朝が来たぞ
こういう回を書くのが好きだったりします
「はあはあ」
僕は息を荒げてその場に座り込んでしまう。
リンナは「ふん」と一息つくと剣をしまった。
「今日はここまで」
彼女の一言で安堵の息を漏らした。
正直もうそろそろ限界だった。
頭がクラクラするし身体中痛い。
「どう? 剣の心得を教えたつもりだけど」
「う、うん。でも、まだ思ったようには剣を使えないよ・・・・・・」
「馬鹿ね。そんなすぐにマスターできるようなもんじゃない、剣術を自由に操れるようになるなんて当分できないわ」
「うへえやっぱり?」
そりゃそうだな。日々の練習と鍛錬が必要なんだろう。
勉強と一緒なんだなそこは。
「今は午前5時ってところね。今から寝る?」
「いや、いいよ。そんなことしたら旅が遅れちゃうだろ? 一刻も早くエグディスにたどり着かなきゃいけないんだからさ」
僕がそう言ってから立ち上がり帰ろうと足を踏み出す。
が、足に力が入らず再びその場に崩れ落ちる。
想像以上に疲労が溜まっているようだ。
もう一度立ち上がろうと体を浮かせると、リンナが僕の身体をドンと押した。
「ここで寝ていなさい」
そう言ってからリンナは川辺から去っていった。
多分不器用な彼女なりの優しさなのだろう。
「わかった、お休みなさい」
僕は先程とは違い、何も考えることなくその場で目を閉じ、深い眠りについた。
***
なかなかに筋がいい。
私は帰りながら先程の練習のことを思い浮かべる。
尚也は確かに剣を振ったこともない素人同然の腕でがっかりしたものの、教え出すと飲み込みが早い。
多分あれだ。覚醒した時に染み付いた体の動きを体が覚えているのだろう。
実際覚醒した彼の動きは見惚れてしまうほどに一流の剣技であった。
さらに剣技とは関係無いが特殊な異能力を持っていた。
私は武器を自分で創造する能力と判断する。
私と戦ったときにはその周辺にあった木を炎で纏わせ剣とした。
パパの言葉によると奇怪な植物モンスター戦では無から剣を創造したと聞く。
そしてその剣は決まって戦闘終了と同時に消える。
面白い能力だ。それを彼が素で使いこなせるようになれば大変な戦力となることだろう。
この旅では伝説の勇者を探すという名目だが世界の異変を直すという意味合いも込められている。
つまり邪神の復活の影響により生まれゆく者たちとの戦闘だって十分に有り得る。
そうとなれば絶対的に戦力は欲しい。
ただ今のままでは尚也は完全にお荷物。
せめて覚醒のトリガーさえ分かればいいのだが本人に聞いてもわからないらしいしどうしようもない。
「まあ、なんとかなるでしょ」
自分の口から出るのは何の根拠もない一言のみ。
どうなるかがわからないから面白い、それが世の常って奴。
退屈な王国でごろごろするよりはずっと刺激的で楽しい。
知らないことだってたくさん学べるし、面白い。
非常に不本意だが昨日食べたカエルの唐揚げは美味しかった。
ホントなんであんなグロテスクなモノが美味しいのだろう、不思議だ。
エルなんとかはうざいけどこの世界の常識的な部分で助かったりする。
「って話が逸れた」
最初尚也について考えてたんだった。
あ、でもそれはどうにかなるっていう判断で締めくくったんだっけ。
じゃあもう解決してるもしかして?
うーん、わかった。
今ひとつだけ言えることはこれね。
「お腹すいたし早く帰って朝ごはん食べよっと」
ほら、腹が減っては戦ができぬって奴よ。
私は食欲に関しては忠実なの。これだけは譲れないわ。
そう思い始めると自然に歩く足が早まった。
決して走ったりはしてないのよ?
まあ普通の人が走るくらいの速度ではあったけれども。
そしてあっと言う間に宿屋にたどり着いた。
入った途端にいい匂いが鼻腔に広がる。
テーブルの上にはパンがいっぱい入ったバスケットが置いてあった。
その隣で宿屋の娘がペコリと私にお辞儀してから
「お帰りなさい。パンが焼きあがったのでどうぞ召し上がってください」
王国の食事もいいけれど庶民の味もなかなかね。
すっかり庶民食に味をしめた私はにっこり笑ってからパンを食い尽くしたのであった。
なんか色々台無しな気がするけどあしからず。
***
ララは珍しく早く目を覚ましたのです。
その理由としてすっごく美味しそうな匂いがしたからです。
ララはすぐにベッドから起き上がるとその匂いのするところへ向かいました。
そして、そこには---
パンを口いっぱいにネズミみたいに頬張るリンナさんがいました。
「・・・・・・・」
「ふぁ、ふぁふぁ!? ふぁんでこんふぁにふぁやくおきてきふぁの!?」
ララ!? なんでこんなに早く起きてきたの!?
とリンナさんは言っているようでしたがそんなことどうでもいいです。
ララはリンナさんのこんなレアな姿初めて見ました。
王国でも確かに食欲旺盛だった彼女ですが、ここまででは無かったです。
多分あれでしょう。
ここのパンがすっごく美味しいんでしょう。
パンが入ってたらしきバスケットの中はすっかり空っぽです。
ただララはそんなリンナさんに感動を覚えるだけでなく愛くるしさを覚えました。
「リンナさん可愛いですう・・・・・・はあはあ」
「ちょ! ゴクン! なんかあんたの目が怪しい光を帯びてるんだけど!」
「朝から可愛いですねリンナさんは!」
「う、うるさいわね。今のはたまたまこのパンが美味しかったからつい」
そう言って頬を赤めてうつむく姿にグッジョブと言わざるを得ません!
普段クールな分こういう所に萌えるんですよ、はい!
ちなみに萌えるという単語は勇者さんがいた世界の言葉でリンナさんから教えてもらった言葉です。
すっごくリンナさんには形容しやすい言葉で気に入っています。
ちなみにリンナさんはギャップ萌えっていう奴らしいです。
勇者さんがこっそり教えてくれました!
「リンナさんは萌えますね!」
「なんでよ! 私に似合わない言葉でしょ普通に考えて!」
「勇者さんも言ってたので合っているかと」
「尚也が? あのムッツリめ・・・・・・」
急にリンナさんの目が鋭く光りました。
まあそれは置いておくにしてリンナさんは可愛いです。
怒っているリンナさんも安定した可愛さです。
正直ララはリンナフリークを名乗ってもいいレベルかもしれないです!
「ちなみに昨日に魔法で男風呂覗いたんですけど、お兄さんが女風呂覗こうとしてましたよ」
「エルなんとかが? 今度あいつもしめるか」
しまいには指をポキポキと鳴らし始めました。
怖いですね~、ぞくぞくしますう色んな意味で。
「はい、新しいパンです」
気がつけば宿屋のお姉さんが新しいパンの入ったバスケットを持ってきてくれていました。
ララはとてもお腹がすいたのでいただくことにします。
一つ気になることがあるっちゃあるんですが。
「リンナさんまだ食べるんですねえ」
「ふぁにふぁわるふぃ?」
何か悪い? と言っているようですね。
悪くないです、むしろそうしておいてください。
パンを食べながらリンナさんに尋ねます。
「そういえば勇者さんはどこに? さっきお兄さんしか部屋にいなかったんでてっきりここにいるかと」
リンナさんはゴクンと飲み込んでから「あいつなら川辺で寝てるわよ」と言いました。
・・・・・・? なんでそんなところで寝ているんでしょうか?
魔法で少しリンナさんの過去を覗きます。
「ははあなるほど、リンナさん勇者さんにさっきまで剣術教えてたんですねえ」
「まーたあんたは人の記憶を覗いて。そうよ、あまりに素のあいつがへっぽこだから鍛えといてやったのよ」
憮然とした顔でリンナさんは人差し指をくるくると回します。
「正直今のところ要らない子ですもんねえ勇者さん」
「あんた随分と毒舌ね。でも伝説の勇者の力は本物よ、あれは私以上の実力であったといっても過言じゃないわ」
「本当ですかあ? ララは見たことがないので俄かに信じがたいですう」
「そのおかげか知らないけど随分と飲み込みが早くて助かったわ。一応今なら弱スライムぐらいなら倒せるわよ多分」
その評価はどうなんでしょうね? 微妙すぎてコメントに困る限りです。
「それでさ、話変わるんだけど」
唐突にリンナさんは声のトーンを変えました。
「今の旅楽しい?」
簡単な質問ですね。
ララは胸を張って答えます。
「楽しいですよ? ララは常に楽しむことだけをモットーに生きてますから!」
「そう」
リンナさんは歪んだ笑みを浮かべました。
どういうことでしょう?
「なんでもないの。忘れて」
そう言われれば問い詰めることはできません。
するとリンナさんは「エルなんとかを起こしてくる」と告げるとベッドの方に行ってしまいました。
正直さっきの言動の意味がわかりませんがスルーすることにします。
『とっとと起きなさい! このエロかっぱ!』
『うひーー!? 朝から何この理不尽な暴力は!? ちょ、痛い! なんかごめんなさいプリンセス!』
---本日のお兄さんの目覚めは最高のようですね。
騒がしい朝です。
そしてとても温かい。
この温かさはまるで----いやなんでもないです。
ララは何も考えていません。
ララは朝ごはんを食べている、それだけです。




