第24話 アルト2号と弾け飛ぶテント
アルトは途方に暮れていた。
カルサムスの花は思っていたよりもはるかに多く必要だった。
これだけの量を集める間、パラライズビーから逃げ続けるなんて不可能だ。
クレアがこちらを見る。
「どうしよっか?」
この問いはアルトにとってどうやって花を集めるかという意味だけではなく、どうやって借金を返すかという意味にもなった。
3つの依頼を終えてから、髪飾りの支払いをするとノーマンに約束してしまっている。
依頼が達成できないなんてことは想定していなかった。考えがまとまらない。
アルトは無言のまま、クレアを見る。
クレアはアルトの答えを待っていた。しかし、ふと、口を開く。
「魔術で、おとり作っちゃってよ」
アルトが作れるのは、何かの塊だけである。
ファイアーボール、ウォーターボール、空気玉、アースボール、ライトボール、ロックボール……。
器用に動かしたところで、どれもおとりにはなりそうもない。
「無茶いうなよ……」
2人はまた口をつぐむ。
クレアはそこら中を行ったり来たりし始める。
アルトは相変わらず考え続けるが、よいアイデアは浮かばない。
クレアが隣でごそごそ何かしていたかと思うと、突然叫び声をあげた。
「おとり、できた!!」
座ったままアルトがクレアを見上げると、そこには木を十字架のように組んだものが立っていた。
上には革袋が被せてある。
革袋には、目のつもりだろうか、カルサムスの花が2つ付いており、口の部分には木の枝が取り付けてある。
こんな微動だにしないカカシが果たしておとりになるのだろうか、いくらなんでもパラライズビーをバカにし過ぎではないだろうか。
咄嗟にそう思ってしまったアルトだが、ふと、思い当たる。そして、上に着ていたシャツをカカシに着せ、上部に取り付けられた顔に当たる革袋に空気玉を込める。
慎重に魔力を操作する。そして、カカシが浮かび上がる。クレアが歓声を上げる。
「おお!さすがアルト!!」
人の動きとは似ても似つかないけれど、こんなカカシでも動いてさえいれば、引っかかってくれるかもしれない。
ダメでもともとだ。やってみよう。
3人?でカルサムスの花畑へ向かう。
先ほどのパラライズビーはいったん巣に戻ったようで、あたりはシンと静まり返っている。アルトが声をかける。
「よし、やろう」
クレアが答える。
「うん。がんばれ!アルト2号!!」
「ぇ?これ、僕なの?」
「うん、そっくりでしょ?」
腑に落ちないところもあったが、とりあえずは2号を行かせる。
ひたすら巣の下を通らせる。あっけないほど、簡単にパラライズビーが飛び出す。
遠目には黒い霧のように感じられる。2号を追いかける黒い霧。それは無数のパラライズビーだ。
アルト自身が逃げている時にはよく分からなかったが、はたから見ると、恐ろしい光景だった。
2号の制御に気を使いつつ、クレアと2人で、地面に張り付くように身を隠しながら、カルサムスの花を集める。
制御が難しい。今回は少しくらいパラライズビーに刺されたとしても問題ない。その代わり、ベビートレントやフォレストウルフに見つかってしまうと、一撃で破壊される可能性がある。
なかなかカルサムスの採集に集中できない。けれど、その分はクレアががんばってくれた。この前の薬草とは違い、間違う心配もない。
太陽が傾き始めるころには十分な量の花が集まった。
「帰ろう!」
アルトが声をかけ、3人?で北に向かって走る。パラライズビーが追いかけてこなくなったところで、2号の解体を始めようとする。すると、クレアが遮った。
「ええ!2号壊しちゃうの!?がんばって作ったのに!」
仕方なく、シャツだけを回収する。シャツは無数の穴だらけだ。思っていた以上に刺されていることに気付き、アルトは身震いをする。生身だったら、確実に死ぬだろう。
穴だらけのシャツだが、さすがに上半身裸で村に帰るのも気が引ける。アルトはとんでもなく風通しの良いシャツを着て、2号を手に持って帰った。
穴だらけのシャツと粗末なカカシ。東の詰所ではブロンに突っ込まれる。
「どういう状況だ?」
クレアが答える。
「アルト2号だよ!私が作ったの!」
ブロンは絶対に理解していないはずなのに、手放しに褒める。
「そうか!でかした!!」
適当過ぎる対応だが、クレアは誇らしげだ。
前衛のクレアにカカシなんて持たせるわけにいかなかったが、このタイミングでアルトはクレアに2号を押しつけた。
クレアは喜んで受け取り、2号と会話を始めた。今日はよく頑張ったね……とかなんとか。
冒険者ギルドでは他の冒険者たちの視線を集める。
メリルの列に並び、順番が来るとメリルが硬直した。一瞬呆れて、事務的な対応を取った。
「依頼の達成報告かな?」
完全にスルーする気らしい。アルトとしては助かる。
「今日はカルサムスの花の採集だけ。明日はアムレンセの樹皮を採ってくるよ」
報酬は大銅貨1枚だが、アルトとクレアに小銅貨5枚ずつに分けてくれた。
ここでクレアとは別れ、アルトはガラクの便利屋へ向かう。カルサムスの花を届けなければならない。
便利屋のテントの入口は固く閉ざされていた。声をかけるも返事がない。留守のようだ。
仕方なしに地面に木の枝で簡単な書き置きを残す。
「カルサムス採ってきた、アルト」
自宅に向かって歩くと、泥に埋もれ、穴の開いたテントが見える。
ああ、そうだった……と、ため息をつき、テントに向かう。
モックのところに行けば、またテントのことを突っ込まれるだろう。
少し、風の魔法で掃除するのを試しておいた方が良い。
テントに入り、まずはテント内の泥を外に飛ばすために空気玉を当てる。全然ダメだった。
今度は勢い良く空気玉を当てる。少しだけ飛ぶ。
圧縮空気玉を当てる、圧縮空気玉をもとのサイズにもどす、いろいろ試して、もっとも強く風を起こす方法を探る。
最終的な結論は圧縮空気玉の魔力的つながりを解く方法だった。
魔力的なつながりを失った空気玉は途端に周りの空気に溶け込む。この原理を圧縮空気玉に利用すると、もとの空気に溶け込む際に急激にもとのサイズに戻ろうとした。この時に起こる風がもっとも威力がすごかった。
アルトはさっさとテント内の泥を飛ばしきってしまおうと考え、とびっきり大きな空気を圧縮した圧縮空気玉を作り出した。
そして解放する。大きな風が巻き起こり、泥を一気に吹き飛ばす。
……それと同時にボンッと大きな音を立て、テントが弾け飛んだ。




