第19話 おが屑のトレントと麻痺した幼なじみ
クレアは左足首を自分の背丈の2倍ほどの高さのところで逆さに持ち上げられている。
濃いピンクの髪は重力に従い、下に垂れ下がる。ワンピースの裾も腰まで落ち、白いパンツは丸見えである。しかし、さすがに今は、アルトもそれを指摘しない。
ベビートレントはアルトを見つけ、木の根に見える足をちょこまかと動かしてアルトに近づいてくる。意外に俊敏だ。
そういえば動いているベビートレントと戦うのは初めてかもしれない。いつも、発見して即座に焼いてきた。アルト自身、意外な力の強さと素早さに驚いていた。
しかし、素早いとはいっても、フォレストウルフほどではない。
ファイアーボールで仕留めようとする。すると、ベビートレントはクレアを盾にするように前面に掲げてきた。
別の方向から当てようにも、木が多すぎて難しい。
万が一燃えやすい木に当たると大惨事になる可能性がある。
クレアは右手の剣をぶんぶん振り回すが当たらない。
そうこうするうちにワンピースはずり落ちていき、裾はクレアの顔にかかった。
そこで、クレアは自分の状態に気付いたようだ。剣を振るのをやめ、左手で裾をつかみ、パンツを隠す。真っ赤な顔でアルトを見る。涙目だ。
しかし、それが、怒りの表情にかわる。
一瞬体を反らしたかと思うと、宙吊りのまま腹筋をするように体を起こす。
足に絡みつく枝を左手でつかみ、右手の剣で切り落とす。
難なく地面に着地する。すぐさまベビートレントを切る。一撃でベビートレントは息絶える。
だが、そこでは止まらない。ベビートレントが倒れ地面に落ちるまでにさらに3回。この段階で、ベビートレントの体は5つに分かれた。
さらにクレアは剣を逆手に持ち替え、地面に転がるベビートレントの死骸に向かってザクザクと突き立てる。
最後は剣の腹をバンバンと叩きつけ始めた。
アルトは呆気に取られて見守っていたが、我に返る。
「クレア……」
クレアが振り向く。
「何……?アルト」
クレアは笑顔だ。だが、いつもの笑顔ではない。こんなクレアの顔を見たことはなかった。
クレアの足元には、おが屑一歩手前のベビートレントが散らばっていた。
クレアの気が済むまで少し待ち、改めて2人は先へ進み始めた。
アルトが索敵し、クレアが倒す。クレアはフォレストウルフとは相性が良い。フォレストウルフの攻撃はいたってシンプルだ。クレアが引けを取るはずがない。
その反面、やはりベビートレントは少し苦手そうだった。また、先ほどのように間違って普通の木を切ってしまうこともあった。
けれど、枝がクレアに触れることはもうなかった。
枝がクレアに近づいた瞬間に察知し、枝に一撃を加えてから本体を確実に倒した。
油断さえしなければ、クレアは強いのだ。
そろそろ素材回収のために傷を付けずに倒す方法を考えないと……アルトがそんなことを考え始めた頃、一番警戒していたものを見つける。
パラライズビーの巣だ。
迂回して進むのが定石なのだが、クレアはパラライズビーを見たことがない。どんな魔物か1度くらいは見せておくべきだろう。
アルトはクレアにパラライズビーが、いかに怖いかを説明をする。
蜂の魔物であること。
1つの巣に数十匹は住んでいること。
一匹一匹は弱いが、小さくて倒し難いということ。
刺されると一定時間麻痺して動けなくなること。
麻痺している最中に複数匹に刺され続けると、心臓まで麻痺して死に至ること。
最後にまとめると、実質、2人して刺されたら、もう生きて帰るすべはないということだ。
クレアは神妙な顔をしていた。そして聞く。
「で、どうするの?」
アルトが答える。
「いつもは絶対近づかない。巣から離れて進むんだ。もし、見つかった場合は逃げる。パラライズビーの縄張りは狭いから、あまり遠くまでは追いかけて来ない」
クレアはなるほどと納得する。
アルトが続ける。
「今日はどんな感じで逃げるのか1回やってみようかと思ってるんだけど、どう?」
クレアはやる気満々だ。
「やろっ!」
じゃあ、とアルトはクレアを手招きして、巣の反対側まで移動する。
この方向なら、薬草のある方角へ逃げられる。アルトが巣に向かって手をかざす。
「行くよっ!」
使うのはアースボールだ。土の塊がパラライズビーの巣に直撃する。その途端、ぶわっと親指大の蜂の群れが湧き出した。クレアが声を上げる。
「おおおっ!!」
アルトが駆け出す。
「さぁクレア!逃げるよ」
クレアも続いたが、少しして言った。
「あれ、なんだか、倒せそうな気がするんだけど、戦っちゃダメ?」
「ええっ!?」
アルトは考えながら、少しだけ減速する。クレアはそれをオーケーの合図と受け取ってしまい、振り返りざま、剣を振る。3匹のパラライズビーが落ちる。
続けて、二振り目、三振り目、四、五、六……休むことなくクレアが剣を振り続ける。
16回目でクレアは静止し、剣の汚れを落とすために下向きに剣を振り、アルトを振り返る。
「どう?」
アルトが叫ぶ。
「危ない!クレアもう1匹残ってる!!」
アルトがクレアの足を指さす。
ぶーん……とゆったりとクレアの右膝に止まり、ぶすっ。
「いったぁぁああああい!!」
クレアが右膝を抱え、左足で飛び跳ねたかと思うと、そのままの体勢で仰向けにバッタリと倒れた。
またも、パンツ丸出しの体勢であった。




