出発
ようやく一行は村から出発します。長かったかな?
---どれくらい眠っていただろう。
僕が目を覚ますと青い青い空が頭上にあった。
吸い込まれそうなほどに大きな大きな空。
僕なんかと比べ物にならないくらい広い。
この世界に来て不安なことばかりだけれどもこの空を見るとどこか安心できる。
変な話だ。僕は前にいた世界では空を見る余裕なんてないくらいに心が参っていたはずなのに。
たとえ見ていたとしても以前の僕には今より曇って見えたことだろう。
「・・・・・・ってそろそろ起きないと」
ふと時間が気になり起き上がる。
ポケットに入っているララから貰った魔法時計というものを見つめる。
この魔法時計というアイテムはまあいわゆる普通の時計だ。
電池は必要無いらしく魔法で充電するシステムらしい。
ただこの時計かなり見づらい。普段見慣れた時計と異なるところは上下逆さまになっている所だ。
これのように持ち出せる時計ならば逆さまにすれば見慣れた時計と同じように見ることができるのだが、掛け時計となるとそういうわけにもいかず少々苦戦する。まあ慣れるかな。
僕は時計をいつも通り逆さまにする。
「9時35分・・・・・・。やばい怒られるかも!」
僕は傍らに置いていた木刀を肩にかけると宿に全速力で向かった。
息を乱しながら宿の扉を乱暴に開いた。
「ごめん、遅くなって!」
僕は軽く会釈してから中に入ると・・・・・・
「ちょ、流石にプリンセス食いすぎじゃね!? どんな胃袋してんの!?」
「うっさいわねエルなんとか。あんたも男なら私より食べなさいよ」
「リンナさん早朝からノンストップで食べ続けてますう! すごいですう!」
そんな3人の隣の宿屋の娘さんが苦笑いしながら「お帰りなさい」とこちらに会釈した。
うん、なんだろう。今更だけれどこのパーティが凄く不安になってきたよ!
まあ多分この光景を見慣れてしまうんだろうなあ、将来的に。
このまま玄関で30秒位立ち尽くしているとリンナが初めてこちらに視線をよこした。
「あら、尚也いつからそこに?」
「気づくの遅くないかなあ!? まあいいけれど」
僕が呆れていると、残りの二人も追討ちをかけてくる。
「ホントだ、いつからいたんだお前!? 気配を全く感じなかったぞ! すげえな! アサシンできるぞ」
「まあ勇者さんはちょっと影が薄いですからねえ、当然と言えば当然な気が」
なにこれ、この二人僕を精神的に殺しにかかっているんですかねえ?
だが舐めないで欲しい、僕はいじめを10数年耐えてきたという鋼のメンタルをもってすればこんなもの--
「そりゃあっちの世界ではただのモブキモオタ引きニートだったんだから影が薄くて当然じゃない?」
「ぐはあ!?」
リンナの痛烈な言葉に撃沈。
やはり僕の精神力は豆腐メンタルでした。
「べ、別にニートじゃないし! 学生やってたし!」
「その学業すらおろそかにしてたんだからニートであってるでしょ」
うわ、正論過ぎて何も返せないよ。そして立ち直れる気もしない。
「リンナさん、ニートってなんですか?」
「それは、働かない者のことよ。尚也みたいに」
「なるほど、勇者さん=ニートですね! ぴったりですう」
笑顔でそんなこと言わないでララちゃん!?
さっきから君の言葉が鋭いナイフのように僕の胸に突き刺さっているんだけど!
「まあともかくこっちに来て食おうぜニート、もとい尚也!」
「逆だよ! ってこのツッコミ、僕がニートだと認めたみたいで嫌だ!」
わかったこと。
僕のパーティは朝からクッソうるさい。
***
「とりあえずしばらくは村が無いからこの地点までノンストップで進むわよ」
リンナはしなやかな指で地図を山沿いになぞっていく。
どうやらこのディアマーク山を越えないと次の村にはたどり着かないようだ。
さっきとはうって変わって真剣な顔で僕たち4人は地図を囲む。
「まあ出てくるモンスター自体は大した強さじゃないから余裕で乗り越えられるはずよ。でその次には」
「質問いいか?」
「エルなんとか・・・・・・何?」
凄く露骨に嫌な表情を浮かべたリンナに関わらずエルドは口を開く。
「ディアマーク山越えんのってどんくらいかかる?」
「まあ3~4日程度かしら。なにぶん坂が多くて道もゴツゴツしているから時間はかかるわね。何か問題でもある?」
「いやないけど、ただあの山に長居するのは良くないぞ。できるなら2~3日で越えたいところだ」
「・・・・・・どうして?」
「あの山はここ最近邪神の復活により何らかの影響を受けていると調査隊は見ているんだよ。現にディアマーク山は調査対象地に指定されているんだ」
「それは初耳ですねえ。まだ調査隊も公に正式発表してないですよね?」
ララが不思議そうな表情を浮かべる。
「ああ、色々と問題があってだな。まあ多分明日には発表されると思うぞ。まあ要するに油断はせず気をつけろってことだよ」
「なるほどね、わかった。尚也もいい?」
急に振られてドギマギしながらも神妙な面持ちで頷いた。
「じゃあ次に山を越えるルートについてよ。一応メジャーなルートでAルート、Bルート、Cルートの3つがあるんだけれどエルなんとかの言い分を考えるとするとこの最短距離で直進するBルートがいいと思うんだけれどどう思う? このAルートはね---」
山の地図を取り出して指でなぞってリンナは順に説明していく。
そしてその説明を聞き終えた3人は意見を出し合い話は進んでいく。
その中に僕は当然入ることはできなかった。
そもそも僕自身意見を言っていくような性格とは到底離れていた。
参加したい、という気持ちはどこかにあるかもしれない。
しかしそれ以上に僕は劣等感に苛まれていた。
3人とも僕とあまり歳が離れていないのに何かが凄かった。
そうこの3人は間違いなく優秀な人間である。
僕みたいに臆病で存在価値を見出すことのできない人間が口出せる義理はないのだ。
「でそれから---って尚也聞いてる?」
「え、ああ、うん」
随分と曖昧な返事をしてしまった。リンナは冷たい眼で僕を見つめる。
「もし何かあるなら言いなさいよ」
そう言うとリンナは再び話し始めた。
言えるわけないだろう、と心の中で叱責する。
ただ正直リンナの考えるプランにほんの少しだけ得もしれない不安を感じた。
まあ多分杞憂で済むだろう、そう思い直すとリンナの説明に集中する。
ディアマーク山攻略の目処が立ったので預けていた馬を再び引き連れて外に出た。
「エルドラタウン、なかなかいい所だったわね」
ふっとリンナはそんな言葉を漏らした。
「この街の笑顔も守るために早く伝説の勇者さんを揃えなきゃ、ですね!」
ララが笑顔でそんなことを言うとリンナは穏やかな表情でララの頭を撫でた。
そうだ、この旅は世界を救うための旅なんだ。
「頑張るぞ」
と小さく呟いているとエルドが隣に寄ってきて
「じゃあまずちょっとは強くなってもらわないとなあ、伝説の勇者さん?」
その言葉になるべく強い調子でエルドに応えてみせる。
「わかってるよ。僕はこれから強くなるよ」
決意を胸に僕たちはディアマーク山へと向かうのであった。




