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「はじめは、精神世界の概念は双葉くんの想像の産物だと思って聞いていたんだ」
石山は言った。内容的にはまだまだ序盤だが、ずいぶんと長い間、彼の話を聞かされていたように思う。愛稀はすでに自身の顔に疲れをのぞかせていた。
「実在するわけではない、とね。ただ、それをさまざまな角度から見つめ、検討していくことには価値があると思っていた。思考遊びのような面白さがあった。ところがだ。深く掘り下げて考えてゆくにつれて、私にもそれが真実であると思えるようになってきた」
「洗脳されたということですか」
凜はズバリと訊ねた。
「ある意味、そうかもしれないね」
石山はあっさりと認めた。
「神を信じなかった者が、教会に行って信心のある人たちと関わったり、神父の話を聞いたりしているうちに、いつしか神を信じるようになった――それとよく似ているのかもしれない。ただ、勘違いして欲しくないのだけど、騙されたという意味じゃないんだよ。それを認識するように、双葉くんに思考を誘導されたといった感じだね」
「精神世界が本当に存在すると?」
「ふーむ。それに答えるとすれば、『あるといえばある、ないといえばない』、というところかもしれないね」
「どういうことです」
「この世の真実をどのように見て、どう解釈するかは、観測者によって変わるということだよ。論理的思考や科学的なアプローチは、そのためのいち手段にすぎない。検証を試みた者の考え方や見え方で正解は変わってしまうのだ。その意味では、神を信じるか否か、という議論とさほど変わりはないのかもしれない」
「結論をはっきり言わないことで、議論をうやむやにしているように僕には聴こえますが」
「もう少し柔軟に考えたまえ。君は自己の常識に固執するところがあるようだ。この世界とはまったく違う世界が存在するというのは、私も本当にそうだと思っているんだよ。それを双葉くんは“精神世界”ととらえた。そして、私は彼の考えに沿ってST配列という概念を思いついた、という話だ。――あ、もう分かっていると思うけれど、ST配列というのはいまのSTR配列のことね」
凜は石山の言うことが、半分は納得でき、半分はできなかった。彼は真実を語っているようにみえて、まだ信用ならないような気もしてしまう。だが、凜は疑念をいったん置いて、話を次に進めることにした。
「その精神世界やSTR配列――当時はST配列だったとのことですが――それらの概念が、なぜコスモライフという宗教団体に組み込まれることになったんですか」
「そうだね。そこは続きを話せば分かってくれるだろう。――実はね、私と双葉くんの前にとある人物が現れたんだ」
「誰ですか」
「四華 一郎と名乗る男だ。現在のコスモライフの幹部のひとり、四華 良哉くんの父親にあたる人間だよ」




