第15話 武器のメンテナンスとメリルの悲鳴
村の中心に向かう道すがら、火起こしとFランク依頼のお願いをして回る。
東地区では主にクレアに声をかけてもらう。
「火、アルトがつけるよー!」
こちらではクレアの方が顔を知られている。
「クレアちゃん、おはよう。今日も早いねぇ」
クレアが楽しそうに話す。
「最近、冒険者始めたんだぁ」
「へぇー、すごいねぇ」
「『魔剣』っていうパーティーなの!ギルドで依頼だしてね」
アルトはせっせと焚火に火をつけて回る。
これで、とりあえずは東西南北すべての地区での冒険者としての自己紹介が完了した。今後もことあるごとに話しかけることにしよう。
村の中心にたどり着くが、今日は冒険者ギルドには入らず、まずは残り1世帯の立ち退き依頼先へ行く。テントに声をかけるも返事がない。留守のようだ。
もしかして、これが2人をEランクに上げないためのダンの準備したトラップなのかもしれない。アルトは少し不安になる。
気を取り直して、ノーマンのテントに向かうがこちらも留守である。とりあえず、バルディア商会のテントに向かう。しっかりと記憶していたわけではないが、周辺のテントが減っているような気がする。
バルディア商会の入口には「閉店」の看板が立てられている。仕方がない。時間が早すぎるのだ。しかし、一応、テントの中を覗くと、ノーマンがカウンターで、ティーカップを片手に待ち構えていた。
「おはよう」
とっさにアルトは答える。
「おはよう……ございます」
すぐに依頼の詳細説明が始まる。1つはノーマン自身のテント、それ以外は周辺に残る3つの冒険者のテントで、それらと移転先、移転後のテントの向きが記された地図が渡された。
ノーマンのテントについてはいつでもよく、それ以外は今日の日中、冒険者が外出中にテントの設営と内部の荷物も元通りにする約束だった。また、バルディア商会の裏に荷車も準備してあるから、それを使って良いとのことだ。完璧に準備されている。
バルディア商会のテントを出て、次は武器・防具の油塗りの依頼先へ向かう。依頼主は昨日話をした冒険者の1人だった。アルトが挨拶する。
「おじさん、おはよー!」
「お、来たか。おはよう。しかし、早ぇなぁ」
テントの中から、剣が3本、革鎧が1つが運び出された。
アルトの目で見ても状態はかなり酷かった。どちらも中級以下といった代物だ。そして、剣はところどころ錆付き、刃こぼれもあった。これを塗ってくれ、と小瓶に入った油と布を渡される。
アルトは困惑しながら聞く。
「この油、革用のものだよね?剣には剣のための油があるから、買っておいた方が良いよ。それから、これだと油を塗ってもあまり効果ないと思うよ。砥石、持ってる?」
「いや……ない……お前ぇ、詳しいなぁ。父ちゃんは鍛冶師か何かか?」
アルトは近くに転がる石の中でなるべく平たいものを探し出し、剣をウォーターボールで少し湿らせ、研ぎ始めながら、答える。
「冒険者のダンだよ」
クレアも続けて言う。
「私のパパはブロンー!でも、うちには剣用の油しかないよー」
依頼人の冒険者は黙って、頭を掻いた。この村で、ダンとブロンを知らない者はほとんどいないのだ。
クレアがウォーターボールで湿らせた布で、革鎧の汚れを落とす。
アルトがウォーターボールで剣を洗い、乾いた布で、剣を拭く。
クレアが乾いた布に油をしみこませ革鎧になじませていく。
アルトが乾いた布に油をしみこませ剣に塗っていく。
手際よく作業が完了した。剣も防具も見違える仕上がりだ。アルトもクレアも普段から、親の手伝いでやっていることなのだ。
報告書を受け取る。現地で直接作業をする依頼はこの報告書が、依頼完了の証明となる。依頼人に見送られながら、バルディア商会に向かう。
バルディア商会の裏で、荷車を借り、ノーマンのテントへ行く。中を開けると、ところ狭しと様々な物が転がっていた。
積み上げられた多数の木箱と樽、中には塩漬け肉、干し肉、カチカチの保存パン、わさっと詰め込まれたポーション。
束ねられた麻縄、ランプの替えの油、大量の松明など の消耗品の類。
束ねられた多数のフォレストウルフの毛皮、魔物の牙や骨などの素材類。
それ以外にも、魔石の詰まったズタ袋、大量の書類、さらには高級そうな真鍮の天秤や銀の燭台、宝石箱まである。
しかも、テントの壁のいたるところにメモが貼られている。
クレアが嘆く。
「こんなの今日中に運びきれないよー」
アルトはテントの外を改めて見る。明らかにテントのサイズが合わない。そして、あれだけの素材類があるのに匂いがしなかった。そして、テントは地面のシートと一体型のようだ。
アルトがクレアに言う。
「大丈夫。これ魔術具だよ」
アルトはテントを器用に畳んだ。
移転先はずいぶんと南の方だった。三角の土地とは別に借りたらしい。移転先でテントを広げ中を覗く、やはり中身に変化はない。
他のテントの荷物は少なく、簡単な移動だった。うち3世帯は南地区の比較的近いところ、もう1つは西地区にあった。南地区の3世帯を終わらせ、荷物とテントを積んで、西地区へ向かった。
途中でノーマンと出会う。これまでほとんど見かけなかったというのに、昨日からやたらと出歩いている。忙しそうだ。
「ああ、最後の1か所かな?もうこれは渡しておくよ」
ノーマンから、報告書を受け取る。やはり忙しいようだ。
最後のテントの設置、荷物の運び込みを終え、冒険者ギルドに向かう。西側の入口のすぐそばに荷車を置き、中に入った瞬間、メリルが叫んだ。
「アルト君!!」
怒っているような気がする。クレアがアルトの後ろに隠れる。メリルが続ける。
「これ!どうすんのよ!!」
メリルが紙の束をテーブルに叩きつける。
アルトが駆け寄り、紙を手に取る。
Fランク依頼 ブーツ・革鎧の洗浄
Fランク依頼 魔石の色、サイズ分け
Fランク依頼 野草・根菜の泥落とし
Fランク依頼 武器・防具のメンテナンス
Fランク依頼 荷物の配達
Fランク依頼 ロバのブラッシング
Fランク依頼、Fランク依頼、Fランク依頼、Fランク依頼、Fランク依頼……。
そう、受ける者がいなかったというだけで、潜在的にこの村にはFランク冒険者の需要があったのだ。
ノーマンのアドバイスが頭をよぎり、アルトが咄嗟に答える。
「友達を冒険者に誘います!」
実はアルトに友達は少ない。これまで、父と行動を共にすることが多かったからだ。咄嗟に答えたが、当てはなかった。
メリルは少し考え、新しい紙に何か書きなぐって、アルトに手渡した。
「指名の依頼よ。これはあなたたちでやりなさい!!」
アルトは紙を見る。
Fランク依頼 Fランク冒険者10名の勧誘
報酬:小銅貨5枚




