第22話 仲直りの代償と3つの依頼
翌朝、アルトは目を覚ます。
昨夜開けたテントの穴からは光が差し込み、地面に広がる泥を照らしている。最悪の目覚めである。
そして、これからクレアのところに行かなければならない。憂鬱だ。
着替えてテントを出て、クレアの家へ向かう。
道すがら、また、地面の補修を行おうとするが、ずいぶんと道が綺麗になっていることに気付く。これでは魔術の練習ができない。小さな凹みも逃すまいと躍起になって地面を見つめながら歩き、ごくごく小さなアースボールで地面を埋めていく。こうも的が小さくなってしまうと、かなり神経を使う作業になった。
そんなことをしていると、朝食の準備をしている冒険者たちから、火をつけてくれと、声がかかり始める。ファイアーボールで火をつけてまわる。これは最早、日常となってきた。
そして、クレアのテント近くまで来ると、クレアとブロンが打ち合う音が聞こえてきた。やはり、稽古をしているらしい。
2人の姿が見え、恐る恐る近づいていく。一瞬、クレアと目が合う。すぐにブロンに視線を戻し、打ち込み続ける。若干、打ち込みがさらに鋭くなったような気がする。恐ろしい。
ブロンはこちらを見た。そして、こちらを見たままクレアの木剣を受け続けていた。珍しく困った顔をしている。ブロンのフォローは得られなさそうだ。
仕方なく、アルトは声をかける。
「クレア……」
クレアは打ち込みをやめ、アルトを見た。
「何?」
アルトは何て言うべきか分からなかった。とりあえず、謝ろう。後はもうノーマンが選んだ髪飾りにすべてを託すのだ。
「クレア、ゴメン……それで……」
アルトは髪飾りを差し出す。クレアはアルトの手元をじっと見る。数秒間経過した。口が半開きになっている。
突如、はっとしたように、ぷいっと顔を背ける。しかし、顔は背けたまま、明らかに目だけは髪飾りをガン見している。
そこで、困った顔をしていたブロンが吹き出す。
「おいクレア、もらっとけよ。お前らパーティーメンバーじゃねぇか」
クレアは顔を赤くし、おずおずと髪飾りを受け取る。
「次からは気を付けてよね!」
アルトはホッとして、答える。
「うん!次からはクレアのパン……」
と、答えかけたところで、クレアの手で口をふさがれた。
チラチラとブロンを見ながら、さらに念を押された。
「き!を!つ!け!て!よ!ね!!!」
そうか、ブロンにあまり怒っている理由を知られたくないようだった。アルトは最後の最後で少し失敗したようだ。
クレアは髪飾りを付ける。
アルトにはオシャレなんてものは良く分からない。けれど、クレアの濃いピンク色の髪の上で、精緻に作られた純白の花はとても美しく見えた。
満面の笑みで、聞いてくる。
「どう?」
緑の目でじぃっと見つめられ、アルトは少しどぎまぎして答えた。
「似合う……と思う」
ブロンが隣でニヤニヤしている。
その日の稽古はそれまでとなり、クレアの母親のヒルダも加え、4人での朝食が始まった。
いつも通り、ブロンが話し始める。
「クレア、良く似合ってるぞ!」
「アルトは女たらしだなぁ」
「クレアももう少し、おしとやかになったら、美人になるんじゃないか?」
「いやーアルトはセンスがいいなぁ」
クレアは終始ご機嫌であった。しかし、ヒルダが口を挟む。
「あんたも、あたしに何か買ってくれたっていいんだよ!」
ブロンが答える。
「お前には先週、剣を新調してやっただろ」
ヒルダが突っかかっていく。
「そういうんじゃねぇだろ!!」
少しずつ、会話が険悪になってきたところで、アルトとクレアは目くばせをし、そそくさと出かけた。
まず、今日は冒険者ギルドで依頼を受けるところからだ。
Eランク依頼、カルサムスの花の採集
Eランク依頼、アムレンセの樹皮の採集
Eランク依頼、チンクトリアの葉の採集
依頼料はすべて大銅貨1枚。クレアと分けるとすると、大銅貨1枚と小銅貨5枚ずつ。
今の手持ちと合わせると、大銅貨2枚、小銅貨14枚……。どう考えても、この依頼をすべてこなさなければ、大銅貨3枚分の借金を払いきれないのだ。
アルトはため息をつき、メリルにすべての依頼を受けることを伝える。事情を知らないクレアは楽しそうだ。
「アルト!やる気満々だね!!」
元凶となった髪飾りはクレアの髪の上に優雅に収まっている。
アルトはもう一度ため息をついてから依頼について考える。昨日は余裕がなかったが、よくよく考えると、すべてダンから教わったことがある植物ばかりだった。
カルサムスは体を温める効果、アムレンセやチンクトリアは若干だが、毒に効くと聞いたことがある。
昨日採取した薬草のように即効性も万能性もないが、長期の旅に出る際にはこういった植物の知識が役立つことがあるのだ。ダンはただ単に強いだけではなく、こういった面からも一流の冒険者だった。
さて、おそらく一番の問題になるのは、カルサムスの花の採集だ。花であるだけに、花の蜜を主食とするパラライズビーの巣も周辺にはかなりあるのだ。
よりにもよって、パラライズビーである。昨日の失態を思い出す。アルトはチラリとクレアを見て、スカートの裾だけは死守しようと心に誓った。




