第48話 混成パーティーと新しい魔術
最終的にやることは分かった。事前に決められたルートを索敵しながら回るだけだ。『魔石持ち』と言われるヤバイ魔物を見つけたら、渡された魔道具に魔力を込める。そうすると、狼煙が上がり、討伐部隊が駆けつけるという算段だった。
子供の足では大変だろうということで、『魔剣』が受け持つのは一番内側だった。他のパーティーは半周したところで内と外が入れ替わるように配置された。
それから重要事項として、なるべく魔物を倒さないようにという指示を受ける。合計6つのパーティーが一気に森を1周するのだ。生態系への配慮であろう。
指示されたのはここまでだ。ダンやブロンなど、討伐部隊には、それ以後の作戦もあるようだったが、アルトたちが聞かされたのはそこまでだ。
基本的にパーティーは普段のパーティーのままだが、討伐部隊のメンバーから、各パーティーに1名ずつが配置された混成パーティーとなる。
『魔剣』に配置されたのはゼノというゲッソリと痩せこけ、目の下にクマのある補助魔術師だった。ステータス強化系の魔術の使い手らしいが、何ともパッとしない人物だ。
簡単に自己紹介をする。
「アルトです。少しだけ魔術が使えます。このパーティーのリーダーをしています」
次はクレアの番だ。
「……」
忘れていた。慌ててクレアを起こす。
「クレア!起きて!!クレアー」
「ぇ、もう朝?」
クレアはきょろきょろと辺りを見回す。そして、大声で言った。
「私!寝てないからね!!」
次はモックの番だ。
「あっしはモック、2人の子分です!」
ゼノは戸惑っている。そりゃそうだ。アルトは頭を抱えた。
全体で、30人近くにもなる冒険者がぞろぞろと東の詰所へ向かう。これはなかなかの光景だった。ドラゴン退治にでも行くかのような大所帯だ。道すがら、アルトはクレアにやることを簡単に説明する。
「要するに、魔物を倒さずに森を1周すればいいんだ」
「わっかった!」
しかし、どうしたものだろうかとアルトは考える。魔物と遭遇しても倒さずに切り抜けるのは至難の業ではないか。
他のパーティーのように隠密スキルに長けた者もいない。
配置に就いたところで、アルトは3人に聞く。
「で、どうしよっか?」
クレアが即答してくれる。
「木の上を行けばいいんじゃない?」
簡単な解決策だ。今回はそれで行こう。
「んー、じゃあそうするか!」
モックは同意する。
「分かりやした!!」
ゼノが1人疑問の声を上げていた。
「ぇ?はぁっ!?」
森は木が密集している。枝から枝に飛び移りながら進むだけだ。パラライズビーの巣を迂回するのは少し面倒だったが、フォレストウルフもベビートレントも簡単にやり過ごせた。
どうしても枝から枝の距離があるところは、ジャイアントスパイダーの糸で作った縄を使う。モックとゼノのことを考慮してのことだ。
クレアが先に跳び、縄を枝に縛り付けた。こちら側ではアルトが縄を縛り、まずは、モックが縄にしがみついて渡った。次はゼノの番だ。何かをつぶやくのが聞こえる。
「腕力強化、腕力強化、腕力……」
ゼノが渡り終えたら、アルトは縄をほどき、3人が待つ枝に向かって跳ぶ。残念ながらアルトにはクレアほどの身体能力はない。
落下し始めたところで、足の裏で高密度に圧縮させた空気玉を破裂させ、もう1度跳ぶ。2年前にはクレアのスカートをめくることしかできなかった圧縮空気玉もここまで成長していた。
4人は休むことなく、木の上を進み続ける。ただ1人、ゼノだけは疲れた顔をしていた。けれど、初めから疲れた顔をしていたので、変化がないような気もする。
戦闘もなく、余裕があったので、アルトはモックに『魔石持ち』について聞く。
「モック、そういえば、『魔石持ち』って何なの?」
モックの説明を要約すると、魔物には魔石を持ってるやつ、つまり、『魔石持ち』がいて、『魔石持ち』は強力だがこのあたりでは基本的に迷宮にしか現れない。落とした魔石を魔物が拾った場合、『魔石持ち』に進化するということだった。
つまり、迷宮の魔物がこの森に現れるということだ。
そろそろ1周が終わろうかという頃、ゼノが木から落ちる。しかも、運の悪いことに下にはフォレストウルフがいたのだ。
アルトはすぐに縄を下に垂らした。
「ゼノー、登ってきてー」
返事をする代わりにゼノはつぶやく。
「腕力強化、腕力強化、腕力……」
そして、ゼノは縄を掴む。しかし、なかなか上がってこられない。そして、縄から滑り落ち、地面に転がった。これはヤバイ。アルトは次の一手を考える。
自分の使える魔術の中で、フォレストウルフを追い払えそうなものはあっただろうか。そうして、1年ほど前にできるようになった魔術を思い出す。使い道がなく忘れかけていた魔術だ。
失敗できない局面だ。アルトは魔術を口に出す。
「臭い玉!ガラクのおなら!!」
ドワーフという種族的なものなのか、食生活のせいだろうか、酒量のせいだろうか、理由は分からないが、知っている臭いの中ではガラクの屁が一番強烈なのだ。
フォレストウルフは地面に必死で鼻先を擦りつけ、ゼノに向かって吐瀉した。そして、鳴き声とは決して言えないような悲痛な音を喉から漏らしながら、逃げ去っていった。
アルトは木の上から、ゼノに向かって叫ぶ。
「ゼノー!大丈夫ー?」
「ああ……でも……なんで……初めから、その魔術を使って、地面を歩いて森を回らなかったんだ?」
アルトは頭を掻きながら答える。
「ぁ……、今、思いついたんだ」
残りの道のりは悠々と森を歩いた。
元の位置に戻ると、ゼノはすぐにへたりこんだ。ちょうど隣に配置されていたパーティーも戻ってきたところだった。
戦士風の冒険者がこちらに来て声をかけてくる。
「ぉ、ゼノの入ったパーティーも戻ってきたとこかー。まぁ、子供もいるし、そんなもんだよなぁ。ん?ゼノ。森を1周しただけで、もうバテたのか。お前、体力ないからって、一番内側のパーティーにしてもらったんだろ?」
ゼノは答える代わりに言う。
「ザック、こいつら異常だ」




