第47話 6歳のアルトと村の異常事態
6歳になったアルトは森の中を走っていた。後方からは少なくとも30匹以上のフォレストウルフ。
アルトは6歳という年齢であるが、Dランク冒険者だ。フォレストウルフごときに遅れを取ることはない。
アルトは振り返ることもなく、速度を調整する。自分とフォレストウルフとの間の距離が一定になるよう、器用に走り続ける。
実は先ほどから同じところを回り続けていた。さすがに痺れを切らし、叫ぶ。
「で!モック!!一体、何匹いるの?」
「58匹ですぜ!大親分!!」
そこにクレアが割り込む。
「じゃ、もう倒していいよね?」
アルトは低い枝数本を介して、2人がいる木の枝に器用に駆け上がる。
「いいよ」
「やったー!!」
クレアがフォレストウルフの真っただ中に飛び降りる。
落下していくクレアを見送るアルトは声をかける。
「ギルドに持ってくから、綺麗に倒してね」
「わっかった!」
返事をするが早いか、地上から血しぶきが上がり始める。
今日は珍しく、川のこちら側の依頼を受けた。依頼内容は村の北方で発見されたフォレストウルフの群れの数の確認だった。また、倒せそうな数だった場合は追加で討伐も依頼されていた。
これで、依頼完了だ。クレアがいつの間にかアルトの隣にいる。返り血1つ浴びていない。
「思ったより少なかったねー」
3人で地上に降り、テントにフォレストウルフの死骸を運ぶ。テントは中古品ではあるが、魔道具だ。過去にアルトがレンガに埋もれたあのテントだ。大量のレンガと物々交換でガラクから手に入れた物である。
クレアが綺麗に倒してくれたおかげで数えやすかった。アルトが声を出して数えていく。59個の頭と59個の胴体だ。
アルトとクレアはモックに冷たい視線を送る。
「大親分!親分!面目ねぇ!!」
3人で帰路につく。
そう、あれから約2年間、3人は冒険者を続けてきた。ダンからは冒険者はいつ死んでもおかしくない仕事だと言われ続けている。しかし、3人は誰1人欠けることなく、2年間を過ごした。
だからと言って、冒険者が安全な仕事だと思ったことはなかった。飛びあがった先にジャイアントスパイダーの巣があったり、川を渡った先にパラライズビーが待ち構えていたり、そんな危険な目に遭うことはしょっちゅうだ。
そして、何より、Dランクに上がって、それまでと少し景色が変わったというのが大きい。パーティーメンバーを失い、ギルドの端で泣き崩れる残されたメンバー、毎日見かけていたのにある日を境に来なくなるパーティー、貼り出される救出依頼。
今日もどこかで誰かが死んでいく。冒険者はそういう仕事だった。
3人は村の壁にたどり着く。レンガ造りの壁だ。もともとあった生け垣の外側に、この2年間で新たに造られたものだ。村のFランク冒険者の子供たちが総出で積み上げた壁だ。東の詰所まで壁沿いを歩く。
詰所にはブロンではなく、ヒルダがいた。こんなことは初めてだった。
クレアが嬉しそうに駆け出す。
「ママー!ただいまー!」
「帰ってきたか。おかえり。ブロンのやつがギルドに呼び出されちまってよぉ。全く何しでかしたんだか……」
アルトが会話に加わる。
「これから、ギルドに行くから、様子を見てくるよ」
3人は冒険者ギルドに向かう。
クレアの住む家もレンガ造りになった。けれど、東地区のほとんどの家はまだテントだ。景色は2年前とあまり変わらない。唯一違うのは村の反対側に見える西の詰所が塔のようにそびえたっていることだ。この村に初めて訪れる者は西の川を渡って、西の詰所を通ることとなる。このため、西の詰所はランドマークとしての役割を担うことになったのだ。
そして、この塔のてっぺんにはカカシが立っている。クレアルト様だ。これは……クレアが勝手に登って勝手に置いてきたものだ。クレアは時々、「クレアルト様はすごいんだよ。パラライズビーから守ってくれるんだよ」なんて謎の布教活動を行っている。
冒険者ギルドの前にたどり着く。
今日の依頼は村の近くで済んだため、時間はかなり早い。この時間の冒険者ギルドは大人の冒険者はほとんどおらず、Fランク冒険者の子供たちでごった返しているはずだ。
冒険者ギルドも今ではレンガ造りだ。中に入り、辺りを見回す。
確かに子供は多い。けれど、ギルド内の一角に多数の大人たちが集まるテーブルを見つける。
その中心にいるのはダン、ブロン、ギルドマスターの3人だった。
普段見かけない高齢のグランドマスターがいる。これだけでも異常事態だということが分かる。そして、この村最強の2人だ。きっと、ただごとではない。
ギルドマスターがこちらに気付く。
「ああ、『魔剣』の3人か。うん、参加してもらった方が良いじゃろう。今は少しでも人手があった方が良い」
ダンが少し複雑な表情を浮かべる。
3人が会議に加わる。机に地図が広げてあったため、最前列の良く見える位置にクレアと移動する。緊迫した会議だった。
正直なところ、アルトには内容が分からなかった。冒険者の誰かが魔石を落として見つからないということ。強い魔物が出るかもしれないということ。これから探索と討伐に出かけるということ。依頼とは違うが小銀貨1枚の謝礼が出るということ。把握できたのはこれだけだった。
正直、森を練り歩いて小銀貨1枚なんて割に合わない。だが、誰も不平を言うものはいなかった。
皆、真剣な面持ちで作戦を聞いている。
普段はすぐに口を挟んでくるクレアですら、今日は静かに聞いている。アルトはチラリとクレアの方を見る。
クレアは立ったまま、よだれを垂らして寝ていた。




