第42話 ロープの喪失と完璧な連携
クレアと2人、呆気に取られ、数秒間水面を見つめる。
モックは浮き上がってこない。それはそうだ。金属の鎧を身につけているのだ。
咄嗟にアルトは特大の空気玉を水面にぶち込む。モックはいない。空気玉は浮力と水流に邪魔され、すぐに上空へ弾かれる。
別の位置に再度ぶち込む。もう1度、もう1度……。
何度も繰り返し、ついにモックを発見する。次の1発は全力で魔力を注ぎ込み水底にキープすることを目指す。しかし、空気玉はぐんぐん押されていく。足りないのは魔力なのか、集中力なのか、筋力なのか、分からない。
くる。水流がモックを押し倒す。
改めて空気玉を発動し、モックの場所を開く。そして空気玉は押し戻される。徐々に徐々に川下へ流されていく。
ふと、クレアが使ったロープがアルトの目に入る。これしかない。
アルトはロープの真下へロックボールを放つ。
そして、モックへ音玉を飛ばす。
「ロープを掴んで!!」
水面に見え隠れし続けているモックが、辺りを見回した。ロープを目に捉えたことを確認した瞬間、ロープの下に形成されたロックボールまでの経路に立て続けに5発の空気玉を放つ。
モックは走り出し、ロックボールの上へ駆け上がり、ロープに向かって跳び上がった。
一瞬遅れ、完全に空気玉は弾かれた。
一時的にであれ、無理矢理流れを変えた分、もとに戻る時の激流は凄まじい。
モックもろともロープは水流に飲み込まれた。
少しして、ロープに全力でしがみつくモックが確認できる。クレアとともにロープのもとへ走り出す。ロープの端にたどり着いた時、モックの金属盾の端がロープに触れていることに気付く。チリチリとロープの繊維が千切れ細くなっている。
そして、切れた。クレアが叫ぶ。
「またぁっ!?」
しかし、今度は落下したわけではない。モックはロープにしがみついたままである。水流に川下に押されてはいるが、弧を描くように岸に近づき、浅瀬へたどり着いた。
改めてアルトとクレアは迎えに行く。モックはロープにしがみついたまま、青い顔をして、目を見開いてブルブル震えていた。
モックが落ち着くのを待って、アルトは聞くべきことを聞いた。
「モック、ロープってもう1本ある?」
「すまねぇ、大親分、あれしか持ってねぇんだ」
つまり、3人とも帰る手段がなかった。
モックが付け加える。
「でも、テントならありますぜ」
そこで、クレアが割って入る。
「なになに?お泊りするの?」
目をキラキラと輝かせて、期待に満ちた表情だ。
アルトはため息をつきつつ答える。
「そうなるかも……父ちゃんに怒られるかな……」
モックがピクリと反応し、つぶやく。
「どうだろうな……」
表情は引きつっていた。
ともあれ、待っていても何も解決しないのだ。
アルトはこの先に広がる森を見る。最寄りの街まで1週間くらいかかるという話だった。
そして川を振り返る。やはり、何とかして川を渡る方法を考えたい。
とりあえず、モックは着替え始める。水を吸った革紐を解くのに苦労していたが、ようやく鎧を外し、服を脱ぎ始めた時、森の奥で何かの気配を感じる。
すごい勢いで何かが近づいてきている。
「何か来る!」
クレアは剣を構え、アルトはアイスボールを準備した。しかし、モックは全裸だ。
そこに現れたのはフォレストベアだった。昨日倒したやつだ。しかし、対岸のフォレストベアとはわけが違った。
現れた瞬間には、すでにアルトに向かって突進してきていた。その巨体にもかかわらず、近くの森のフォレストウルフよりも遥かに速かった。
すぐにクレアが間に入る。クレアに向かってフォレストベアが爪を振り上げる。確実に剣で受け止めたクレアであったが、アルトの後方にぶっ飛ばされた。
次の一撃の直前、しっかりとアイスボールを額に命中させると同時に後方へ下がる。確実にダメージはあるはずだが、フォレストベアは怯まない。そして下がるアルトよりも確実に速い。一気に間を詰めてくる。
しかし、アルトに届く直前、大盾を持った全裸のモックがフォレストベアの前に立ち塞がる。フォレストベアの爪を盾でいなす。勢いを削がれたフォレストベアはアルトの目の前に転がる。
額にアイスボールを打ち込む。起き上がったところにもう1発。アルトの隣に走り込んできたクレアが飛び上がり、逆手に持った剣をフォレストベアの脳天に突き立てる。剣先はフォレストベアの顎から突き出ていた。
フォレストベアはそこで絶命する。
一瞬の後、クレアは喜びの声を上げる。
「やったー!なんか、今さぁ、私たち冒険者のパーティーみたいじゃなかった?」
いや、一応、冒険者パーティーなんだけど、と突っ込みたいところだ。だが、確かにクレアの言う通りだ。蜂から逃げ回ったり、溺れかけたりするのは冒険者パーティーらしくない。
今のは本当に冒険者パーティーって感じがした。アルトも同意しかける。
「うん、今のすごく冒険者っぽか……」
そこで、傍らで仁王立ちのモックの股間に揺れるモノが目に入る。アルトは口をつぐんだ。




