第23話 カルサムスの花畑とおとり作戦
メリルから依頼の説明がある。革袋を3つ渡された。それぞれの素材をこの中、いっぱいに詰めて帰ればよいとのことだった。
革袋は意外に小さい。良心的な依頼だ。
いろいろ考えた結果、もっとも厄介なカルサムスの花の採集を先に片付けることにする。
カルサムスは西の大きな森との境界を流れる川の南の方に多く自生している。
少し遠回りにはなるが、クレアと東の詰所から村を出る。まだ、モックにはバレないようにしておいた方が良いような気がする。
村の南側を通り、まずは川を目指してまっすぐ進む。途中、何度か魔物とも遭遇するが、問題なく対処して行く。
そして、やはりパラライズビーの巣も見つける。
アルトは巣を指さして言う。
「迂回しよう!クレアのパンツを守るために!!」
クレアは頬をぷぅと膨らませたものの、アルトに従う。まずまずいつものクレアだった。
順調に川まで到着する。クレアがはしゃいで、浅いところで水面をパシャパシャと叩いている。
「ねぇ、この向こうってどうなってるの?」
アルトは答える。
「僕も行ったことないんだよね。でも僕らだけじゃ行けないと思うよ。溺れちゃうよ」
川幅は広く、流れも急である。さらに続ける。
「それから、向こう岸の森はもっと広くて、魔物も強いって父ちゃんが言ってた」
クレアは少し考え込む。
「ふーん、ホントに行けないかなぁ」
アルトはヤバイ予感しかしない。咄嗟に言う。
「服、脱いで泳ぐの?」
「えっち……」
そうつぶやいて、クレアは南に向かって歩き出す。アルトも続く。
川辺を少し歩くと、少し先の方にオレンジ色の何かがチラチラと見え始めた。きっとカルサムスの花だ。
カルサムスは小さなオレンジ色の花がいくつもまとまり、遠くから見ると、玉のような形に見える。
少し進んだところで、先にカルサムスの花畑が見える。
「うっわぁー……」
クレアが喜びの声をあげた瞬間、アルトは慌ててクレアの口を押さえた。そして、すぐ近くの木の上にあるパラライズビーの巣を指さす。
予想はしていたが、花畑を取り囲むように多くの巣がある。
数えられるだけで10以上だ。クレアが怯えた顔でアルトを見る。
「これは……無理ぃ……」
「だよね」
2人はその場に座り込む。膝を抱えて座るクレアは、結局、白いパンツが見えているのだが、ひとまず無視する。クレアは呆けた顔をしている。思考停止状態だ。
こういった時、クレアは頼りにならない、アルトは1人で真剣に考える。ようするに花さえ集めれば良いのだ。革袋は小さい。片方がおとりになって、逃げている間に集めればなんとかなる。
アルトがそれを提案すると、クレアが即座に言う。
「じゃあ、アルトがおとりね!」
「ぇ?」
「アルト、私のパンツ守らなきゃだもんね!」
クレアが開き直った。
なんだか納得いかないアルトはクレアの足の間を指さして言う。
「ああ、今日も守り切れなかったなぁ」
クレアははっとして足を倒して横座りになるが、すぐにさっと立ち上がり、革袋をすべてつかみ取る。
そしてアルトをゴロンと、パラライズビーの巣のある木に向かって転がした。アルトが叫ぶ。
「うわぁっ」
その瞬間、巣から数十匹のパラライズビーがぶわっと湧き出した。そして、それに呼応するかのように他の巣からも次々にパラライズビーが湧き出す。ぶるっと身震いをするクレアが見える。
「なるべく早く集めてよ!!」
そう叫び、アルトは走り出した。
パラライズビーから逃げるの自体は慣れていた。しかし、今日は逃げ切ってはならない。縄張りを抜けてしまうと、今度はクレアが狙われる可能性がある。縄張りを抜ける直前で、方向転換する。
前方にベビートレントが2体。走りながらファイアーボールを2発放ち、気付かれる前に倒しておく。
フォレストウルフも襲ってくる。ひたすらファイアーボールで仕留める。
今度は別のパラライズビーの巣を発見、迂回は困難と考え、そのまま突っ切る。追いかけてくるパラライズビーの数が増える。
何度も方向転換を繰り返し、何度も余計な魔物を倒し、ますますパラライズビーの数は増え、そろそろ息も切れてくる。そろそろクレアは花の採集を終えただろうか。クレアのいる方向へ向かう。
アルトに気付いたクレアは叫んだ。
「アルト!これ、全然いっぱいになんないよ!!」
一部のパラライズビーがクレアに気付き、そちらに向かう。アルトが叫ぶ。
「クレア!逃げよう!!」
2人で並んで走る。チラリと後ろを振り返ると、パラライズビーの群れで、空が見えないほどであった。
なんとかパラライズビーの縄張りを抜け切り、アルトは地面に倒れこんだ。
「もう、無理」
クレアが真横に座る。今度はゆっくり失敗しないように横座りをした。なんだか窮屈そうだ。
アルトは肩で息をしながらも起き上がり、クレアの持っていた革袋の中を確認する。思っていたよりも底が深く、幅も広い。
クレアの集めた分はやっと底が隠れる程度といった感じだ。
「ぁ、これ、魔術具だ」
実際のサイズはこの前の薬草の時よりも少し大きいくらいだ。全くもって良心的な依頼ではなかった。




