第8話 ウォーターボールと木材運び
「アルトー、そっち持ってよー」
クレアが木材の端を持ち上げながら、呼びかけていた。
そうだ。まずは依頼をこなさないといけない。ダンが出かけるまでは、ダンの準備した依頼をしっかりとこなすのだ。
アルトは木材の反対側を持ち上げようとする。
「重っ!!!」
クレアが普通に持っていたから、油断していた。
よろめきながらも何とか持ち上げる。
先ほどまでの数倍の時間をかけ、ギルドまで木材を運ぶ。
そして、戻る。また、運ぶ。再度戻ったところで、アルトにはすぐに3本目を運ぶ気力はなかった。
クレアに茶化される。
「アルトよわ〜い」
「ちょっと休憩しよう……水……」
と、ここで、昨日シアンからウォーターボールの詠唱を教わったことを思い出し、テントからコップを2つ持ってくる。アルトとクレアそれぞれの前にコップを置く。まずは自分のコップの前に手をかざす。
「万象を司る水の神よ。我が魔力を糧として、原始の水を此処に顕現せよ。ウォーターボール」
手のひらの前に向かって魔力が吸い出されていくような感覚。ファイアーボールの時と同じだ。
しかし水は出なかった。
何度も詠唱を繰り返す。しかし、一向に水は出なかった。ファイアーボールを初めて使った時のことなんて覚えていない。新しい魔術って、そんなにすぐに使えるものではないようだ。
横でアルトを見ていたクレアがふと、自分のコップに手を向けた。
「番頭は水の神よ。私の魔力を買って、水を……なんだっけ?売ってくださいだっけ?」
何か色々違う。水の神様は水を売っている商人ではない。アルトが訂正しながら教えてやる。
詠唱を覚えるのに時間がかかる。やっとのことで全文覚えた。
改めて、クレアが挑戦する。
「万象を司る水の神よ。我が魔力を糧として、原始の水を此処に顕現せよ。ウォーターボール」
その瞬間、手のひらくらいの水の塊が勢いよく放たれ、クレアのコップを吹っ飛ばした。
「魔術!面白い!!」
クレアは立ち上がり、吹き飛ばされたコップに駆け寄り、再度詠唱。またコップが吹っ飛ぶ。もう一度詠唱した直後、クレアがばったりと仰向けに倒れた……。
「あれ……動けない……」
アルトが近づきながら言う。
「魔力切れだね」
アルトは正直、悔しかった。剣、力だけでなく、魔術の才能でもクレアに劣っているのかもしれない。
倒れた拍子にクレアのワンピースの裾が大きく捲れ上がっているのに気付く。
「クレア、パンツ……」
クレアは今日も白いパンツを履いていた。
クレアは顔を赤くして呻く。かすかに手が動く。だが、しかし。
「むー。うぅ……ダメ、無理」
そのまま寝入ってしまった。
アルトはクレアのワンピースの裾を直した。
傍らに座り、ウォーターボールの詠唱を繰り返す。
太陽が真上に来た頃、やっとアルトの手からウォーターボールが放たれる。
クレアの時と同様、コップを吹き飛ばす。すぐに制御はできない。
近くの木に向かって何十回も詠唱し、ウォーターボールを放つ。
ファイアーボールと似た感覚、けれど、少し違う。水を作り出す感覚を覚える。
納得できたところで、詠唱をやめる。
「ウォーターボール!」
これは上手くいく。次の完全な無詠唱も問題なく成功する。次は木に発射せず、コントロールすることだ。
これはファイアーボールと同じイメージでできる。
手の先に作られるウォーターボールはアルトと魔力的につながっている。目には見えない。もう1本の手でウォーターボールをつかんでいるイメージだ。つかんだ水をコップの中に入れ、発射しないようにそっと離す。
アルトはコップをつかみ、水を飲んだ。のどはからからであった。
次はブリーズステアだな。
「巡る大気の理よ、器の内に見えざる指先を這わせよ。千の風を縒り合わせ、異なるものを一つに融和せしめん、ブリーズステア」
うろ覚えの詠唱を唱えてみる。クレアの当てずっぽうの詠唱よりはよっぽどマシなはずだ。
今回はウォーターボールの時と違い、魔力が吸い出されていくような感覚が一切ない。
どうやら、詠唱が違うようだ。シアンに、また教わらないといけない。
アルトは両手を上げて仰向けに寝ころんでつぶやく。
「もっと練習しないとなぁ」
クレアの顔がすぐ近くにあった。気持ちよさそうに寝ている。
魔術の練習に没頭して、忘れていた。木材はあと6本残っている。
ダンが出かけるまでは、ダンの準備した依頼をしっかりとこなさなければならない。そういう計画だ。
起き上がり、クレアを起こしにかかる。
ついでに朝の仕返しをしてしまおう。クレアの顔の上にウォーターボールを作り出す。そして、落とす。
「ひゃ!」
クレアが跳ね起きた。何度も瞬きをした後、首をぶるぶる振った。
アルトはクレアのコップを拾う。吹き飛ばされ、そこら中を転がって泥だらけになっていた。改めて、ウォーターボールを作り出し、その中で、コップを洗う。ウォーターボールって便利だ。
さらに作ったウォーターボールを注ぎ、クレアに渡す。
クレアが目を輝かせる。
「もうウォーターボール使えるんだね!アルト、天才だね!!」
屈託のない笑顔。しかし、アルトは微妙な気分だった。




