第25話 レンガボールと失敗作の無限袋
テントが弾け飛んだ拍子にアルトは叫び声を上げる。
「うわあっ!」
同時に別のところで、2つの声が上がる。
「おおぅ!」
「ええっ!?」
アルトの目の前にはガラクがいた。目を見開いて、硬直している。振り返ると、詰所の窓から、モックが口をあんぐりと開いてこちらを見ていた。
アルトも思考停止だった。最早できることがない。頭の中が真っ白の状態で、とりあえず、カルサムスの花が入ったバッグをガラクに差し出した。
「ガラクさん、これ……カルサムス……」
ガラクが受け取る。
「お、おぅ……」
そこにモックが到着した。テントが爆散するのを見て、急いで来たらしい。
「これは、一体、どうしたんだ!?」
アルトは答える。
「テントの中の泥を飛ばそうとしたら……テントが飛んじゃったみたい……」
モックはアルトと同じく思考停止だ。そんな中、ガラクが笑い出した。
「がっはっはっはっは。何が起こったか話してみぃ。わしは便利屋じゃ、力になれるかもしれんぞぃ」
アルトはこれまでの経緯を詳しく話した。
クレアがテントを切ったこと、その先はほとんどが魔術の訓練によるものだ。
一通り聞き終えたガラクは言う。
「ほとんど自業自得じゃな」
確かにその通りだ。言い訳できるような部分は全くない。
ガラクが続ける。
「しかし……、魔術の訓練については確実に何とかしてやれるな。今度、良い物をやろう。問題はテントの方じゃなぁ」
ガラクは辺りに散らばる布切れを見る。
「これは買ったほうが良いじゃろうなぁ」
そう言いながら辺りの土に触れる。
「魔術で作った土か。なかなか使い勝手が良さそうじゃ。いっそのことレンガを作って、家を建てたらどうじゃ?」
この村にはレンガ造りの家なんてない。そう言われてもアルトにはピンとこない。
「レンガってどんなの?簡単にできる?父ちゃんが帰ってくるまでに作れるかな?」
「うーん……それなら、実際に見た方が良いじゃろう。ちょっと、うちまでおいで」
アルトはガラクについて便利屋に向かう。モックはとても行きたそうだったが、まだ詰所から離れることができない。
残念そうに2人を見送っていた。
便利屋に着くと、ガラクは小さなテントを設置した。
2人で中に入るとそのテントは魔術具で、中は倉庫と呼ぶべき広さだった。そして赤銅色のレンガが積み重ねられていた。
「これが、レンガじゃ。これを積んで家を作るのなら、何となくできそうじゃろ」
アルトには、家をどうやって作るのか分からない。
けれど、ただ単にブロックを積んで壁を作るだけなら、確かにアルトにもできそうな話だ。
アルトが聞く。
「屋根はどうするの?」
「屋根と窓とドアはわしに依頼するしかないじゃろうなぁ。普通、レンガの小屋を建てる時は大銀貨2、3枚はもらうんじゃが、おぬしは素材は自分で作れる訳だ。そして壁も作れる。床と天井くらいの依頼なら、小銀貨5枚くらいでやっても良いかのぉ」
小銀貨5枚、大銅貨1枚の依頼50回分だ。アルトにとっては大金である。しかも現在、ノーマンから借金している状態である。アルトが考えていると、ガラクがさらに付け加えた。
「あとはそうじゃなぁ、おぬしの作る土をいくらか買い取ってやろう。まぁ、小銀貨3枚ってところかのぉ」
残り、小銀貨2枚、それくらいだったら、ダンが帰ってくるまでに稼げるかもしれないと思い始める。
アルトは答える。
「分かった。やってみる」
ガラクはニヤリと笑う。
「どうせ今は持ってないじゃろ。後払いで良いからな。さて、そうと決まったら、準備じゃな!」
ガラクからのレクチャーが始まる。
思っていたよりも難しかった。
まず、壺の中で土と水をこね、それを鉄板の上においたレンガ用の型枠に入れる。型枠は同時にレンガを8つまで焼けるようになっていた。
それをかまどに入れ焼く。型枠から外してレンガの完成だ。
そして積み方。そのまま積むだけではなく、モルタルというものを間に塗りながら、積んでいくとのことだった。モルタルは専用の粉と水を壺の中で混ぜて作っておかなければならない。
このモルタルは魔力を込めるとすぐに固まるという特殊なものだった。
最後にガラクが締めくくる。
「床の工事に2日間はかかるじゃろうから、まぁ、その間にレンガ作りを極めておくと良いじゃろう」
そう言ってガラクは行ってしまった。
果たして、ダンが帰ってくるまでに終わるのだろうか。そして、よくよく考えると、借金がかなり増えてしまった。アルトには不安しかない。
けれど、アルトは気を取り直す。昨日まではテントをどうすれば良いか分からなかった。今日からはやることがはっきりしている。
それならば、やるだけだ。簡単だ。アルトは魔術の練習をする時のように、淡々とレンガ作りに取りかかる。反復練習はアルトの得意とするところだ。
何度かレンガを焼き上げた後、自分がやっていることを不思議に感じ始めた。
アルトは魔術で、土が出せる。水も出せる。火も出せる。なんでわざわざ1つずつ混ぜたり、焼いたりという別々の工程を踏んでいるんだろうか。
ふと、手を上げ、言ってみる。
「万象を司るレンガの神よ。我が魔力を糧として、原始のレンガを此処に顕現せよ。レンガボール」
当然、レンガは出ないのだが、手の先に魔力が吸い出される感覚がある。いつもよりも大きく、魔力が吸い出される感覚だ。火や水や土や空気を出すよりも明らかに大きい魔力消費。しかし、金を作ろうとした時ほど、とてつもない量ではない。いけるかもしれない。
アルトは詠唱を繰り返す。反復練習はアルトの得意とするところなのだ。
ついにレンガの塊が生じた。残念ながら、四角くはなく、いびつな塊だ。そしてそれが、勢いよく放たれる。
奥の方にもともとあったレンガにぶち当たり、10個ほどのレンガを砕いた。やばい……またやってしまった。
その様子を見ていたかのようなタイミングでガラクが来る。
「そうじゃ、忘れとった。これをやろうと思っとったのじゃ」
ガラクは布の袋を手渡してきた。どうやら、バレてなさそうだ。アルトはガラクの気をそらそうと走り寄った。興味津々といった態度で聞く。
「何?コレ?」
「魔道具、拡張布袋!!……の失敗作じゃ。がっはっはっは」
アルトが中を覗くと、底が見通せないくらい中は広かった。とりあえず、ロックボールで、石を作り出し、中に入れる。石は落ちてゆき、すぐに見えなくなった。
ガラクは愉快そうに言う。
「たくさん入るようにと思って大きくしたんじゃが、恐らく、底が無くなったようじゃ。入れたら、取り出すこともできん。な、魔法、打ち放題じゃろ?」
突拍子もない道具にアルトは一瞬呆けたが、すぐに演技ではなく、本気で感激して言った。
「ガラクさん、すごいや!ありがとう!!」
ガラクは、レンガ造りがんばれよと言い残して去る。
この後、すぐにアルトはこの拡張布袋『無限袋』を使用した。魔術の練習ではなく、壊したレンガを隠蔽するために。




