第13話 丸太の暴走とアースボール
空中を舞うクレア。
アルトは空気玉をぶつけることを考える。しかし、これだけの勢いを止めるのは不可能だろう。こういった場合は水が手っ取り早い。
しかし、ウォーターボールはまだ空気玉ほど練習を積んでいない。そこまで、大きなものを作り出せるか自信がない。
それでも、アルトはなるべく大きなウォーターボールを作り出そうと右手に魔力を込めようとする。その瞬間、つい、アルト自身の丸太の先に新しい圧縮空気玉を作り出すのを忘れる。慌てて空気玉を作ったが、バランスを崩し、自分も丸太の横に投げ出される。
視界の端で、クレアがひらりと一回転して、着地するのが見えた。アルト自身は道端に勢いよく転がった。空気玉を失い、丸太はずんっ、と大きな音をたて、地面を削って止まる。
クレアの笑い声が響く。
「きゃはは!!もう1回!!!」
泥だらけのアルトは答える。
「やらないよ!」
泥を払い、改めて、丸太にまたがった。
今度はそこそこのスピードで止める。クレアが不満そうに聞いてくる。
「ねぇ、もっとスピード出さないの?」
アルトは傷だらけである。自分の失敗で引き起こした事故ではあるが、少し恨めしそうに聞き返す。
「クレア、今日もパンツ、白だったね。スピード出す?」
クレアはそっぽを向いて答えた。耳は真っ赤だった。
「このままでいい」
その後は順調で、夕方頃には全ての丸太を運び終えた。
ギルドに入るところで、ノーマンとすれ違い、挨拶をした。冒険者ギルドに何の用なのだろうと、不思議に思いつつ中に入る。
そこで、もしかすると、Fランク依頼を出してくれたのかもしれないと思い当たり、少し期待しながら、依頼書を探す。
そこで、5枚の依頼を見つけ出した。
Fランク依頼、引っ越しの手伝い
Fランク依頼、引っ越しの手伝い
Fランク依頼、引っ越しの手伝い
Fランク依頼、引っ越しの手伝い
Fランク依頼、武器・防具の油塗り
5枚とも剥がして持っていく。
こんな村でも、この時間の冒険者ギルドはそれなりに忙しい。日中依頼をこなした冒険者たちが受付のテーブルの前に並んでいる。
メリルの列に並び、少し待つ。他の冒険者たちに少し奇異なものを見る目で見られる。
目が合ったので、アルトは他の人にも聞こえるように大きな声で挨拶する。
「最近、冒険者パーティー始めました!『魔剣』のアルトとクレアです!よろしくお願いします!」
クレアも続く。
「お願いしまぁす!」
メリルがこちらに気付き、額に手を当て、ため息をつく。
アルトたちの順番が来る。メリルはいつになく、疲れた表情をしている。
まずは、依頼の完了報告だ。報酬はやはり小銅貨2枚。クレアと1枚ずつに分ける。
丸太置き場のテントを確認したメリルは呆気に取られていた。これで、Eランクまであと7つだ。
そして、5枚のFランクの依頼書をすべて受けることをメリルに告げる。メリルがため息をついて答える。
「分かったわ。まぁ、そうなるわよねぇ~」
依頼の説明を聞く。武器・防具の油塗りは北地区の冒険者、引っ越し依頼はすべてノーマンのバルディア商会からの依頼であった。
ノーマンからの依頼の方は明日の早い時間に、北地区の冒険者の方へは明日の時間はいつでも良いから、直接顔を出すようにとのことだった。
アルトは、ノーマンがなぜ、4件もの引っ越し依頼を出したのか、気になり、その点を指摘する。
メリルがため息混じりに説明してくれる。
「バルディア商会が南東地区の土地を買いたいって言ってきたのよ。さすがに私1人じゃ決められないし。ギルドマスターに聞かないと。でも、土地の貸し出しまでは約束させられてしまいました……」
この村はそもそも冒険者だけで出来上がったという特殊な成り立ちである。それ故、領主からの依頼を受け、土地管理までも冒険者ギルドが行っている。
それにしても、Eランクにしてはならないはずの冒険者はEランクになりそうだし、土地売買の話は持ち上がるしで、メリルの気苦労は絶えない。
アルトは少し申し訳なく思いつつ、冒険者ギルドを後にする。
クレアと別れる前に、残りの立ち退き依頼の冒険者のうち、3世帯が帰ってきていたので、そちらもこなす。
ついでにFランク依頼のお願いをし、夕食のための火起こしをしてやる。すると、あちこちから、声がかかったので、片っ端からファイアーボールで火をつけ、Fランク依頼のお願いをして回る。
クレアと別れた後も西の端までの道のりは火起こしとFランク依頼のお願いだ。
今日新しく受けた依頼はほとんどノーマンからのものだ。これからも依頼があるとは限らない。徹底的にやるのだ。
帰りつき、モックと夕食を取る。
モックからは冒険者は順調かと尋ねられる。モックがダンからどれくらいのことを聞かされているか分からない。慎重に順調だと言うことだけを伝える。
食後は寝床に入り、ライトボールを浮かせて、魔術の練習に取り組む。
ブリーズステアの練習、それから、制御できる圧縮空気玉を増やす練習をしてから、今日の出来事を振り返る。反省すべきは丸太を転倒させたことだ。あれが、クレア以外だったら、大けがにつながったはずだ。
ウォーターボールをもっと練習しなければ。その前に取り急ぎ道を補修することを考えた方が良いのかもしれない。土が必要だ。
「万象を司る土の神よ。我が魔力を糧として、原始の土を此処に顕現せよ。アースボール」
魔力が吸い出される感覚。これも何とかなりそうだ。
何十回も唱え続けた後、泥玉が放たれ、テントの壁にぶち当たって、砕けた。
テント内でこれは大変まずい。
片付けは明日で良いか、とアルトは諦める。ふと、先日、クレアがテントを切り裂いたところがそのままになっていることに気付く。
アルトは手を伸ばし、夜の闇に向かってアースボールを唱え続けた。




