第5話 冒険者の掟とパーティー『魔剣』
メリルからカードを受け取る。2人のカードにはアルト、クレア、それぞれの名前が記載されており、同時にFランクと記載があった。また、魔術師、戦士の記載があり、そこには「ランクなし」と記載されていた。
メリルから、ざっくりとした説明があった。
まず、職業のランクについては、職業ごとのギルドで、判定されるということ。
ポルケ村には冒険者ギルドしかないため、実質的にランクアップは不可能だということ。
基本的に同一ランクの依頼を10回連続で成功することが昇格の条件となっていること。
ただし、Cランク以上に上がるためには他にも条件があるということ。
それから、ランクに関わらず、3回連続の失敗で、降格となること。
Cランク以上の冒険者には独特のルールがあった。まずは住居の登録だ。住居を持たない冒険者はCランク以上には上がれない。そして、希望するランク以上の冒険者5名、もしくは5つのギルド、貴族、王族いずれかからの推薦が必要となる。
つまり、強いだけで上がれるのはDランクまでで、Cランク以上で重要なのは社会的信用ということだ。
このため、Cランク以上の依頼は護衛や警護が中心のものとなる。当然のことながら報酬も多い。
この仕組みには問題もある。Dランク依頼の難易度のバラツキが激しいということだ。当然、死亡率も高い。社会的信用がないDランク冒険者は、言わば使い捨てということであろう。
反面、Cランク以上の信用は厚い。移民、奴隷上がり、孤児、他種族、どのような者であっても、Cランク以上になると、国民と同等の扱いを受けることができる。
もっとも戦争中などは、他国の冒険者は疎まれることとなるが。
「冒険者登録完了、おめでとうございます」
メリルが言う。クレアは満面の笑みである。アルトは複雑な表情だ。
メリルが続ける。
「パーティーも登録していく?」
「パーティー!いいね!!」
クレアは乗り気だ。アルトはもういろいろ諦めていた。クレアはどんどん話を進める。
「アルト!パーティー名はどうする?」
アルトにもクレアにも命名のセンスなんてなかった。しかし、クレアはどんどん提案してくる。
「戦士と魔術師のパーティーだから、『戦士と魔術師』は?」
そのままだ。パーティー名ってそんなものなのだろうか。
「私とアルトのパーティーだから、『クレアルト』は?」
なんだか妙に響きが良いが、安易すぎる。そして、他の人がパーティーに入る余地がない。そもそも他にパーティーメンバーが増えるとも思えないが。
「私が剣で戦って、アルトが魔術で戦うから、『剣と魔術』は?」
「う~ん……」
アルトは腕組みをして、うなるだけだ。アルトの知っているパーティー名は父親の『鋼の誓約』くらいだ。どういった意味があるのか、なぜその名前なのか。アルトには分からなかった。4歳児の語彙は少ない。
クレアがぶつぶつとつぶやく。
「剣魔術、剣魔、剣術、魔剣……」
「ぁ、それ、いいかも。『魔剣』」
安易な発想ではある。シンプルだ。しかし、アルトにとっても、それは冒険者パーティーとしての体裁を取っているように感じられた。
メリルが2人の冒険者カードを回収し、手続きをしながら、2人に聞く。
「パーティーリーダーはどっちにする?」
クレアが即答する。
「そういうのはアルトで!!」
言いだしたのはクレアなのにズルい。だが、もう、アルトにはどうでも良かった。父にどう伝えるか、それだけを考えていた。
ギルドを出ると、日が傾き始めていた。クレアとは明日から、活動を始めることを約束し、ギルドの前で別れた。クレアのテントは村の東にある。
アルトのテントは、というと西の詰所のすぐ近く、ほとんど森の中にある。アルトが幾度となくファイアーボールでテントを燃やしたため、村に被害が及ばないようにということで、この位置になった。ここ1年、テントを燃やすことはなくなったのだが、父親のダンにとっても目の前に職場があるというのは便利だったらしい。深夜の呼び出しにもすぐに対応できる。
詰所に顔を出す。詰所は木造で村の入口に立っている。実質、関所の役割も担っているわけだ。
アルトは詰所の窓から中を覗いた。幸いなことにダンはいない。代わりにダンの弟分のモックがいた。
モックはDランク冒険者の戦士である。同じ戦士のダンやブロンと比べると、少し細身な猿顔の男である。細身とは言ってもひ弱というわけではない。筋肉はしっかりとついており、十分に冒険者として、活動してきたことが見て取れる。
数年前、迷宮探索を目的として来たパーティーに参加して、ここに来たが、パーティーは帰ってしまった。その際、パーティーを抜け、ダンのもとに残ったのだ。
改めて入口の扉を開け、モックに声をかける。
「モック、ただいま」
「おお、アルト。兄貴なら、なんだか青い髪の偉そうなやつとギルドの方に出かけて行ったぜ」
「え、そうなの?」
父と会わなかったことを不思議に思いながらも自宅のテントに移動する。冒険者になってしまったことをどう説明するか、いまだに決まらない。とりあえず、言いつけられていた焚火だけは準備することにする。
薪を組んで、手をかざす。そして、弱めに優しくファイアーボールだ。発射はしない。薪に火が付くまでキープだ。
薪に火が付いた頃、ダンが帰ってきた。シアンを連れている。
「父ちゃん、おかえりー」
「ただいま、『魔剣』のアルト君」
答えたのはシアンの方だった。楽しそうな声だ。
西日のせいで、ダンの表情は分からない。




