第34話 飛行実験の悲劇とDランク昇格
何でもいいなんて言ってたのに、クレアは一口で食べるのをやめてしまった。
しかし、無理もない。とにかくまずかった。鳥の肉はひたすら血なまぐさかった。
クレアがふと聞く。
「ねぇ、この中には高いお肉もあるんだよね?」
「多分……」
アルトは急激に自信を失っていく。
もしかしたら、他の鳥の肉なのかもしれない。とにかくたくさんの鳥の肉を集めるしかない。
北の岩山で岩場にしか生息していない鳥を捕まえながら、西の川へ移動する。そこからは川縁に生息する鳥を捕まえる。
あまり飛ばず、地面を素早く逃げるタイプの鳥は、クレアが追いかけまわす。上空を長時間飛び続けるタイプの鳥は、アルトが数十発にも及ぶ空気玉で叩き落とした。
鳥を吊るす枝が、2本目になった時、運ぶ方法に少し困ったが、無限袋が役に立った。完全に中に入れてしまえば取り出せなくなるが、枝の端を出しておけば、問題なく取り出せた。
お昼を過ぎ、鳥を吊るした枝は10本以上になっていた。そして、それぞれの枝には結べる限りの鳥を逆さに吊るしてある。
クレアが不平を漏らす。
「お腹すいた……」
焦りもあり、我を忘れて狩りに熱中してしまったが、さすがにもう十分だろう。
そう思うと、アルトも急激にお腹が減ってきた。
「村に帰って何か食べよう」
「やったぁ!」
気付けば、森の南東辺りまで回り込んでいた。クレアと東の詰所を目指す。クレアが話しかけてきた。
「面白かったけど、鳥を捕まえるのって結構地味だね」
「そう?」
「空を飛んで捕まえるのかと思った!」
「どうやって!?」
「アルトの空気玉爆弾を使えば、飛べるんじゃない?」
空気玉爆弾……圧縮空気玉を急に解放するやつのことだろう。小さくなった空気が急激にもとのサイズに戻るだけなのだが、確かにテントを爆散させたのはあれだった。言い得ている。
「無理じゃないかなぁ?」
「ねぇ、やってみてよ!」
そう言って、クレアはアルトの少し前へ出て、手をバタバタさせ始める。羽のつもりなのだろう。でもどう考えても無理な気がする。まぁ、1回失敗すれば満足だろうと思い、アルトはありったけの圧縮空気玉を準備した。
「いくよー」
「うん!やって!!」
クレアを持ち上げるため、下から大きな上昇気流を発生させる。しかし、クレアは持ち上がることはなかった。代わりにクレアのスカートだけが盛大にまくれ上がった。
上昇気流は収まり、クレアは手を止める。表情は分からないが耳が真っ赤でプルプルと震えている。無言である。アルトも硬直したまま、無言である。
少しして、クレアは前を向いたまま口を開いた。
「帰ろっか……」
「うん……」
冒険者ギルドへ報告へ行くと、そこではノーマンとメリルが話していた。ノーマンは大層慌てていた。メリルがアルトを見つけ、声をかける。
「依頼はどうだった?」
「多分大丈夫だと思うんだけど……」
すべての枝を取り出しながら聞く。
「この中にベカスはいますか?」
メリルは一瞬仰天したが、すぐに気を取り直し、一番初めに捕まえたノロマな鳥を指さす。
「これね……うん、ベカスだけで5羽はいるわね」
そういって少し呆れた顔をした。そこにノーマンが割って入る。
「この鳥、すべて買い取ろう。これでいいか?足りなければ、明日にでもうちの店に来てくれ」
そういって、アルトとクレアに小銀貨を1枚ずつ渡す。すぐにバルディア商会の制服を着た人たちが数人入ってきて、鳥を持ち去る。ノーマンもすぐに冒険者ギルドを出て行った。
アルトはノーマンたちを見送りつつ、しばらく呆気に取られていた。
しかし、ふと、気が付く。これで、ガラクへの借金が払えるのだ。ダンに見つかる前にすべてやり遂げたのだ。独り、喜びに浸っていると、ふいにメリルが口を開いた。
「おめでとう!!」
「ぇ!?」
メリルがなぜ、借金のことを知っているのか。誰から聞いたのだろう。もしかして、ダンの耳に入ることもあるのかもしれない。怪訝な顔で、メリルを見る。
メリルは話を続けた。
「これで2人はDランク昇格ね!!」
アルトは指を折りながら数えた。
薬草、ベビートレント、カルサムス、アムレンセ、チンクトリア、2回目の薬草、モルタルの原料、丸太150本、道の補修、ベカス。
確かにこれは10個目の依頼だった。
隣でクレアが飛び跳ねる。
「やったぁ!明日から、魔物狩りまくるぞー!!」
大喜びのクレアであったが、そこから、メリルのお小言が始まる。Dランクの冒険者は一人前とみられる。Eランクと違い、依頼内容による冒険者ギルドによるランク調整が行われないなど、小難しい話であった。クレアのテンションが少し下がる。
その後は、2人で、Dランク依頼をあれやこれやと見て回る。Dランク依頼の種類は多い。これまでみたいに依頼がなくて困ることは決してないのだ。アルトも少しワクワクしてきた。
しかし、そこで、クレアが思い出したように言う。
「ねぇ、アルト、何か食べよ」
そうだった。朝から、血なまぐさい鳥をかじったきり、何も食べていないのだ。
冒険者ギルドを2人で出たところで、バルディア商会の制服を着た人に呼び止められる。
「今すぐちょっと来てください」
クレアが不平を漏らす。
「ええー、ご飯」
「それどころじゃないんです!」




