第四話 ゾンビとないものねだり
少女が急変し、集中治療室へ入ったらしい。僕はそのことも知らずに、のんきにいつも通り自殺の準備を整えて扉を開いて、カバンを取り落とした。
東洋人の彼女の名前が「ヨーコ」だというのも、その時に表札を見て初めて知ったのだ。
「あら、来ていたのね。気づけなくてごめんなさいね」
数日後、車いすに乗せられて彼女は病室に戻ってきた。薄く埃をかぶったベッドサイドに手をついて、彼女は僕の隠れているベッドの上に腰かけた。
「……なんで分かったんだ」
「だって、あなた臭いもの」
飄々とした態度の彼女に苛立ちながら、ベッドの下から這い出す。本当は、どれだけ心配したと思ってるんだ、と言いたいのに、実際に口をついて出たのは「どうせ君も僕を置いていくんだろ」という言葉だった。
「簡単に死ねちまう人間はいいよな。どんなに苦しくたってさ、死んでしまえば逃げられるんだろ?」
そうね、と答えたヨーコの瞳は、今までに見たことがないぐらい冷たく暗い光を宿していた。
「ところであなた、最近轢き逃げされたんですって?」
「えっ、どうしてそれを」
「轢き逃げした犯人が怖くなって現場に戻ったら遺体が消えてた、って、ニュースでも噂話でも大騒ぎだったわよ」
「あー……」
数日前に僕を跳ね飛ばしたボックス車の運転手さんに、心の中で手を合わせる。僕はあなたを祟ってなんかいないので、どうかトラウマになんかなりませんように。
「失敗はするにしても、人様にご迷惑はかけるものではないわ」
そう言ったヨーコは、またいつもの無表情に戻っていた。




