間地点にある大きくそびえ立つ山である。
比較的モンスターのレベルは弱くそれほど苦戦を強いられず通り道として使われてきた。
そう、至って攻略が簡単な山である、 ---正常な状況であれば。
「なかなか骨がある敵じゃないの」
私は苦笑いしながら長剣を握りしめて戦っていた。
周りには大量としか形容しがたい数の猿のモンスター達。
普通なら焦るような状況ではないのだが、何か様子が違った。
雑魚として知られるエイプモンスターだが、殺意というものをこれほど敏感に感じられるのは初めてだ。
エイプは鋭い爪で一斉に私目がけて襲いかかってくる。
私は一瞬翼で宙に浮かび上がりそれをかわしてみせると、そのまま疾風の如くエイプの腹目がけて突っ込みそのまま貫通させる。
「グガガガッ」
そのままエイプが倒れることを確認せず翼を行使して上手くエイプの攻撃をかわしながら連続で攻撃を仕掛けていく。
やはり空中戦だと圧倒的に有利であり、次々にエイプはその場に倒れていく。
だが私の場合、空を飛ぶことは30分もままならない。
それを承知の上戦うしかないのだが、やはり一人で戦うとなるときついものがある。
「ってプリンセス! あんた一人じゃないぜ! 俺だっているんだから!」
私の心の声を読んだかのように後ろでエル・・・・・・?が叫んでいた。
見ればそれなりのペースでエイプを殲滅していた。
そう、あんたもいたのねそういや。
焦りのあまり存在を忘れていた。
私が焦っている理由はただ一つ。
尚也とララが何者かにさらわれてしまったことである。
油断していたと言えば嘘では無いがあれはあまりに一瞬の出来事だった。
気がつけばたった一瞬で二人は姿を消していた。
「くっ」
未だ魔法を使おうとしても封じられているようで手から光すら現れない。
どうやら調査隊が言っていた異変というものかはわからないがこの山にはディスペル作用が働いており魔法がどうしても無効化される空間と化していたのだ。
その状況下のララはただの女の子、そして尚也も覚醒しない限りただのお荷物の少年。
その二人がさらわれた状況でどうやって冷静になれることができるだろうか。
早急に急がなければいけない。
ただエイプは次々に襲いかかってくる。
苛立たし気に舌打ちすると今度は一気に薙ぎ払う。
ただこれでは致命傷には至らず再びむくむくと起き上がる。
このままではキリがない。
エルなんとかも苦戦しているようでエイプに群がられていた。
「くっそ、このままじゃやべえ!」
そう、やばい。凄くやばい。
今は祈るしかない。---二人が無事であることを。
***
気がつけば僕は牢獄の中にいた。
そして周りには僕と同じく囚われたと思われる人間達が大量に捕まっていた。
「えっと、これは一体・・・・・・」
わけがわからず思わず呟いてしまうと前にいた小太りのおじさんがガタガタと体を震わせていた。
「喰われちまうんだよお・・・・・・俺たちは」
「喰われる・・・・・・? それって一体全体どういうことですか?」
「だから俺たちは怪物に喰われるためにここに捕まってるんだって! さっきだって二人のおばさんがここから消えて帰ってこないんだよ!!」
「そ、そんなまさか」
乾いた笑みを浮かべながらおじさんを見つめるもおじさんの顔はひどく青ざめていた。
僕は思わず周りを見ると皆涙を流しながらその場にうずくまっていた。
その様子を見ると嘘とは思えなくなってきた。
え、何? 僕いきなりピンチな感じなのかな。
「ここディアマーク山ですよね?」
「ああ、そうだよ。我々みなディアマーク山を渡ろうとしていた人だよ、そして捕まった」
捕まったって、僕その当時の記憶が全くないんだけれど。
「そして1時間ごとに見たことのないような化け物が迎えにきて2人ずつここから連れ去っていくんだ、舌なめずりをしながら」
それは非常にリアリティを感じさせ、恐怖感を嫌という程ひしひしと感じさせるシチュエーションと言っても過言ではなかった。
うーん、でも捕まったとするならここから脱出する他手がないように思われる。
不思議と僕はなぜか妙に冷静沈着であった。
そうか、隣に最強クラスのこの子がいるためか。
僕は肘でちょんちょんととなりで眠りこけている女の子を小突いた。
しばらくすると、ララが「うにゃあ」と可愛い声を上げて目を覚ました。
「なんですか、勇者さん。ララはまだ寝足りないですよお」
「ララちゃん! 寝ぼけてないで助けてよ! ララちゃんの魔法を使えばこんな牢獄から脱出するのは容易だよね!?」
「牢獄う? ララ達捕まってるんですかあ?」
いまいち状況がわかっていないようなので僕は彼女にさっきおじさんから聞いたことを彼女に説明する。
「へえ、なるほど。やっぱり普段のディアマーク山とは異なっていたわけですね? まあいいや、とりあえずここから脱出すればいいんですよねえ?」
「そうそう! お願い!!」
そのやり取りを聞いたいた周りの人たちがざわざわとし始めた。
「え、もしかしてその子強力な魔法が使えたりするの?」
「ああ、この子こう見えてAクラスウィザードみたいですよ」
そう説明してあげると急にわあっと大歓声が起きた。
なるほど、Aクラスウィザードとは本当に凄い称号だったらしい。
さっきまでお通夜ムードだったというのに今ではすっかり宴会モードにまで至っていた。
当の本人のララも「ふえっ?」と状況がわからないといった顔をしていた。
「ま、まあとりあえずララちゃん早くここから脱出しよう」
僕が提案すると、ララは頷いた。
「えーと、そうですねえ。じゃあみなさんとりあえず檻から離れてくださーい」
皆、迅速の檻から離れる。
ララは檻を壊す気のようだ。
「なんの魔法がいいかなあ・・・・・・、割と強度が高そうですし上位魔法フレイドでいいですかね」
そんなことを呟きながらララは檻の前に一人で立つ。
その背後に僕たちがドキドキとしながらその時を今か今かと待ち構えていた。
ああ、今日のララはいつもより大きく見える。
それほどにララは大きな存在だった。
そしてその時は訪れる。
「フレイド!!」
その声と共に杖を前に突き出すララ。
そしてその瞬間に前にある檻が激しく燃え上がる!!
---なんてことはなかった。
沈黙。何も起こることなくただ沈黙がこの空間を支配していた。
「・・・・・・・・」
誰ひとり口を開こうとしない。ララは「フレイド! フレイド! フレイドおお!」と何回も叫ぶが何も起こる気配がしない。
しばらくするとララはこちらを見て笑顔を見せた。
「ごめんなさい、この山ディスペルがかかってるみたいで魔法使えませーん!」
それを聞いた皆さんは再びお通夜ムードを再開した。
ていうかそれやばい。ララは最初で最後の希望であった。
それが無理だとするならばどうすればいいのだろうか。
そんなことを考えている内に一瞬ドアが開いてそこから人が投げ入れられた。
「また増えたよ犠牲者が」と言う声からここに捕まっている人のようにこの人も捕まったのだろう。
その人は女の子だった。
目を瞑っていたと思えばすぐに目を開き
「あー、やっと着いた。ま、これで計画通りだぜ」
その乱暴な口調とは裏腹に耽美な姿をした女の子を見た瞬間。
---僕の中で何かが疼いた。




