第27話 守り神クレアルトと必殺技の糸口
「アジト……って何するの?」
クレアは考え込む。
「作戦会議とか?」
それくらいなら、問題なさそうだ。
「あとはお宝とか、大事なものを置いておくとか?」
お宝なんて手に入るんだろうか。大事なものってなんだろう。昨日の記憶が蘇り、カカシのアルト2号が頭をよぎる。
できればあんなのは置きたくない。
ともあれ、こんな話をしている場合ではなかった。
今日はアムレンセの樹皮を採集しなければならない。朝からずいぶん時間を食ってしまっている。
アルトはクレアを促して、出発した。うまい具合にアジトの件は流れた。
アムレンセの木は東の方、迷宮の入口の少し北の山沿いに生えていたはずだ。
東の詰所を目指して歩き始める。
道は、かなり綺麗になっていた。たまに見かける小さな凹みをアースボールで埋めながら歩く。
冒険者ギルドの前を通過する時、クレアが露店に走り出した。
「見て見て!アルト!見て!赤い飴玉売ってるよ!赤だよ何味なのかな!?新発売だって!!」
アルトは慌ててクレアを追いかけた。
「クレア、今はそんな時間ないって」
そう言いつつも、アルトも少しだけ商品に目を走らせる。飴だけではない。様々な商品に赤い装飾が施され、リボンなどの布製品には赤やピンクに染め上げられたものが混じっている。
これまでは白や生成りの製品ばかりだっただけに、これらの商品はかなり目立っている。当然、Fランク冒険者の子供たちがたくさん集まっていた。
ここのところ、ノーマンが忙しそうにしていたのは、これだったに違いない。
しかし、こんなところで、時間を食っている場合ではない。アルトはクレアを無理やり引っ張って連れていく。
少しすると、クレアが突然叫んだ。
「あっ!ママだ!ママー!!」
ヒルダがこちらに向かって歩いて来た。いつもの冒険者風の服装ではなく、綺麗なワンピースを着て、きらきら光る髪飾りをつけている。
ヒルダが上機嫌でアルトに話しかける。
「やぁ、アルト、今朝はご飯を食べに来なかったねぇ。またおいでね」
「うん、また行くね」
このヒルダの大変身は、昨日のケンカの結果に違いない。ヒルダがブロンに大勝利を収めたのだ。
ケンカの原因を作ったアルトは思いがけず、ヒルダの好感度を勝ち取っていた。
ヒルダと別れ、少しして、ようやく東の詰所にたどり着く。東の詰所の屋根の上にはカカシのアルト2号が、クレアのお古のワンピースを着て立っていた。
アルトの家がアジトになったとしても、カカシが来ることはないだろうとホッとする。
クレアがカカシを指さす。
「あれは、この村の守り神、クレアルトよ」
設定は少し変わっていた。なんだか、神様に出世している。
詰所ではブロンがげんなりした顔をしていた。ヒルダに色々買わされ、カカシを屋根の上に取り付け、昨日からヒルダにもクレアにも振り回されっぱなしだったのだろう。被害を一身に負ったのはブロンだったようだ。
やっと村を出た。なんだか、アルトも少しぐったりした。寝不足のせいだと思うことにする。
今日はまず、迷宮までまっすぐ東に進む。今までの森の中の移動と違い、道を移動することになる。途中迷宮帰りの冒険者パーティーとも何度かすれ違った。
負傷しているパーティーが多い。中には大怪我をしている者もいる。遅くなってしまったとは言え、まだ午前中だ。トラブルが発生し途中退場になったパーティーがほとんどなのだろう。
程なくして、迷宮にたどり着く。アルトたちが目指すのはここから少し北に森の中を進んだところにある。クレアが、口を開く。
「ねぇ、ちょっと入ってみない?」
「今日は時間ないからダメ」
「時間ある日だったら、いいの?」
アルトは少し考えてから答える。
「多分、ダメ」
「だよね」
意外にもクレアは納得した。迷宮が危険なのはクレアだって分かっている。
2人は北に向かう。少し進んだ先でアルトが立ち止まる。
「この辺に生えてるのがアムレンセだな」
クレアが確認する。
「木の皮を剥がせばいいんだよね?」
そう言いながら、木に沿うように剣を振る。木の皮がボトリと落ちる。
何の変哲もない木だったのにその内側は鮮やかな黄色だった。花のように綺麗な色をしている。
失敗だったのはアルトが刃物を何も持ってきていなかったことだ。
仕方なく、採集はクレアに任せ、安全に作業できるよう、付近の魔物を狩り始めた。使う魔術はロックボールだ。実戦で使うのは初めてだったが、ベビートレントなら一撃で倒せた。
フォレストウルフは当たるところによって、様々だった。先に足をつぶし、それから頭を狙うのが効率が良さそうだった。
しかし、やはり威力は低い。ロックボールは実質、投石と変わらない。ヒルダの投石くらいの速度が欲しい。
クレアの採集は時間がかかった。
魔術師だからといって、丸腰は良くないのかもしれない。こういう時に困る。
もっとも武器が問題なのではなく、ウインドカッターすら使えないということが問題なのかもしれない。例えば魔術師らしく、杖を持ったところで、アルトにはアムレンセの樹皮を採集する術はないのだ。
何となく、ロックボールで仕留めたベビートレントの枝を折り、杖の代わりに使ってみる。自分の体以外を触媒に使うのは初めてだ。
これはこれで悪くないのかもしれない。
ファイアーボールを作るときに手が熱くなることを気にせず、大きな物を作れそうだ。
これはブロンの言う必殺技になり得るかもしれない。
実験すれば間違いなく森を燃やすところだが、今のアルトには無限袋があるのだ。
枝を持った右手を肩まで無限袋に突っ込んだ。できるだけ大きく膨らませる。手が熱くなる。我慢できる限界までファイアーボールを大きくし、放つ。
そしてすぐに袋の中を覗き込む。遠のいていくファイアーボールが見える。どんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
こうして、アルトは必殺技の糸口を見つけた。




