第45話 魔術の縄作りと対岸のトラウマ
そこで、アルトが提案する。
「確かにこのままだと使えないね。だから、縄を作ろう」
モックが不思議そうに聞く。
「縄ですかぃ?」
今度はアルトが不思議そうに聞く。
「あれ?こういうのって冒険者はできて普通じゃないの?とうちゃんはやってたけど……」
「あーアニキはちょっといろいろできすぎなんでさぁ……あの人はどこに放り出されても1人で勝手に生きていけそうで……」
とにかく、アルトは作業を開始する。糸の束を2つ作り出し、それぞれ右回りにくるくるとねじる。ねじられた2つの束を今度は左回りに組み合わせていく。ほどけないように両端を掴んで、2人に見せる。
「ほら。できた」
モックもクレアはそれを見て、それぞれ、別方向に感心する。
「おお!売れそうな出来栄えですぜ」
「三つ編みより簡単!」
モックとクレアが糸を集め、アルトが縄をなう。少しずつ長くなっていくが、途中、何度も魔物が現れ、戦闘となる。なかなかはかどらない。
少しずつ日が傾き始める。このままでは夜までにできないどころか夜通しの作業になりそうだ。
やり方を変えなければならない。なんとか魔術を駆使するのだ。
とにかく糸を集め、より合わせ、先に長さだけ稼いでしまう。そして、川を渡るのに十分な長さになった2本の糸の束の端にそれぞれロックボールを放つ。
レンガ作りの時に知った魔術の特性を活かすのだ。そこに糸があればそれを避けてロックボールが生成される。つまり、ガッチリと糸を掴む形になる。
アルトは生成されたロックボールを放つことなく、魔力的なつながりを保ったまま右に回転させる。しっかりとねじれたことを確認し、2つのロックボールを左回りに旋回させる。
あっという間に縄が完成した。
クレアに不満げだ。
「初めっから、それでやってよ!」
「今、思いついたんだよ」
うまくいくにはいったが、アルトは何か釈然としないものを感じていた。今の魔術は動きがブリーズステアとかなり似ている。
ふと、2人に気づかれないように空気玉で同じことをやってみる。簡単にできた。
しかし、何度やってもブリーズステアは使えないのだ。どういう違いがあるというのか。
ともあれ、帰る算段がついた。残った糸をかき集めてバックパックへ詰め込み、川辺へ向かう。
川辺では来たときと同じ要領でアルトがロックボールで向こう岸の枝に縄をかける。
クレアには申し訳ないが、高い位置の枝を選ぶ。縄はこれ1本しかないのだ。
クレアは太ももにスカートを挟んで縄にぶら下がり、川を渡り始める。川を渡り切ると、枝までは進まず、途中で飛び降りしゃがんで縮こまった。
モックと顔を見合わせる。
「クレア、どうしたんだろ?」
「何かあったんですかね?」
モックが立ち上がる。
「あっしが先に行きやしょう」
アルトが制止する。
「僕が先に行く」
「いえ、大親分にもしものことがあったら……」
「とうちゃんに叱られる?」
「いや、そうじゃなくて!」
そこで、アルトは音玉でダンの怒りの声を発動する。
「モックゥ!」
モックは咄嗟に気をつけの姿勢を取る。
「はい!アニキ!すいません!!……ぇ?」
アルトは種明かしをする。
「魔術だよ。僕なら向こうの様子をモックに伝えられるよ。その後、助けてよ」
モックは心底驚いた顔をしていた。しかし、すぐに気を引き締めて答える。
「分かりやした、大親分。どうかご無事で!」
アルトは縄にぶら下がり、進み始める。朝のロープとは違い、アルトとバックパック程度の重量であれば、全くたわまない。
しかし、クレアは何を見たというのだろうか。川を渡り切る。そろそろクレアが飛び降りた地点だ。森の緑の間から微かなオレンジ色の帯が見える。何だろうか。
少し進むと、それが何かはっきりと分かった。カルサムスの花畑だ。最早トラウマである。咄嗟にアルトは手を離す。クレアのようなバランス感覚はない。うつ伏せに落下していく。
そして、アルトが手を離した位置はクレアと同じ位置だ。アルトはクレアの上に落下し、クレアはその下で変な悲鳴を上げる。
「ふぎゃ!」
「ああ!ゴメン!!クレア」
「しーっ!!」
アルトの下でしゃがんだままの姿勢のクレアが口に人差し指をあて「静かに!」というポーズを取る。
アルトはクレアの上から降り、しゃがむ。
クレアが青い顔でこちらを見る。
「アルト……どうしよう」
「まずはモックに伝えないと……」
2人はモックを振り返る。モックは心配そうに2人を見ていた。
アルトは手を掲げ、自分の声で音玉を飛ばす。
「パラライズビーがいっぱい……」
モックは向こう岸で腕組みをする。
すると、それを見ていたクレアが目を輝かせた。
「なになに?新しい魔術?モックとしゃべれるの?」
「こっちから、音を飛ばせるだけだよ」
「向こうの声は聞こえないのね?私にもやらせて!」
どうすれば良いか分からない。
とりあえずクレアに聞く。
「言いたいことがあるなら、伝えるよ」
「じゃあさ、じゃあさ!モックのばーか!って言ってみて」
仕方なく、アルトはクレアの声で音玉を飛ばす。モックはズッコケる。クレアはニンマリと笑う。
「クレア、真面目に考えようよ」
「そうだね。こういう時はクレアルト様におとりになってもらうのが、一番なんだけどなぁ」
その通りだ。これまで、何度もそうやって難を逃れてきた。しかし、肝心のクレアルト様は……。
アルトが声を上げる。
「どこに置いたっけ?朝、カカ……クレアルト様、いたよね?」
「いた……気がする。……。いた!!絶対いた!!アルトがロープ投げた時、クレアルト様行かないのーって思ったもん」
アルトはモックに音玉を飛ばす。
「クレアルト様を探して!!」
一瞬、不思議な顔をしたモックだったが、すぐに合点がいったという顔に変わる。モックは1度辺りを見回し、川上に向かって走り出した。




