ディアマーク山 2
まだ続きます。
今まで感じたことのない口では表現しがたい感覚。
掴みどころがありそうで、掴めないそんな感覚。
何かに取り憑かれたように僕は立ち尽くす。
強いて言うならばこの感覚は---
「なにじろじろ見てんだアンタ」
はっと気が付けばさっき牢獄に投げ入れられた少女が僕の方を訝しげに睨んでいた。
その子は炎のように紅い髪の毛に猫耳みたいなのが生えていた。
ライカンスロープという種族であろうか。もう既に天使族を見ているので特に驚きはしないのだが。
少女の言葉を訊いた途端に先程まで僕にまとわりついていた感覚が霧散していった。
我に戻った僕は急いで否定する。
「え、いや別に」
僕は彼女から視線を背けた。
と、そんな彼女も「ん?」と一瞬眉をひそめたが、すぐに表情を戻した。
「ま、いいけどな。アタシみたいな美人に見とれてもおかしくないもんな」
随分と自分に自信があるようで胸を張って高らかに笑った。
まあそう言うことでいいや。
なぜかむっと頬を膨らませたララは
「その割には胸が小さいですねえお姉さん」
ぼそっと僕の隣で毒を吐いた。
と、次にララを見たときには胸ぐらを掴まれていた。
「今何か言った、おちびちゃんんんん?」
清々しいほどの笑顔。
ただその笑顔が怖すぎた。
ララはそのままガクッと白目を剥いてそのままうなだれた。
やっべ、あのララちゃんが失禁するレベルなの!?
その様子を見ていた周りが少し凍りついていた。
確かに周囲が引くレベルで洒落にならないドスの効いた脅しだった。
「ってアタシこんなことしてる場合じゃなかったぜ」
失禁しているララをポイッとゴミみたいに投げ捨てると僕の方に目を向けた。
少々嫌そうな声色で、
「じゃあとりあえず、そこのアンタに聞こう」
---次に奴が来るのはいつだ?
***
しつこい。
リンナはばっさりとエイプを斬り捨てる。
が、次々に湧いてくる。まるで無限に存在するかのように。
魔法が使えるなら全体魔法のグラビドンなどで一気に吹き飛ばすことができるのだが、封じられているとなるとどうしようもないのも事実。
邪神のチカラとなればそれは計り知れないほどのチカラだ。
魔法さえ使えれば・・・・・・
「なあリンナお嬢さんよ!」
「何よ今忙しいの」
「いや、こんな時にその扱い!? じゃなくて話を聞いてくれ!」
ああ、うざったい。エルなんとかの話を聞いている暇なんて無いんだけど。
という本心を隠して比較的大人で優しい私は聞いてあげることにする。
「とりあえずあの洞窟へ行くわよ」
大した話じゃないだろうが、話を聞くのなら静かな所へ行きたい。
私は周りのエイプを一蹴するとエルなんとかの服を掴んで翼で飛んで洞窟にたどり着いた。
起き上がったエイプは必死の形相で私達を探していた。
まあ、当分は見つからないだろう。
「やっぱ便利だな空を飛べるのは」
「まあね。純粋な天使族だったらもっと便利だったでしょうね」
人間族と天使族のサラブレッドである私はそれほど空を飛べない。
少々残念だが飛べるだけマシと言うべきか。
って、違う違う。今こんなこと考えてる場合じゃない。
「で、何? 特に期待せずに聞いてあげるわ」
「お嬢様はとことん俺のこと馬鹿にしてるのな!? 俺、こう見えても調査団の一員だぜ!?」
「あなたみたいなのを採用するなんて堕ちたものね調査団も」
「うん、もうそれは聞き流してっと」
エルなんとかは疲れた顔で見たことのないモニター付きの機械を取り出した。
「それなに?」
「これは調査団全員に支給されるモニター付きの通信機みたいなもんだ。で、これを見てくれ」
私はモニターを眺めると×印が散りばめられたここの地図が映っていた。
眺めていると徐々に×印が減っていく。
モニターを眺めながら呟く。
「これは何の印なの?」
「ディスペル作用のある機械だ。今調査団が殲滅にかかっている。これらを全て破壊したら魔法を使えるようになると言われているぞ」
「はあ? じゃあ邪神の復活の影響じゃなかったわけ?」
「いや、正確に言えば邪神の影響で頭の良くなったエイプのせいだ。奴らがこれらの機械を東の国から盗み出してこの山に張り巡らしたんだ」
なるほど、確かに警備用に魔法無力化装置はどの国の王宮にも存在する。
それを利用したということか。
ただ何のために、そんなことをする必要が?
それと尚也とララをさらった理由が結びつきそうだ。
だがその話はひとまず隅に置いておきエルなんとかに提言する。
「じゃああなたが言いたいのはこういう事? 私たちも早急にそれらの機械を破壊にかかるべきであると」
「そういうことだな。魔法さえ使えればララだって突破できるはずだし悪くはないと思う」
これはいい。手詰まりだと思っていたこの状況に光がもたらされた。
魔法が封じられたという最悪の状況を打開するのには十分なほどに。
なるほど、調査団とのコネクションはなかなかに役に立つじゃない。
きっとこれからの旅にも役に立つことであろう。
利用できるものは最大限に利用する。
それが私のモットーである。
「わかったわ。ありがとうエルド」
「え、今俺の名前ちゃんと呼んでくれ---」
「じゃあさっさと行くわよ! 惚けている暇なんてないんだからね!」
「あ、はい。やっぱ幻聴だったかなあ」
ちっ、ちゃんと呼んでしまったわ。
別にエルドに感謝してるんじゃなくて調査団に感謝してるんだからね?
そこ勘違いしちゃ駄目だからね。
うん、誰に話しかけてるんだろ私。恥ずかしい。
「なんか頬赤いよお嬢様」
イラッ。
「うっさい!」
とりあえず遠く目がけてぶん投げる。
「心配しただけなのに、理不尽だああああ!」




