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Fランク魔術師がゆく~才能無くても世界最強~  作者: キズキ
ポルケ村編 第2章:テント爆散から始まる魔法DIYと、領主様の夕食会

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第20話 沈黙のクレアと素手の討伐

クレアは呻いている。口や舌まで麻痺しているのか、言葉にならない。


残った1匹のパラライズビーに狙いを定め、ファイアーボールを放つ。一瞬でパラライズビーは焼け落ちる。

アルトは少し説教のようなものを始める。


「クレアのバカ!油断するから!!さっきのベビートレントの時だって……」


クレアは呻くばかりだ。


その時アルトの背後でガサリと音がする。

アルトが振り返ると、そこにはフォレストウルフがいた。即座にファイアーボールを放つ。一撃だ。

この森の魔物程度であればアルトだって一撃で倒せるのだ。

それにしてもクレアのことばかり言ってられない。アルトだって油断は禁物だ。

たった今、フォレストウルフにかなり接近されてしまった。アルトはクレアのような腕力も丈夫さも持ち合わせていない。

できる限り、魔物が遠くにいるうちに、できれば、気付かれる前に対処しなければならない。


アルトは集中し、周囲の気配をうかがおうとするが、クレアは相変わらず呻き続けている。

アルトはより集中し、周辺に気を配る。そして、3匹のフォレストウルフが近づいて来ているのに気付く。幸いこちらには気付いていないようだ。

クレアを守りながら3匹を相手にするのは得策ではない。


「クレア、静かに……」


アルトはそう囁いて、左手でクレアの口を押さえた。

少しずつフォレストウルフの気配が近づき、足音が聞こえ始め、そして、オオカミ特有のハッハッという息遣いが聞こえる。

いつ気付かれても良いように魔術を使う準備だけはしておく。

フォレストウルフは近くを通り過ぎ、少しずつ遠のいていく。

その時、左手の下でクレアの首がぶんぶんと振られた。アルトの左手は振り解かれ、クレアは真っ赤な顔で絶叫する。


「もぉぉおおお!!スカートくらい直してよ!!アルトのバカッ!!!」


そういえば、クレアは右膝を抱え、パンツ丸出しのままだった。

フォレストウルフには当然気づかれた。


「ぁ……ゴメ……」


アルトが咄嗟に謝りかけた時、すでにフォレストウルフはアルトに飛びかからんとしていた。

集中は途切れた。けれど、アルトはすぐに立ち上がり、準備していた魔術を放つ。無動作で、ファイアーボールを同時に3発だ。

1発目は先頭の1匹に命中。2発目も難なく命中。3発目はフォレストウルフの頭をかすめただけにとどまる。

飛びかかってくるタイミングを見誤ったのだ。つまり、ファイアーボールの下をすり抜けた直後、それは飛びかかってきた。

もう一発のファイアーボールの生成を試みる。アルトは思う。これが間に合わなければ、死ぬかもしれないと。

フォレストウルフは弱い。ファイアーボール一発で倒せる魔物だ。しかし、爪も牙も鋭い。

アルトは特別に丈夫なわけではない。ただ、魔術が使えるだけだ。一撃が致命傷になる可能性は十分にある。


一瞬、ゆっくりと時が流れるように感じる。迫ってくる爪と牙。魔力が炎を形作り始める。炎が小指の先ほどに膨らんだ時、すでに爪は眼前にあった。

これ、間に合わないやつだ……。


その時、アルトの足元から剣が生えた。本当にニョキッと生えたように感じたのだ。その剣はフォレストウルフの顎から脳天を貫き、そのままフォレストウルフを上方へぶっ飛ばした。


アルトは足元を見る。肩幅に開いた両足の間から、仰向けに寝転んだクレアが顔を出し、右手を上げていた。左手はしっかりとワンピースの裾を押さえている。


クレアと目が合う。クレアはぷいっと首を振り、アルトの両足の間で、寝返りをうち、うつ伏せになったかと思うと、そのまま、すくっと立ち上がる。

当然、アルトはそのまま後ろ向きに転ばされる。クレアは傍らで横たわるフォレストウルフから剣をぬきとり、汚れを落とすために下向きに剣を振る。

さっさと北東に向かって歩き出す。地面に座り込んだままアルトは南東を指さす。


「クレア、そっちじゃないよ」


クレアは振り返ってアルトを見て、また、ぷいっと首を振り、南東に歩き出した。

アルトがそれに続く。クレアは口をきいてくれなくなった。


その後も何度か魔物とは遭遇した。アルトが見つけ、クレアが切る。

途中、パラライズビーの巣も1度見つけたが、クレアが無言のまま勝手に石を投げてぶつけ、出てきたパラライズビーをすべて切り落とした。今度は油断しない。


薬草の生えているところにたどり着くと、アルトはクレアにどれが薬草か説明し、それぞれ、薬草を集め始める。ほぼ、会話なし。大変気まずい。


ある程度集まったところで、アルトはクレアから薬草を受け取る。薬草ではなく、薬草っぽいものが混じっていたので、それを取り除く。するとクレアから睨まれた。理不尽だ。

なんだかんだで、薬草の依頼は完了する。


帰り道、このままではベビートレントの依頼が終わらない。アルトが気にし始める。


「クレア、そろそろベビートレントを傷つけずに倒す方法を考えないと……」


アルトが次にベビートレントを見つけると、クレアは一息にベビートレントのそばまで飛び出し、あろうことか素手でぶん殴った。しかし、ベビートレントはへし折れてしまう。

その次には、クレアは近くまで近寄り、伸びてきたベビートレントの枝をつかみ、ぐっと手繰り寄せた。のけぞるように前に飛び出す本体をつかみ、苔の生えた柔らかそうな土の上にばんっと打ちつける。

ベビートレントはそれでは死ななかった。クレアは繰り返し打ちつけた。ばんっばんっばんっばんっばんっばんっばんっばん……ベビートレントは息絶えた。

クレアはベビートレントの死骸をつかんだまま歩き出す。

アルトは正直怖かった。


気まずい空気のまま、村にたどり着く。入口ではブロンが迎えてくれる。


「ぉ、帰ってきたか!どうだった?……ん?ケンカでもしたか?お前らホント仲いいよなぁ!」


そんなことを言い、笑い始めた。クレアはぷいっとブロンからもそっぽを向く。そんな状態のまま、冒険者ギルドへ行き、報酬を受け取る。大銅貨2枚だ。クレアに1枚渡し、そこで別れた。

アルトは、ホッとため息をつく。そこで、ノーマンが依頼を出したと言っていたことを思い出した。アルトは独りでそれを確認する。


Eランク依頼、カルサムスの花の採集

Eランク依頼、アムレンセの樹皮の採集

Eランク依頼、チンクトリアの葉の採集


依頼主はすべてノーマンで、報酬はすべて大銅貨1枚だ。

一通り、ダンから教わったことがある名前のような気がするが、実際に採集したことはない。依頼としては珍しいものではないだろうか。

しかし、そんなことよりも、この依頼、独りで受けることになるのだろうか。『魔剣』は解散するのかもしれない。

アルトは、はぁとため息をつき、気晴らしに子供向けの露店でも覗いてみようと、南側からギルドを出た。


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