第46話 明日からも3人で
モックが視界から消える。とたんに不安になる。
一体、カカシはいつまで一緒にいたんだろう。
クレアの話だと、ロープを投げる瞬間にいたことは間違いない。しかし、それはこちら側の岸でのことだ。もし、そこまでしかついてきていなかったら、モックにカカシを見つけることはできない。
アルトは自分が魔術で操っているはずなのに全く記憶がない。
最早、ほとんど無意識に操作してしまっているのだ。
無意識に操作できていたのなら、きっと岸は渡っているはずである。
操作が乱れたのはきっとモックを助けるために全力で空気玉を放った時のはずだ。きっとそうに違いない。
そう思い至った時、カカシを抱きかかえたモックが現れた。
その瞬間、アルトはカカシの頭部に空気玉を作成する。モックの手を離れ、カカシはふわりと浮き上がる。
ここからは昨日の練習の成果を見せる時だ。
カカシはモックを振り返り、言い放つ。
「私がやる!!」
モックはあまりに自然にカカシが言葉を話したことに驚いている。
カカシはすぐにアルトとクレアに向かって飛ぶ。そして、2人の横を通り過ぎた瞬間、一瞬止まり、言う。
「私の番だよ!!」
やはり、動きとリンクさせると、リアルさが違う。アルトは自分の魔術に手ごたえを感じる。
カルサムスの花畑に突入し、パラライズビーの大群と対峙し、すぐに方向を変える。
「やっぱり助けてぇ!」
カカシは花畑を行ったり来たりし、パラライズビーに追いかけまわされながら、何度も叫ぶ。
「ひぃー!」
「だから助けてー!」
「いーーぎゃーー!!」
「ひぃ!やぁあああ!!」
「私はどうすればいいのぉー!!」
そして、1度コケさせてみる。
「ふぎゃ!」
今日のクレアのセリフのダイジェストだ。魔術の出来栄えに大変満足したアルトはカカシを森の奥に走らせ、パラライズビーをすべて追い払った。
アルトはモックに音玉を放つ。
「もう大丈夫だよ」
モックは縄にしがみつき、おそるおそるこちらに来る。縄は少したわんだくらいだ。金属盾が触れてもびくともしない。モックはしっかりと枝までたどり着く。木の下まで、アルトとクレアは迎えに行き、モックは木から降りた。
そして、3人は顔を見合わせる。
長い1日だった。でも、無事にすべてをやり通したのだ。あとは帰るだけだ。この先の森にほとんど脅威はない。
村に向かってのんびり歩き始める。少しして、カカシが合流する。歩き続けていると、前方にパラライズビーの巣を発見する。今日はわざわざ迂回する必要もない。
カカシが前に進み出る。
「私がやる!!」
パラライズビーを引き連れて行ってしまう。
3人は止まることなく、歩き続ける。カカシが帰ってくる前にふと、クレアが話し始める。
「クレアルト様の声ってさ……」
クレアの声を使っているのだ。きっと気付いたんだろうとアルトは思う。しかし、違った。クレアは予想外の言葉を口にする。
「なんか、間抜けというか、バカっぽいよね?」
アルトとモックは同時に声を出した。
「ぇ?」
モックはすぐにフォローする。
「そんなことないと思いますぜ。あっしは結構いい声だと」
アルトも同意する。
「そうだよ。村の守り神だもん。まさに神の声って感じだよ」
クレアは納得いかない様子でつぶやく。
「そうかなぁ」
そこにカカシは帰ってくる。この話はここまでだ。カカシは今後は東の詰所の上で、しゃべることなく、しっかりと守り神をやってもらおう。
3人とカカシはそのまま無事、村に帰り着いた。冒険者ギルドでジャイアントスパイダーの巣の採集の依頼を受け、そのまま余った糸を引き渡す。依頼料は大銀貨1枚だ。さらに余った糸、フォレストベアの牙と爪、フォレストボアの牙、すべて買い取ってもらうとそれも大銀貨1枚になった。
川を渡れる今、依頼は本当に選びたい放題だ。そして、依頼を受けなくても素材が高く売れる。この調子で冒険者を続けていれば、もう借金をすることもないだろう。ついにすべてが軌道に乗り始めたのだ。
冒険者ギルドでの用事を終え、3人は東の詰所に向かう。
カカシをもとに戻すためだ。クレアが声を上げて駆け出す。
「たっだいまー!!」
ブロンが出てくる。
「おう、おかえり!どうだった?楽しかったか?ぉ、そいつも戻ってきたんだな。昨日は戻ってこなかったから、もう戻ってこないのかと思ったぜ」
ブロンはカカシを見ている。
「ぇーと、なんだったっけ?」
そこで、アルトは本日最後のミスを犯す。
カカシを大きく、ふよっと自信たっぷりに動かし、そして……。
「村の守り神、クレアルト様だよ!!」
ブロンは驚く。
「えええ!!しゃべれるようになったのか!?すっげぇなぁ。しっかし、クレアの声そっくりだな!!」
アルトとモックは同時に声を上げていた。
「ぁ」
2人して、クレアを見る。楽しげだったクレアの顔から表情が抜け落ち、硬直していた。
アルトが乾いた声を出す。
「あー今日は楽しかったね。クレア!また、明日、冒険行こうね!!西の詰所で待ってるからね!!父ちゃんが心配するから、僕は帰るね!!またあしたー!!」
アルトは駆け出した。
後ろで、モックの声が聞こえる。
「大親分!?あっしを置いて行かないでくだせぇ!!」
アルトは構わず走り続ける。きっと何だかんだで明日も3人で冒険に出るのだ。そして、そんな日が続いていくのだ。
アルトは走り続ける。その先は希望に満ちている。




