第37話 子分の加入とDランクの現実
「モック!?」
木の向こう側にいたのは、モックだった。なぜか頭に大きなたんこぶがある。しかし、こんなところで、何をやっているのだろう。直前の会話から察するにクレアの子分になっているようだが。
クレアが何かモックに説明している。
「アルトがうちのリーダーだよ」
「なるほど、大親分ですね」
「そだね!」
2人の間で話が進んでいく。ブロンが、バンッとアルトの背中を叩く。
「まぁ……がんばれよ!Dランクパーティー『魔剣』!!」
Dランク、そう言われて少し合点がいった。多分モックはダンがよこしたお目付け役に違いない。なんだかんだで、子供だけでDランクの依頼をさせる気がないのだ。
しかし、まぁ、仕方がないと言えば、仕方がない。昨日散々叱られた通り、常にアルトたちは準備不足だったのだ。
改めてモックのたんこぶを見て、聞いた。
「モック……とうちゃんに叱られた?」
モックは頭を掻いている。
やはりそうなのだ。アルトが派手にやらかした3週間、お目付け役だったはずのモックが把握していたのはレンガの家くらいだ。
それでダンのゲンコツを食らったのだろう。
「モック、ゴメンね」
モックはひょうきんな顔をして言う。
「大親分、頭を上げてくだせぇ」
モックは演技を続ける、というより、この男は天性の子分肌なのだが。
少し反省しているアルトに対して、クレアとブロンは容赦なかった。
「あーモック、悪いんだぁ。アルト怖いんだよー」
「そうだぜ、俺なんて殺されかけたからなぁ」
ブロンは近くの大岩を指さす。ブロンを下敷きにしたロックボールがそのまま残っていた。
モックは一瞬、何か考えたようだったが、すぐに気を取り直す。
「すまねぇ、大親分。命だけはお助けを!」
モックはノリノリだ。何だか真面目に謝ったアルトの方がバカみたいだった。アルトはため息をつき、モックのパーティー入りを了承した。
3人で冒険者ギルドへ向かう。道すがらモックがアルトに聞いてきた。
「そういえば大親分は氷の魔術は使わないんですかぃ?」
「使ったことないなぁ」
「氷は溶けるから、後片付け不要で便利なんですぜぃ」
「なるほどなぁ」
言われてみると、アースボールでテントが埋もれたし、ブロンに使った大きなロックボールは残ったままだ。同系統の魔法で戦い続けるのは問題だろう。
アルトは無限袋に手を突っ込み、早速練習を始める。2人に聞こえないよう、小さな声で詠唱する。
「万象を司る氷の神よ。我が魔力を糧として、原始の氷を此処に顕現せよ。アイスボール」
小さな声で何度も繰り返す。
2人には聞こえない。聞こえないせいで黙り込んだと勘違いしたクレアが余計なことを言いだす。
「あーあ、アルト怒っちゃったよ」
モックが乗っかる。
「すまねぇ、大親分、この落とし前はあっしの小指で……」
「怒ってないから!もう!いいから!」
そして、少しクレアを睨む。
「わー殺されるぅー」
クレアが叫んで走り出す。モックが追いかける。
「親分!待ってくだせぇ!」
アルトは、もういいや、と追いかけず、魔術の練習をしながらゆっくり歩く。どうせ行き先は冒険者ギルドだ。到着する頃には無限袋の中で、初めてのアイスボールが放たれていた。
冒険者ギルドでモックのパーティー参加の手続きを済ませる。
ここから、Dランク依頼を受けるのだ。何しろ、依頼は山ほどある。割の良い依頼を見つけるのだ。
片っ端から見ていく。
Dランク依頼、フォレストベアの牙と爪の収集
Dランク依頼、ジャイアントスネークの鱗と牙の収集
Dランク依頼、ジャイアントスパイダーの糸の採取
これらはすべて西の川の向こうに生息する魔物たちだ。川の向こうは行ったことがない。どうやって川を渡ればよいのかも分からない。土地勘もなければ、ここに書かれている魔物が強いのか弱いのかも分からない。
クレアが目をキラキラさせて、依頼書を持ってきた。
「アルト!これなんてどう?報酬、大金貨1枚だって!!」
Dランク依頼、フォレストドラゴンの討伐
「いや、無理だろ」
他のものを探す。
Dランク依頼、魔石の採取
これは迷宮で手に入るものだ。さすがに迷宮に潜ろうという選択肢はない。
西の川を渡らずに、村周辺の森で出会う魔物はフォレストウルフ、ベビートレント、パラライズビーの3種類だけだ。意外に自分たちが受けられる依頼は少なかったのだ。
「モック、川ってどうやって渡ればいいか知ってる?」
「冒険者ギルドで渡し舟を貸してくれますぜ。確か、1日で小銀貨1枚、もし、破損した場合、罰金が大銀貨1枚だったと……」
これは危ない。また借金生活に逆戻りする可能性がある。
3人で手分けし、村周辺の魔物に限って依頼を探す。最終的に見つかった依頼は2つだけだった。
Dランク依頼、フォレストウルフの牙と爪の収集
Dランク依頼、パラライズビーの巣の採取
メリルからそれぞれの依頼の詳細を聞く。フォレストウルフの方の依頼は50匹分で依頼達成、報酬は小銀貨1枚だった。割に合わない話だ。
パラライズビーの方は1つで小銀貨1枚。最大で50個まで引き取り可能とのことだった。割は良い。これしかないだろう。しかし、パラライズビーにはあまり良い思い出がない。
しっかりと元手を作って、渡し舟を借りて、西の川を越える。現状、これしか思い浮かばなかった。クレアの方を見て言う。
「あそこに行くしかないだろうなぁ」
クレアは少し身震いをして言う。
「クレアルト様の出番だね」




