第28話 剣先の魔術とブロンへの投石
採集が終わったクレアがアルトのところに来た。
ベビートレントの枝でロックボールを使うアルトを見つける。
「アルト!すごい!なんか魔術師みたい!!」
その表現はどうなのだろう。冒険者登録した時、アルトを半ば強制的に魔術師として登録したのはクレアだったはずだった。
もっともアルト自身は自分が魔術師であるという自覚はあまりなかったのだが。
ふと、アルトはクレアに言う。
「ねぇ、クレア。その剣、ちょっと貸して」
クレアの剣を受け取り、今度は剣先からロックボールを放つ。
「すごいすごい!魔剣って感じだね!」
こちらの方も意外にしっくりきた。杖である必要はないようだ。
最後に革袋を持ち、口を広げ、その上にロックボールを作ってみた。
「おおー、手品みたい!」
革袋はちょっとした冗談であったが、結局のところ何でも良いようだった。武器のことは今後よく考えることにして、まずは依頼を完了させるべく、帰路についた。
冒険者ギルドで報酬を受け取り、クレアとはそこで別れた。クレアは意気揚々と露店へ向かう。アルトはアムレンセの樹皮をガラクに届けに行く。
ガラクは今日も留守だったが、当然と言えば、当然のことだ。アルトの家の床を作ってくれているのだ。アルトは自分のテントがあった場所へ向かう。
そこには真四角の穴が開き、ガラクが何かを流し込んでいるところだった。家を作る作業の全体像は全く分からない。アルトは壁を作るだけの予定だ。
「アムレンセ持ってきたよー」
「おお、ご苦労さん」
次はモックのところへ顔を出す。
「ただいまー」
「おかえり。今日から当分の間はこの詰所で生活してくれ。他の見張りのやつらにも伝えといたからな。ただし……魔術の練習は禁止、な」
「はい……」
アルトは無限袋で練習する気満々である。
その日の夕食を終える。詰所で、モックではない見張りの人と2人だ。場所は違ってもやることはほとんど変わらない。ただし、詠唱するのはマズイ。ブリーズステアの練習だけは断念し、右手を無限袋に突っ込んだ状態で横たわった。
今の課題は2つ。魔術の生成速度。それから射出速度。
一昨日、クレアが麻痺した時のことを思い出す。1発目のファイアーボールを外した直後、2発目の生成はフォレストウルフの速度に間に合わなかった。クレアのおかげで助かったものの、独りだったら間違いなく死んでいた。あの状況で2発目を放つための生成速度が必要だ。
そして、今日初めて実戦で使ったロックボール。使えるものにするためにはヒルダの投石くらいの速度が欲しかった。
アルトはひたすら魔術を繰り返しながら、眠りに落ちる。
翌朝は早く起き、クレアを迎えに行く。
クレアは訓練の真っ最中だ。ブロンが声をかけてくれる。
「よぉ、アルト、宿題はできたか?」
ブロンの宿題、必殺技とファイアーボール以外の攻撃手段だ。
「必殺技はまだだけど、ファイアーボール以外の攻撃手段はできたよ」
ブロンは頷く。
「よぉし、魔人ブロン様が見てやろう。2人でかかってこい」
アルトは昨日のことを思い出し、なんとなく木剣を手に持った。ブロンが楽しそうだ。
「ほぉ、剣を使うのか」
ブロンに向かって、できる限り高速のロックボールを3発放つ。
ブロンは始めの2つをかわし、最後の1発を木剣の根元の辺りで受け止めた。
「うーん、アルトはさらに弱くなったなぁ。しかしまぁ、火を使えないならこんなもんかなぁ」
そう言いながら、アルトに切りかかる。クレアが割って入って木剣で受け止める。ブロンは満面の笑みだ。
「お前らパーティーらしくなってきたなぁ!」
つばぜり合いの体勢から、ブロンが力を込めたとき、クレアは後ろに飛び退く、ここでさらにロックボールを放つ。
しかし、アルトの放ったロックボールのすぐ横を同じくらいの石の塊が高速で抜き去った。そしてそれはブロンの顔面に正確に命中する。
「アンタ!ご飯!!」
ヒルダがきた。アルトは少しヒルダの話を聞いてみたかった。もしかしたら、魔術の役に立つかもしれない。
「ねぇ、ヒルダさん。どうやったら、そんなに速く石を飛ばせるの?」
ヒルダは少し考えてから、答える。
「うーん、まずはたくさん投げることなのかなぁ……あっ、それから、結果をイメージするとかかな!ほら、あいつの頭がかち割れる姿を想像して投げると気合入るだろ?」
ヒルダは鼻血を流しているブロンを指さす。
筋トレなどではなく、魔術でも十分使えるアドバイスだった。アルトは元気よく答える。
「わかりました!今度から、ブロンさんの頭がかち割れるところを想像してやってみます!」
ヒルダはアドバイスが役立ったのが嬉しかったらしく、上機嫌だ。
「そうだ!がんばれよ!!はっはっは」
昨日はげんなりしていたブロンだったが、今日は平常運転のようで、楽しげに言い返した。
「俺の頭は石なんかじゃ割れねぇよ!はっはっは」
そして、朝食を終え、東の詰所から村の南側へ向かう。
今日はチンクトリアの採集だ。チンクトリアは比較的、村の近くに生えている。もっとも村には東西にしか入口がないため、あまり人が寄り付くことはないのだが。
今日は木を切る必要もない。薬草採集と似たような作業だった。アルトとしても、もっとも簡単なものを最後に回したつもりだ。
2人で葉を集めている最中、クレアが突然叫んだ。
「うわぁ!手が、手がぁ!!」




