第4話 幼なじみのクレアと冒険者登録
引き返せるか……。
しかし、位置的に考えて明らかにアルトを待ち構えている。
そっと前進し、見えている足を観察する。脛には毛が無い。少なくとも父親ではない。
覚悟を決めて、アルトは生垣から顔を出す。子供の足、足の間から見えるのは白いパンツ、そして、村の女の子の多くが着ているボロいワンピース、胸の前に組まれている腕、そして、ようやく顔が見える。
肩までで切り揃えられた濃いピンク色の髪、緑色の特徴的な目で、ニンマリとこちらを見降ろしている。
同い年のクレアである。
アルトは生垣から上半身だけを出し、クレアを見上げる。
「アルトぉ、どこ行ってたのぉ?」
「ちょっと川に洗濯に」
これはこれで厄介な相手だった。クレアは村の東の入口を守る冒険者、ブロンの娘である。
ちなみにアルトの父は西の入口を守っており、この村に住むものとしては最強の2人で、仲も良かった。
クレア自身も歳の割に強い。数か月前からブロンと剣の稽古を始め、瞬く間に才能を発揮した。魔術を使わないケンカなら、勝てる気がしない。
「へぇ~、おじさんは知ってるのぉかなぁ?言っちゃおうかなぁ」
クレアからの問いには答えず、アルトはクレアの足の間を指さして言う。
「クレア、パンツ!」
一瞬の停止の後、クレアは瞬時に1メートル以上も後ろに飛び退いた。スカートを抑え、顔を赤くし、恥ずかしそうにしていた。
バックステップでこの速度……アルトが勝てるはずもない。
アルトは生垣を通り抜け、服に付いた土を払い落す。クレアはキッとアルトをにらんでいる。
「私も連れてってよ!」
なんとなくではあるが、アルトの予想していた展開だった。
「えー」
渋ってはみたが、アルトに選択肢はなかった。きっと断ったら、勝手に1人で行ってしまう。
そして、絶対に迷子になる。きっと村中大騒ぎだ。大捜索、その後発見、すべてバレる。
「分かったよ、次行くときは絶対に言うから」
「やったー!そうと決まったら、まずは冒険者にならなくちゃ!!」
これはアルトの予想外の展開だ。クレアはアルトの手をつかみぐいぐいと引っ張りながら歩き出した。
「冒険者って何?冒険者ギルドに登録するってこと?さすがに子供じゃ無理だよー!」
クレアは村の中心に向かって歩いていく。
村とは言っても、北側の生垣との境あたりはまだまだほとんど森である。森を抜けると、そこからは大小様々なテントが並んでいる。木造の建物は少ししかない。一応、区画整理だけはされていて、道と指定されている部分にだけはテントを立ててはならない決まりがある。
道に出ると、すぐに村の中心にある冒険者ギルドまで見通せる。
冒険者ギルドと言えどもテントだ。この村でもっとも大きい円形のテント、布地ではあるが、きちんと円形の壁があり、後から屋根に相当する布を乗せるタイプのものだ。
入口は、東、西、南の3か所。そして、テント西側の布地に直接、「冒険者ギルド、ポルケ開拓村出張所」と書きなぐってあった。
北側には入口がないので、西側の入口に回り込み、中に入る。
北側3分の1ほどのあたりにロープが張ってあり、立ち入り禁止の文字。その境界にテーブルが2組ある。ロープの奥には小さめのテントが2つと複数のシート、シートの上には素材、武具、防具、書類などが、一応は整理されておかれている。依頼書の類は南側3分の2の壁に適当に貼られている。
なんとも雑な作りだが、アルトとクレアにとっては、これが冒険者ギルドである。
2人が入ると、すぐに受付のメリルさんが気付き、ロープの向こうから手を振ってくれる。
「アルト君、クレアちゃん、今日はどうしたのかな?お父さんのお使い?」
メリルを見つけると、つかんでいたアルトの手を放し、クレアが駆け出す。
テーブルに到着すると、両手を勢いよくテーブルの上に置く。どん、と大きな音をたてる。
「違います!今日は、私たち、冒険者になりにきました!!」
テンションが高い。対して、メリルはいつも通りの対応だ。
「あら、そう。じゃあ、2人はここに座って、これに名前と職業を書いてね」
アルトもテーブルのところまで来た。
「えっと、年齢制限とかってないの?」
「んー、特にないわね。基本的にFランクの冒険者って誰でもなれるのよ」
アルトにとって、これも予想外の展開だった。
勝手に冒険者になって、父ちゃんに怒られないかな。
冒険者になるだけだったら、別に危ないわけじゃないし……。
というか、そもそも、ここでクレアを説得できるとも思えない。
ここで、余計なことを言って、勝手に森に行ったことがバレる方がマズイ。
アルトは諦め、渡された紙に名前を書く。そして職業だ。ファイアーボールしか使えない魔術師なんているはずがない。アルトの知っている魔術師はシアンのような存在である。しかし、冒険者なのに村人とか書いて良いのだろうか。
クレアの方を見ると、白紙であった。そもそも名前すらまだ書いていない。クレアはキッとメリルの方を見て言った。
「メリル!私、字、書けない!!」
字が書けなければ、冒険者にはなれない。
そういった条件があるのではないか……と、アルトは期待する。
しかし、メリルは答える。
「そっかぁ、じゃあ私が書くわね」
「うん、私が戦士で、アルトが魔術師ね!」
アルトの紙も回収され、残りはメリルが書いてくれた。残りの手続きは何度も見たことがあるものだった。
冒険者カードを綺麗に磨かれた石の板の上に置く。そして板に手を触れる。冒険者たちは皆、依頼を受ける時と、依頼を終える時に同様の手続きを行っていた。そしてそれは、アルトの父親、ダンも同様であった。
わずか4歳にして、2人は冒険者になった。




