第30話 壁の完成と魔人ブロンの討伐
翌日から、Fランク依頼と自宅の壁づくりの日々が始まった。
毎朝、クレアのところで訓練に参加する。せっかく木剣を媒介にする手段を使い始めたので、クレアと一緒に木剣での剣の稽古も行った。ヒルダに投石を見せてもらうこともあったが、アルトのロックボールは、あの速度には遠く及ばない。
日中は冒険者の依頼をこなす。ほとんどはFランクの依頼だ。
壁づくりのことも考えると1日に受けられる依頼は2つか3つが限界だった。クレアと分けると、Fランク依頼の1日の稼ぎは小銅貨1、2枚といったところだ。思うように稼げない。
また、2回だけEランク依頼もこなした。1つは薬草の採集。もう1つはモルタルの原料の採掘で、依頼主はガラクだった。
大口のレンガ建築が決まったらしく、モルタルの原料が不足したのだ。
Eランクの依頼がほとんどなく、森へ出かける機会が減り、クレアは不満そうだったが、3日目からは不満を言わなくなり、なんだか稼ぐ気満々になっていた。
露店で青い飴を売り始めたことはクレアを驚かせ、アルトは予言者の称号を得た。露店では青だけではなく、紫、緑の飴も売り出していた。始めは大はしゃぎで買いまくっていたクレアだが、数日後からは露店をチラリと覗くだけになった。
夕方からはレンガを積んだ。毎日のようにクレアが手伝いに来る。『魔剣』のアジトにすることは確定事項らしい。
ガラクは時々、傍らに来て、窓、ドア、屋根を組み立てていた。
そして、ダンが出発してから19日目にやっと十分な高さの壁が完成した。あとは屋根などの取り付けだけだ。ガラクに任せるばかりである。
アルトはその夜も魔術を練習する。これまでの日々、変わらず、生成速度と射出速度の訓練ばかりをしていた。
その日、アルトは生成速度の訓練に手ごたえを感じた。
記憶の中のフォレストウルフの飛び込みよりもファイアーボールの生成が勝ったのだ。反面、射出速度には手ごたえが感じられない。
実際にはかなり速くなっていたのだが、ヒルダの投石は依然として、途方もなく高い壁として存在している。
本来であれば、威力を上げるために始めた射出速度の訓練だが、そんなことはすっかり忘れ、アルトはただただ速さだけに意識が向いてしまっていた。
そのおかげで、アルトはある奇策を思いつく。それは、もっと前の方から魔術を放てば、速度が遅くとも早く敵に到達できるというものだった。
無限袋の中で、アルトは魔術の生成位置をどんどんと離していく。
このくらいなら、ブロンに到達するまでの距離は半分だ。もっと遠く。
これだったら、ブロンの眼前から、ロックボールを放てる。
もしかしてもっと遠くできるかな。
ブロンの背後から、ロックボールを放てるくらいの距離が取れるようになり、アルトは満足して眠りに落ちる。明日は魔人ブロンの討伐だ。
翌朝、アルトはクレアを迎えに行き、満面の笑みでブロンに告げる。
「必殺技、できたよ」
クレアとブロンが同時に目を輝かせる。親子だ。
「えー、どんなの!?」
「まじかぁ、見せてみろよ!」
そこで、珍しくアルトが芝居がかったセリフを言う。
「魔人ブロン!今日こそは俺たちが勝つ!!」
ブロンはすぐに乗って来た。
「よく来たな小僧ども。魔人ブロン様が相手になってやろう」
クレアは慌てて加わる。
「えーとっ……今度は負けないわー。覚悟しなさいブロン。お宝ゲットよぉ」
相変わらず大根だ。
アルトは木剣を前面に構え、ロックボールを3発放つ。しかし、それはあくまでおとりである。そして、上空に巨大な魔力を練り上げる。
加えて、ブロンの左右と後方から1発ずつロックボールを放つ。
演技を忘れ、ブロンが言う。
「アルト、おめぇ、さらに面倒くさくなったなぁ!」
ブロンは右のロックボールを叩き落として、右に逃れる。飛んでくる左のロックボールを左の木剣で受けつつ、間髪入れずに切りかかるクレアの木剣を右の木剣で受け、アルトを挑発する。
「面倒くせぇけど、それじゃ、必殺技にならないぜ!」
クレアが飛び退くが、ブロンの追撃を遮るようにクレアの前面から5発のロックボールを放ち、右と後方からも2発ずつのロックボールを放つ。
ブロンが左に逃れる。アルトが押しているように見えるが、致命傷になるものは1つもない。ブロンにロックボールを当てたところで、傷がつくかさえ分からない。
しかし、動きは完全にアルトが支配していた。ブロンを練り上げた魔力の真下に誘導する。クレアが打ち込み、飛び退いたその瞬間。練り上げた魔力でロックボールを作り出し、真下に向かって放つ。
また、気休め程度にブロンの足にアースボールで土もかぶせる。
アルトは夢中になっており、正確な威力を理解していなかったが、ロックボールはブロンの背丈の2倍を上回るサイズになっていた。
アルトは少しやりすぎたかもしれないと心配になる。
ブロンはすぐに上空のロックボールに気付く。瞬時に両手の木剣を手放し、下を向き、腰を落とす。
手放した2本の木剣はそれぞれまっすぐにアルトとクレアに向かって飛んできた。
クレアはすぐに自分に向かってくる木剣を弾いた。すさまじい勢いで飛んでくる木剣であったが、アルトには距離がある。今のアルトの魔術の生成速度で十分に間に合った。生成したロックボールが木剣を弾く。
どんっという音とともに、ブロンが肩でロックボールを受け止める。やはり、ブロンは規格外だ。
「やるじゃねぇか、アルト!必殺技の宿題、合格だぜ!!」
ちょっとやりすぎたかもという心配が杞憂に終わり、アルトは安心した。
しかし、こともあろうか、クレアが行動する。
「スキありー!」
ブロンがたじろぐ。
「や、今は、ちょっ……」
クレアの木剣がブロンのみぞおちに炸裂、ブロンは岩の下に沈んだ。




