第三話 ゾンビの努力
こうなったら、何が何でも死んでやる。あいつの目の前で死んでやる。
どうしてこんなにむきになっているのかは自分でもわからないけれど、冷静な彼女の対応を見ているとなんだか馬鹿にされているようで、数十年もゾンビをやっているというのに成長していない自分自身が恥ずかしくて……とにかく、僕はあいつの目の前で死んでやるのだ。
いろいろな方法を考えては、僕は彼女の病室に通い詰めた。
「あっ、すまない、頭を拾ってくれ」
今回は首を吊ろうとして、脆くなっている組織がちぎれ、頭が床に転がって行ってしまった。目は見えるのだが、なんせ自分の体を真正面から見ながら操縦したことなんてないもので、何度やっても上手く拾えないのだ。
「あなたって本当に間抜けね」
起き上がるのにも体力を使う彼女は、そう言いながらも僕の頭を拾って手渡してくれた。腐りかけてとろみのある皮膚を、気持ち悪がろうともせずに、触れてくれた。
その次は、毒物を飲もうとした瞬間に検温の看護師が入ってきた。慌ててベッドの下に隠れると、怪訝そうな顔をした看護師が「……あら、この部屋なにか嫌な臭いがしない?」と、臆病者の僕の心臓をわしづかみにしてきた。
「ああそれ、私のおならです。」
「!?」
「先ほど、大きなおならが出ましたもので」
その時、彼女がどんな顔をしていたのかは、後になって考えても分からなかった。ただ一つ言えることは、僕がベッドの下で笑いを堪えて震えていたことと、彼女の声色は相変わらず平坦だったということだ。
お見舞いのフルーツバスケット用の果物ナイフで首を切っても、病室の窓から飛び降りても死ねない僕に、彼女は毎回「馬鹿じゃないの?」と一言言って、終わり。それだけの時間が、一週間、半月、一か月、続いた。
自分のことを罵りはしても怖がりはしなかった彼女のことが、どうしてか頭を離れなかったのだ。
心の拙い僕には、それが恋というものなのだと、気づけなかった。




