第二話 ゾンビと病弱少女
ここは難病治療病棟。大病院の一室に忍び込んだのだが、体に刺さっていたものが引っ掛かり、窓際の花瓶がぐらつく。
「あっ……」
花瓶が割れる音に、少女が目を覚ます。はた、と目があった少女は驚くでも怯えるでもなく、純粋な疑問符を顔いっぱいに張り付けていた。
「あなた……誰?」
僕は体中に鉗子やら注射やらを突き刺して珍妙な格好をしているのだが、病室が暗いためか少女には気づかれていないらしい。
「ぼ、ぼくは、その……」
「ここは深夜の女性病棟よ。分かっていらして?」
僕と同い年くらいのその少女は、やけに大人びた話し方で僕を問い詰めた。
暗闇に目が慣れている僕には、彼女のベッドサイドに、大人が読むような難しそうな本がたくさん積み上げられているのが見える。
「ここに来れば、安楽死の道具があるかと思ったんだ。君、何か知らないかい?」
「あなた、ばかにしてるの?ここは病院、そして生きようとしている人の病室よ」
彼女はゆっくりと上体を起こし、部屋の電気スイッチに手をかけた。
「あっ……」
小さな悲鳴は、彼女ではなく僕のものだ。まるで着替えを見られたかのように恥ずかしく、僕は体に刺さっている諸々を咄嗟に引き抜く。
これが、僕と彼女の出会いだった。
「せっかく生きてるのに死のうとするなんて、贅沢だわ。私への嫌みのつもりなの?」
彼女は苦々しげに僕に言うと、僕がゾンビだということを意にも介さずに、もう一度電気を消した。
「さあ、もう出て行ってちょうだい。さっきも言ったけれど、ここは深夜の女性の病室なのよ」
僕に背を向けて布団をかぶった彼女の腕にはこれまでの点滴の回数を示すあざが黒々と広がっていて、その体につながれた器具を一つでも蹴り飛ばしてやれば、すぐにでも死にそうだった。
「家族を残してとっとと死ねる奴はいいよな」
僕は舌打ちを残して、窓から病室を立ち去った。
……多分だけど、僕はあいつのことが、嫌いだ。




