第44話 捕らわれのクレアと熱湯の魔術
ジャイアントスパイダーだ。糸の採取がDランクの依頼に出ていた。高いところから低いところまで、複数の木にまたがって無数の巣が張り巡らされていた。
危険なところに踏み込んでしまったわけだが、見ようによっては宝の山である。
そして、その糸はかなり丈夫だという。
そこで、アルトは閃いてしまった。クレアに向かって叫ぶ。
「この糸でロープ作れそうなんだけど、どうしよう!?」
クレアは予想外のアルトの言葉に顔を真っ赤にして叫び返す。
「知らないよ!そんなの!助けてよぉ!!」
ジャイアントスパイダーがサカサカッと数歩、クレアににじり寄る。
「ひぃー!」
クレアが変な叫び声を上げながら、捕らえられた手足をジタバタと必死にもがいている。だが糸はビクともしない。確かに頑丈そうだ。
昨日、ダンからジャイアントスパイダーについても詳しく聞いていた。縦の糸には粘着性はないはずだ。傍らに落ちていた木の枝で触れてみる。確かにくっつかない。
どれくらい丈夫かも確認しておきたい。
アルトはモックに試してもらう。
「モック、この糸に盾の縁を当ててみて」
モックは、アルトの心ない発言に少し驚き、クレアの方を気にしつつ、それでも盾の縁を押し当てる。始めはクレアを気遣っていたモックだが、ロープよりもかなり細いのに切れる気配が全くしないことに感動する。
「大親分、これすごいッスね」
ぐいと押し当てたり、無理やり切ろうとするようにギリギリと擦り付けたりと、色々試し始める。
その度に情けない格好のクレアが上空で揺れた。
クレアの怒号が響く。
「モックゥーーー!!!」
「ああ!すまねぇ親分!!でも大親分が……」
モックがしれっと、アルトのせいにした。アルトも言い返す。
「ちょっと盾を当てるだけで良かったのに、あんなに揺らすなんて、モックは酷いなぁ」
ジャイアントスパイダーがさらにサカサカッとクレアに近づく。クレアが再度叫ぶ。
「だから助けてー!」
「ぁ、ジャイアントスパイダーは気が弱いから、気を失って無抵抗にならない限りは平気だ、って父ちゃんが言ってたよー」
確かに、先ほどからクレアに近寄ってきてはいるが、おそるおそるといった様子だ。
それでも、クレアの間近まで迫ってきている。8つの目玉がある顔をぐっとクレアの顔へ近づける。クレアは言葉にならない声で叫ぶ。
「いーーぎゃーー!!」
やっと、アルトはアイスボールを放った。ジャイアントスパイダーはシャッと後ろに飛び退く。
アルトが説明を続ける。
「でも、かなりすばしっこくて倒すのはかなり難しいんだって」
アルトはジャイアントスパイダーの後ろから、アイスボールを放とうとする。しかし、魔力を練り始めた瞬間、すぐにジャイアントスパイダーは前方へ飛んだ。結果的にクレアに覆いかぶさるかたちとなる。
クレアが悲鳴を上げる。
「ひぃ!やぁあああ!!」
どうやら、魔力自体を感知することができるらしくアルトの魔術が当たらない。モックの剣は届かない。数分間、クレアの上で行ったり来たりを繰り返す。その度にクレアは悲鳴を上げ、暴れている。
アルトも決して遊んでいるわけではない。背面、側面、遠くからの射撃、様々な方法を試すのだが、どれも当たらない。普段はそんなに素早く動かないジャイアントスパイダーだが、攻撃が当たる直前に、跳ぶのだ。その速度は瞬間移動したのではないかと思えるほどだ。
いくらやっても魔術が当たらないことにアルトはしびれを切らしてきた。そして、もう一気にやってしまおうと決める。
実は昨日、ダンから、ジャイアントスパイダーの糸の加工方法についても聞いていた。それはお湯で洗うという方法だ。熱湯までいかない、少し熱く感じるくらいのお湯、これで洗うだけで、糸の粘着質は取れるということだった。
アルトは、もう糸の加工まで、一気にやってしまおうと決める。
上空に巨大なウォーターボールを作り出す。そして、その受け皿を作るように小さなファイアーボールを大量に作り出す。
十分な熱さのウォーターボールが出来上がるのを待ってから、アルトは高らかに宣言する。
「クレア!モック!もう、一気に決めるよ!!何かにつかまって!!」
クレアが叫ぶ。
「何かにつかまるって、私はどうすればいいのぉー!!」
バッシャーン。
クレアの訴えもむなしく、特大のホットウォーターボールが全員に炸裂する。幸いにも3人とジャイアントスパイダーは上から降り注ぐ大量の巣の残骸に絡まり、流されることはなかった。
「熱っ!熱っ!!」
あまりの熱さに3人は大量の糸から這い出てその場を転げまわる。ただ1匹、もっとも熱に弱いジャイアントスパイダーはその場でピクピクと痙攣し、そのまま息絶えた。
落ち着きを取り戻し、辺りを見回すと、そこら中、糸まみれだった。ついに帰れる見込みが出てきたのだ。
クレアは少しムスッとしていたが、アルトは喜び勇んで言う。
「この糸だったら、モックがぶら下がっても絶対切れないよね!」
モックが糸を引っ張りながら言う。
「それはそうでしょうけど……でも、こんなに細い糸にぶら下がったら、きっと指がちょん切れちゃいますぜ」
まぁ、それは確かにその通りだった。




