表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

4話

あたしはしばらく頭の中の整理に必死で、寮を見つめながら少し突っ立っていた。

『凪ちゃんどうかしたんでしゅか?お風呂の時間終わっちゃいまちたよ』

『えっ、ああ・・・すみません』

『いいでしゅけど・・・夕食の時間でしゅから来てくだしゃいね』

そっか。そういえば授業が終わってからお風呂の時間だったんだ。

あれ?

でも・・・

あっ、今日は昨日よりかは授業終わるの早かったんだ。

そっか・・・

色んなことで頭がパニックになった。

ゆらゆらとした足取りで、寮へと戻った・・・



食堂に行くと、奈美ちゃんは来ていなかった。

あれから何処に行ったんだろう?

奈美ちゃんは悲しんでいるのかな。

それなのに、あたしはさっき・・・

あれは、克哉君に告白されたってことなんだよね?

奈美ちゃんは克哉君のことが好きなんだ。

だけど克哉君はあたしのことが好き・・・

なら、あたしは誰が好き?


夕食を食べ終えた後は、寝るまで自由時間だ。

あたしは部屋に戻りたくなかったので、少し寮をぶらつくことにした。

そういえばここの寮にはマダ知らない部屋がいくつかあったはず・・・

ここに来て、うまくいけたと思った人間関係。

仲良くなった人は少ないけれど、マダ時間はそんなに経っていないけれど、

だけど仲良くなった人はとてもかけがえのない人で、

だけど、今あたしはそんな二人ともめている。

普通に仲良くしたい。

それがあたしの本音なんだと思う・・・

克哉君が好きとか、そういうのじゃない。

恋愛感情じゃない。

たぶん・・・

あたしは恋愛感情を知らない。

愛情を知らない。

だけど、同時に友愛もわからない・・・

寮をぶらぶらしながらあたしは思考ばかりを回転させていた。

気がつけば全然来たこともない廊下を歩いていた。

『ここ・・・何処だろう?』

どうしよう。迷ってしまった・・・

あたしは困惑しながら辺りをキョロキョロしていると、いきなり声がかけられた。

『凪ちゃん。こんなとこでどうしたの?』

『あっ、竜也さん・・・実は、迷って・・・しまったんですよね』

同じ兄弟。

まあ、本当の兄弟じゃないけど、その弟よりも優しい竜也さんにはどうしてかマダ話せない。

『そうなんだ。良かったら部屋まで送るよ』

『ありがとう、ございます・・・』

あたしは少しだけ安心したように笑みを浮かべた。

『ところでさ、凪ちゃんさっき克哉と何してたの?』

『えっ?』

突然さっきの出来事を聞かれたあたしは不思議さと、どう話せばいいのかという考えに、頭に疑問符を浮かべた。

『告白でもされた?』

『えっと・・・』

どうして知ってるのだろうか。

あたしはそのことに不思議に思うと同時に、少しだけ怖くなった。

この人は優しい人で、たまたま見ただけかもしれない。

そう思うようにしても、あたしの中から恐怖が抜けなかった。

何に怖がっているの?

『俺には言えないってことか。なら、これなら言ってくれるかな?克哉何かより俺にしなよ』

『えっ?』

この人は今何て言ったんだろうか?

克哉君との出来事のことを聞かれていたはずなのに、どうして克哉よりも俺にしろって、それって・・・

つまり・・・

どういうこと?

『俺最初に会った時から凪ちゃんに一目惚れってね』

一目惚れ・・・

つまり、今あたしはこの竜也さんに告白されてるってことなの?

『あの・・・あたし、竜也さんのことはそんなに、知らない・・・ですし』

あたしは俯きながら、ぽつりぽつりと言葉を出した。

『別に付き合うのにお互いのことを知る必要はないでしょ。ってことで、まあ・・・』

竜也さんはそう言いながら、横の壁に向って、否あたしに向って歩いてくる。

自然と後ろに下がって行くと、数歩歩いたところで壁までおいやられてしまった。

『あの・・・』

何なんだろうか。

あたしは不思議に思いながら声をかけた。

恐怖は段々と強まっていった。

『これで、君は俺のものになるんだよ』

竜也さんはあたしに段々と顔を近づけてきた。

もしかして・・・

これって・・・

接吻?

あたしは本などで読んだような出来事が、今自分の身に起こっている何て信じられずに

何度も目を疑った。

それに・・・

『止めて・・・止めてください』

『まあまあ、恥ずかしがらないで』

誰も恥ずかしいわけじゃなくて、接吻をするのはやっぱり好きな人とだから、この人とはしたくない・・・

『嫌・・・』

どうすることも出来ずに、あたしは固く目を瞑った。

だけど、しばらくしても何も感じなかった。

恐る恐る目を開けると、そこには誰もいなかった。

あたしは不思議に思いながら横を見ると、そこには竜也さんと・・・

『克哉君?』

二人が睨み合いながらいた。

『姫路に何しようとしてたんだ』

『何って、見ればわかっただろう?だから止めたんだろう』

苛立ちを見せてる克哉君に対して、竜也さんは余裕そうな笑みを浮かべている。

どうして二人は争っているんだろう?

これって、修羅場って奴なのかなあ?

あたしは二人に声をかけることも出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしているしかなかった。

『兄貴に一つ聞きたいことがある。お前奈美に何言った?』

『ああ、あれかあ。そうだな。女って利用しやすいからさ。一石二鳥って感じだったよ。

お前の監視役が出来て、そして俺に付きまとわなくもなった』

竜也さん何言ってるの?

優しい人じゃないの?

奈美ちゃんを利用してた?

『なるほど。まあ、そんなことだろうとは思ったけどな。性格の悪い兄貴を持って最悪だぜ』

『それ、そのままお前に返そう。だいたい、何でお前みたいな奴がうちの養子になったんだか』

そんなの・・・

だって、養子何て望んでなったわけないのに・・・

『克哉君・・・可哀相・・・じゃないですか。可哀相です。養子はなりたくてなったわけじゃないはずです。

それに奈美ちゃんのことも最低ですよ。人の心を持て遊んだらダメです。

そんなことしたら、いつか一人になりますよ?』

そう、あたしが一人になってしまったように・・・

あの頃のあたしは、本当に最低だったのかもしれない。

誰もあたしに近づかなくなった。

あたしはそれでもかまわなかった。

だけど、今は違う。克哉君が離れたら、奈美ちゃんが離れたら・・・

そう考えるだけで悲しみがこみ上げてくる。

『姫路・・・』

『凪ちゃん。君みたいな子が言ったら綺麗事にしか聞こえないよ?』

あたしみたいな子が・・・

『あたしだからこそ、こういうことが言えるんです。あたしはずっと一人で過ごしていました。

家族の中では一人他人のように、まるでここには誰もいないと言わんばかりの扱いでした。

だからあたしは一人になりたくなかった。でも、そのせいで色んな人を傷つけたんです。

自分の自己満足のために・・・その結果。あたしの周りからは誰もいなくなってしまって、

とうとう親もいなくなってしまったんです』

この事実を人に聞かれることが怖かった。

自分のことを知らない人達ばかりだ。だからあたしはこのことは黙っていようと思っていた。

だけど、話すことに不思議と怖さはなかった。

もしかしたら、聞いてほしかったのかもしれない。

『ふうん。凪ちゃんがねえ・・・で?それがどうしたの。それと俺の話しは関係ないだろ?』

『それは・・・』

関係ない。

あたしがただ話したかっただけ?

違う。克哉君を助けたかった。

『あたしは、克哉君のこと最低の人間何て思いません。

むしろ、優しくて傷つきやすい繊細な人だと思います。

あたしと同じで人と付き合うのが不器用なだけで・・・

それに比べたら貴方は・・・』

どうしてあたし、こんなにたくさん話しが出来てるの?

さっきまで竜也さんのこと怖かったのに、それに話せなかったのに・・・

どうして?

『俺が最低だって?ああ、あれだ。きっと凪ちゃんは克哉に洗脳されてんだな。それとも・・・好きだからかな?』

竜也さんは意地悪そうに言った。

好きだから・・・

そうなのかな?

確かに克哉君のことは好きだけど、でもその好きが友愛のか、恋愛なのかよくわからない。

『いい加減にしろよ』

克哉君は拳を震わせて今にも殴りかかろうとしている状態だった。

『殴るか?まあ、ここでお前が俺を殴れば・・・次はどうなるかなあ?さすがに暴力はまずいんじゃないか?』

竜也さんは更に挑発するような調子で言う。

次はって・・・克哉君いたずらした後ちゃんと罰を受けてたんだ・・・

でも、克哉君はもういたずら何てしない。だから暴力何てしたらいけない。

『兄貴を殴れりゃ俺はどうなろうがいい。姫路にさえ近づかねえのなら』

どうして克哉君はこんなにもあたしの為にしてくれるんだろう。

好きって言うのはこういうことなのだろうか。

恋愛を知っていても、その感情まではわからない。

『カッコいいねえ。でも・・・それは無理だろ?お前がどっか行けば俺はもう凪ちゃんに好き放題だ』

『やっぱりお前は許さねえ!』

克哉君はそう叫ぶと同時に、震わせていた拳を竜也君に向けた。

ダメ。もう克哉君は人を傷つけるようなことをしたらいけない。

『ダメ!』

あたしは克哉君のパンチが竜也さんに届く前に、二人の間に入った。

『っ・・・』

激しい痛みが襲うと同時に、あたしは床に尻餅をつくほど勢いよく飛ばされた。

『姫路!』

克哉君は驚いた顔で急いであたしの元にかけつけた。

パンチをくらった右腕がじんじんと痛む。

『姫路・・・お前何やってんだよ。普通入ってくるか?いや、ていうかお前大丈夫かよ・・・いや、大丈夫じゃねえよな』

克哉君はかなり動揺している様子で、少し挙動不審になっている。

痛みにうまく目を開けることが出来なかったが、あたしは結構冷静だった。

竜也さんは驚いたようにあたしを見つめていた。

そのままずっと黙っていて、しばらくあたし達の状況は変わらなかった。

『凪ちゃん?』

そんな時に寮長のルオさんが通りかかって、この状況に急いであたしの元に駆け寄って来た。

『一体どうしたの』

三人を順番に見つめながらルオさんは不思議そうに尋ねた。

『まあ、とりあえず救護室に運ぶから・・・どっちか手伝って』

その言葉に克哉君ははっとしたようにあたしの元に駆け寄ると、二人であたしを運んで行った。

どうしてあたしはこんなことをしたのだろうか・・・


救護室で治療を終えると、ルオさんが話しを聞きたいと言って、克哉君とあたしを寮長の部屋に行かせた。

『それで、どうしたの?』

『あの・・・あたし達あそこで・・・ふざけていたんです。それで・・・壁に腕をぶつけて・・・』

あたしは嘘をついた。

だって言ってしまったら克哉君が・・・

『あの腫れ方は殴られたようにしか見えないよ?誰かを庇ってるのかな』

ルオさんは優しい調子で尋ねた。

『俺が!俺が殴ったんだ』

克哉君は立ち上がってそう言った。

どうして自分から言ってしまうの?

このままだと克哉君が怒った竜也さんに罪をなすりつけることだって出来るんだよ?

そんなことをしたらいけないことはわかっていた。

だけど、この時のあたしはそれが悪いこととかは考えずに、ただ克哉君が助かればいいと思っていた。

『それは本当かな?』

ルオさんは視線を克哉君に向けながら問いた。

『違います!』

克哉君が言う前に、あたしは叫ぶように言った。

自分の感情を伝えるのは苦手。人と話すのも苦手だ。

なのにあたしはどうしてこんなにも素直に感情が出るのか。

不思議に思ったが、自分の口からは言葉が勝手に吐き出されていた。

『どっちが本当なのかな』

ルオさんは少しだけ困った顔をした。

あたし達以外にももう一人いたことから、二人は庇っていると思ったのかもしれない。

『凪ちゃんは現に怪我をしてるわけだから、これはきちんと聞いておかないといけない。

凪ちゃんが怪我ぐらい良いと言っても、そういうわけにはいかないんだよ』

それはそうだ。

あたしが誰かに殴られた。

否、どちらかに殴られたってなったら・・・

その人に罰を与えなければならない。

あたしだって罰を受けることにはそこまで可哀相とは思わない。

でも、克哉君の場合は違う。克哉君が殴ったってなったら克哉君の悪い噂がもっと悪くなって、

本当に克哉君はもう孤独になってしまうから・・・

今なら克哉君が変われるチャンスだと思うから、だからあたしは克哉君のせいにはしたくなかった。

『ルオさん・・・ここにはあの場にいなかった、もう一人の人が・・・いるじゃないですか。

竜也さんが・・・』

竜也さんがやった。

そう言いたかった。

だけど、言えなかった。

克哉君を救いたい。その為ならば彼のせいにしても良いと思っていた。

だけど・・・

『なら、僕が聞きに行ってくるよ。そこで彼が喋ったことを信じていいんだね?』

ルオさんはすぐに立ち上がると、あたしに優しく問いかけた。

竜也さんに聞けば、絶対に克哉君があたしを殴ったと言うだろう。

それに、もしかしたらもっと悪く言うのかもしれない。

だけど、今どうしていいのかわからない。

『それでいい』

『えっ』

克哉君は素直に、覚悟をしたような目でルオさんに言った。

『それじゃあ、今日はもう就寝時間になるからね。部屋に戻って、明日朝食が始まる前にここに来てくれればいいから』

『わかった』

『あ・・・』

ダメだよ。

このまま竜也さんのところに話しを聞きに行かせたら、ダメだよ。

ルオさんは優しいけれど、そういうところはきっちりとしている。

『姫路行くぞ』

『うん・・・』

止めなきゃダメなのに、だけど止める理由も思いつかないし、それに下手をしたらあたしが克哉君が殴ったってことを

言ってしまいそうだ。

こうなったら事実をわかってからルオさんに頼み込むしかないのかもしれない。



寮長の部屋を出ると、克哉君は黙ってそそくさと歩き出した。

怒ってるのかな。

『克哉・・・君』

『何で俺だって言わなかったんだ』

『それは・・・』

克哉君は振り返ろうともせずに、ただ歩く速さを少し遅くしただけだった。

『克哉君を守りたかったから・・・悪い噂が流れてほしくなかったから・・・だから』

克哉君怒ったのかな?

あたしが勝手に心配何かして・・・

『そんなの・・・俺がお前に危害加えたのは事実だろうが、俺はお前を・・・

好きな奴を殴っちまって罪悪感ばっかなんだよ。だから・・・お前の傷を俺に負わせろ』

『えっ・・・』

やっと立ち止まった克哉君はしんと静まり返った廊下で少しだけ大声を上げて言った。

『あたしは大丈夫だよ。明日になれば痛みだってひくよ』

『そういう問題じゃねえだろ』

克哉君は更に叫ぶように言うと、振り返って少しだけ近づいてきた。

『女に手上げる何て、好きな奴に手あげる何て最低だ』

『でも・・・これはあたしが勝手に巻きぞいになっただけだよ。あたしが・・・』

『何でお前。あの時止めたんだ?もしかして、お前は兄貴のことが好きなのか?そうなのか?』

少し悲しそうな、そして怒りを含んだような目で見つめながら、克哉君は縋るように言った。

『違う・・・あたしは・・・克哉君が暴力振るったらもうダメだと思ったから・・・

竜也さんを殴ったら、あの人は絶対にそのことを皆に言って、もっと克哉君の悪い噂がたって、

そしたらもう克哉君は本当に誰とも話せなくなっちゃう』

『姫路・・・』

克哉君は驚いたような、不思議そうな目であたしを見た。

『お前そんなこと考えてたのかよ。俺は別に他人と話せなくなっていい。

お前は俺といてくれる。俺はお前がいたらそれでいい』

『えっ・・・』

あたしがいればいい?

どうして、あたし何かをそこまで・・・

さっき竜也さんとの時あたしのことを知ったはずなのに・・・

『あたしは自己満足で人を傷つけたような人だよ・・・そんなあたしをどうして?』

『お前が昔どんなだったとか、何したとか。そんなのどうでもいい。

俺は今のお前が好きだって言ってんだ。そんなの言っちまったら俺だって同じじゃねえか』

『克哉君・・・』

こんなあたしのことを、本気で好きでいてくれている。

嬉しい。

だけど、あたしは自分がどういう気持ちなのかマダわからない。

恋愛がわからない。

『今日はもう寝ろよ。俺はお前の心の中で俺が大切な存在になるのを待つ。

俺はお前の為なら何でもする。じゃあな』

克哉君の言葉が胸に染みる。

彼の思いが心に伝わってくる。

それなのに、あたしはマダわからない。

自分の思い・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ