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夢の螺旋  作者: Tomokazu
第四章
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 当初は石山と双葉の二人だけで共有していた精神世界の概念だが、やがてそれに関心をもつ学生ができ、議論に参加するようになってきた。その者が友人を誘い、さらに彼が知人を誘い――という連鎖が起こり、精神世界の概念を共有する者たちは学内のみならず学外にも増えていった。

 もちろん、輪が大きくなっても、輪の中心にいたのは双葉である。彼は持ち前の話術をもって、自身の考えを熱弁した。彼に賛同する者はさらに増え、精神世界で繋がれた人々の数は100名ほどに膨れ上がっていた。


 石山はその様子を、双葉の隣に立ちながらも、気持ちでは遠巻きに眺めていた。彼は自身の知的好奇心の赴くままに議論を重ねることは好きでも、それを不特定多数に広める意思はさらさらなかった。

 そこまで躍起にならなくても、説が真実であれば、自然にそれは周知の事実となっていくだろう――。真実が必ずしも世に広まるとは限らないと、石山は後に思い知ることになるのだが、少なくとも当時はそのように考えていた。それに、そもそも石山は他人にさほど興味がなかったのである。その点は、野心家で他者を自分の側に引き込もうという潜在的願望の大きな双葉とは、明らかに違うところだった。


 しかし、精神世界の輪は、双葉の思うようには広がらなかったらしい。事実、彼の話に関心をもつ人間がいる一方で、まったく耳を貸さなかったり、鼻で笑ったりする人がいるのも事実だった。双葉は、なぜ自分の考えはもっと大勢の人に理解されないのかと、よく不満を漏らすようになった。


 そんなある日のこと。

 双葉と石山が医学部棟を歩いてると、前から歩いてきた男性に突然声をかけられた。


「もしかして、双葉くんに石山くんじゃないかな?」


 面長で髪にやや白髪が混じった中年男だった。


「どちら様ですか?」


 石山が訊ねると、彼は「すまないね、突然話しかけたりして」と、ふたりに名刺を差し出してきた。


「四華 一郎……?」


 名前の欄の横には、「R研究所・顧問」とも書かれていた。R研究所といえば、国内最大級の研究機関であり、いわば科学の聖域である。“顧問”という肩書からも、かなり社会的地位のある人物であるところがみてとれる。


「以前より、君たちが唱えているという精神世界の概念に興味があってね。ぜひじっくり話をしてみたいと思っていたのだよ」


 四華の言によると、彼はここ医学研究科の教授とつながりが深く、石山や双葉のこともその教授から聞いていたという。二人の顔写真も彼に見せてもらっていたそうだ。


「ぜひ」

 と、双葉はニヤリと笑って応えた。不敵な笑みを浮かべるのは、チャンスが巡ってきた時の彼の習性である。成功への期待に心が踊るに違いない。確かに、こんな大物が向こうから近づいてくるなんて、滅多にないことだろうと石山も思った。


 双葉と石山、そして四華は、棟内の共用スペースに腰を落ち着けた。双葉は彼に精神世界の概念について、いつもよりも熱がこもった口調で話した。四華は目を閉じて、彼の話を静かに聞いていた。

 やがて、双葉が話し終えると、四華はゆっくり目を開いた。


「とてもユニークな主張だね。論理もやや突飛なところはあるが、おおかた筋が通っている。――ただ、残念ながら、うちの研究所のテーマにはなり得ないな。うちで研究をしているスタッフの多くも、君の論理には共感はしないだろうね」


 途端、双葉の目に失意の色が浮かんだ。四華は付け加えた。


「勘違いしないで欲しい。否定するわけではないんだ。むしろ、私自身はこれまで以上に、君たちの論に興味をもった。しかしながら、現在の世の中の思考が追いついていない。君らは、哲学や思想など、たくさんの学問的観点を総動員させて論理を形成しているところがあるが、いまのサイエンスにはそれらを取り込む土壌がないんだ」


 石山も双葉も黙り込んでしまった。正しかったとしても、現在の文明ではそれを証明することができないと、ズバリ突きつけられたような気がしたのだ。ところが、四華はさらにつづけた。


「実はね、私はR研究所で働く傍らで、別事業も立ち上げているのだよ。“コスモライフ”といってね。現在の科学の可能性を広げながら、もっと多くの人に真理に興味をもってもらうことをコンセプトに活動する団体だ。そこから広めたら、君の説はもっと大勢の人に受け入れられるはずだよ」


「どうやって広めるのですか?」


「まず、精神世界の概念を、わがコスモライフの理念の主軸に据える。そして、それをさまざまな方法で発信するんだ。その傍らで、精神世界の信憑性をより強く伝えるべく、そこに関連する研究も徐々に行ってゆく。広報と実証の両輪を回しながら、少しずつ真実を世に伝えていくということだ。もちろん、研究の資金は私が出そう」


 四華の話を、石山は内心で訝しんで聞いていた。四華の示すその方法に問題があると思ったのだ。彼の言は、真理を解き明かすことよりも、まず世間に広めることを優先しようとしているように聴こえる。それに、後追いで研究を進めたとしても、すべてが証明できるわけではなく、一つの実験で発見できることはごくわずかだ。言い換えれば、証明が仕切れていないものを、真理だと偽って世間に信じ込ませ続けることになる。

 明確に効果が実証されていない成分の入った食品を、健康に良いからといって売りつける悪徳な販売業者に似た手法だとも思えた。明確な商品がない点を考えると、カルト宗教のようでもある。


 しかし、石山に反して、双葉は四華の提案に乗り気だった。彼は真理を追究するかよりも、自身の論理を周囲に信じ込ませることに執着しているようだった。石山は自分の信念と、双葉のそれとに大きなずれがあるように思えてきた。

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