第41話 道具袋の中身と切れたロープ
「うーん……」
なんだか、しっくりこない。
きっと動きが連動しないとなんだか違和感があるのだ。頭に入っている空気玉を言葉の先頭で少しだけ動かすことにした。
「(ふよっ)村の守り神、(ふよっ)クレアルト様だよ!!」
少しだけリアルになった。
「(ふよっ)スゴイ!」
「(ふよっ)私がやる!!」
「(ふよっ)お腹減ったー」
「(ふよーっ)がんばれー!!」
アルトはひたすら練習を繰り返す。ヴォイスボールは奥が深かった。まず、音量調節。
「(ふよ)スゴイ……」
「(ふよっ)スゴイ」
「(ふよーっ)スゴイ!」
「(ふよーっ)スゴイ!!(ふよふよ)」
それから、実際にクレアが言ったことがないことも合成することも可能だ。
「(ふよっ)明日のパンツは(ふよっ)紫だよっ!」
カカシに喋らせるのはやめ、他の練習も始める。ダンの声、モックの声、メリルの声、ヒルダの声、ガラクの声、シアンの声。
バタン、ドカッ、パシュッ。音だって発することができた。これはヴォイスボールというより、音玉だな。
アルトはヴォイスボール改め、これを音玉と名付けることにする。
バタンッ。
音玉を使っていないのに音がする。それは魔術ではなく、実際にドアが開かれた音だった。そして、そこにはダンが立っていた。
「お前、何やってんだ!!」
カカシがダンの方を振り向き、答える。
「魔術の練習だよ!」
ダンはチラリとカカシを見たのち、アルトに向かって言う。
「もう寝ろ!」
「ぁ、はい」
音だけだからといって、無限袋の外で練習するのは危険なようだ。無限袋に手を突っ込み、さらに練習を繰り返しながら、アルトは眠りに落ちる。
翌朝、昨日準備したものを袋に詰め、念のため、カカシも連れて西の詰所に向かう。モックは床で眠っていた。
アルトはダンの声で、音玉を発動する。
「起きろぉ!モック!!」
モックは跳ね起き、気をつけの姿勢をとる。
「はい!アニキィ!!……んあ、アルト?えっと、大親分、おはようございます!」
「おはよー、モック」
モックが準備を始める。アルトはモックが何を準備しているのか、しっかりと観察する。装備品の点検、火打石と木の粉、水の入った革袋、装備の予備パーツ、工具類、綺麗な布などの救急用品、携帯食料の類、装備の下に着る下着類の替えも準備していた。
まだまだアルトに足りないものは多い。アルトが話しかける。
「今日は僕の道具袋もバックパックに入れてね」
そこにクレアが現れた。
「おはよー!!」
クレアが隣に自分の道具袋を下ろす。昨日までは持ってきていなかったものだ。クレアだって、少しずつ冒険者として成長しているのだ。アルトが話しかける。
「クレアも道具袋持ってきたんだね。何、持ってきたの?」
そう言って、アルトはクレアの道具袋を開けてしまった。
一番に目に飛び込んできたのは、薄緑色のパンツだ。
「ぁ」
中身は着替え一式なのだ。チラリとクレアを見ると、鬼の形相であった。
アルトは慌てて取り繕う。
「そっかー、着替え必要だもんね。モックも着替え持ってたもんね。僕は持ってこなかったよー。僕も明日は準備しよっ!さすがクレアだね!!もうベテランの冒険者だね!!」
クレアはとてつもなく複雑な表情を浮かべている。とりあえず、最悪の事態は回避できた気がする。隣では、モックが敢えて反対側を向いて、準備運動をしていた。
モックが装備を着込むのを待って、3人とカカシは出発する。今日こそは川の向こうの攻略だ。
川に到着すると、昨日のロープがそのままになっていた。正直、アルトはこれで十分なのだが、クレアのために低いロープも準備することにする。せっかく魔術も練習したのだ。
少し川下の方にちょうどよい高さの木の枝を見つける。
まずはロックボールを生成、そして、ロープを結び、発射する。
ロックボールはロープにつながったまま向こう岸へ飛んで行き、低めの木の枝にくるくると巻き付く。
クレアとモックの喝采を受ける。
「おおー!なんか昨日よりスゴイ!」
「大親分、おみごとです!」
アルトはグッとロープを引っ張る。ほどけそうにない。こちら側は木の幹に結び付けた。
クレアが早速ロープに飛び乗る。十分な強度だ。
「私、行くねー!」
さっさとロープを渡り始めた。それなりにロープがたわみ、低いところは水面近くになっている。こちらをぶら下がって使うのは無理なようだ。
アルトとモックは昨日のロープのところへ戻る。まずはアルトが昨日のようにぶら下がる。昨日とは違い、バックパックも背負ったままだ。思っていた以上に腕に負担がかかり、ロープがたわむ。横向きに移動して、なんとかロープを渡りきる。クレアが迎えに来ている。
「アルト、とうちゃーく!」
次にモックがロープに逆さにしがみついた。金属の鎧と盾はかなり重いらしく、ロープが想像以上にたわんでいる。そして、そろそろと渡り始める。
川の半分辺りまで来た時、突風が吹く。慌ててモックがロープにしがみつく。その時、背負っていた金属盾の端がロープに触れる。チリチリとロープの繊維が千切れ細くなる。
そして、切れた。
ドボンッ!
今日はモックが落ちた。




