第32話 丸太の宣伝と高級食材ベカス
「やろう!やるよね?絶対やるよ!!」
そう言い出したのはクレアだ。もちろんやるのだが。ここのところ、クレアはやたら稼ぎたがる。もちろん、稼がざるを得ないアルトとしては願ってもないことなのだが。
アルトは冷静だ。失敗するわけにはいかない。
「やります……が、この最後の30本の丸太、借りてもいい?」
メリルは簡単に許可してくれる。
「いいわよ!よろしくお願いね!!」
そこからはひたすら30本の丸太とともに村の南地区を往復した。
この村で、もっとも定住している家族層の多い南地区だ。目立って仕方がない。
子供たちは呆然とこちらを見ている。
クレアは丸太の上に立ち上がり、手を振り始める。そして、『魔剣』の売り込みを始めた。
「冒険者パーティー『魔剣』のアルトとクレアです。道を綺麗にしています!」
高額報酬の依頼だ。手抜きできない。結局、改めて東西の道も回り直し、丸一日を使っての宣伝活動の末、村中の道はすべて綺麗な平面になった。
メリルからは大変感謝され、報酬を受け取る。小銀貨1枚と大銅貨1枚を2人で分けるかたち、つまり、大銅貨5枚と小銅貨5枚ずつだ。
これで、アルトの所持金は大銅貨5枚と小銅貨45枚になった。
この臨時収入で、借金完済までの残りは小銅貨5枚となった。
明日でちょうど3週間。ダンは帰ってくるかもしれない。クレアと報酬を分けることを思うと、Fランクの依頼では、明日一日で依頼を10個もこなさなければならないことになる。現実的ではない。
何としてもEランクの依頼が欲しい。
アルトは新しい依頼が出ていないか探すのだが、クレアはなんだかそわそわし始める。そして……。
「アルト、私もう行くね!また明日!」
言うが早いか一瞬で南側の入口から姿を消した。
何かあったのかなと、一瞬疑問に思うも、すぐにアルトは依頼書探しに戻る。
残念ながらEランク依頼はなかった。明日の朝には何かあるかもしれない。
諦めてその場を去ろうとした時、メリルが紙の束を抱えてきた。新しい依頼だ。
アルトは咄嗟に聞く。
「メリルさん!Eランク依頼ってある?」
「1枚だけあるわよ」
わざわざアルトのために探し出してくれる。頭を悩ませていた道の補修問題が片付き、メリルは上機嫌だった。
Eランク依頼、ベカスを無傷で捕獲(首の骨を折る程度の損傷で捕獲)
依頼主はノーマンだ。ベカスなんて魔物は聞いたことがない。もしかすると、西の川の向こうに生息しているのかもしれない。しかし、それだったら、確実にDランクの依頼のはずである。メリルに依頼内容を聞く。
「あの……メリルさん、この依頼受けたいんだけど、ベカスってなんですか?」
「この森に住んでる鳥よ。高級食材なのよ。ただ、捕まえるのがかなり難しくてねぇ」
「受けます」
アルトは即答した。この森に住む鳥。そんなものすべて知っている。全部食べたことがある。これなら、きっとできる。アルトにはどれが高級食材かなんて分からない。知っている鳥を全部持ってくれば、依頼はクリアだ。
実際の狩りは明日することにし、とりあえず、依頼を受け、アルトは意気揚々と帰路につく。
自宅の建設地まで来ると、ドアと窓はすでについており、屋根にも板が載っており、その上でガラクが作業中であった。
「ガラクさん、ただいま」
「おお、おかえり。ちと、明日別の仕事が入ってしまってのぉ、お前さんの家は急ぎで片付けるからな。明日の朝までには完成させといてやるから、楽しみにしとけよ」
そういって、すぐに作業に戻ってしまう。忙しそうだ。
料理人もやっていたガラクなら、ベカスについて知っているかもしれないが、詳しく聞く時間はなさそうだ。
諦めてモックのいる詰所へ行き、夕食を取り、詰所の端で1日を終える。
やはり、無限袋の中で、魔術の練習を行う。鳥を無傷で捕獲するため、徹底的に空気玉を鍛えるのだ。
ロックボールで覚えた遠くで発動させる魔術がきっと役に立つ。
上空を飛ぶ鳥を空気玉で包囲することだって可能なはずだ。何度も魔術を繰り返す。しかし、空気玉では、どれだけ圧縮してもなかなか鳥の骨をへし折れそうな威力にはならない。
作戦を考えないと……そう思いながら、アルトは眠りに落ちる。
翌朝、目覚めたアルトは、すぐにクレアのもとへ向かう。
クレアはブロンと稽古をしていたが、アルトを見つけると、すぐに木剣を向けてきた。
「魔王アルト!父さんの仇、討たせてもらうわー」
いや、昨日、ブロンにとどめをさしたのはクレアでは?という疑問が湧いたが、とりあえずは何も言わない。今日はそんなことをしている場合ではない。早く依頼に向かいたい。森の鳥を片っ端から、捕獲しなければならないのだから。
「クレア!今日はちょっと忙しいんだ!早く行こう!!」
クレアは聞く耳を持たない。
「えーい、逃げるのか卑怯者ー」
ブロンは少し困った顔をし、アルトとクレアの顔を交互に見る。そして、最後にアルトの顔をじっと見た。
そして、アルトに木剣を手渡す。
「まぁ、さっさと片付けるこったな」
アルトはため息をつき、言い放つ。
「じゃあ、僕が勝ったら、朝ごはん抜きで依頼に付き合ってね。すぐ出発するからね」




