第11話 立ち退き依頼とバルディア商会
早朝、クレアと2人でダンとシアンの出立を見送る。
「いってらっしゃーい」
これで当分の間、村での行動はダンの耳に入らない。
ここからが本番だ。
「クレア、今日はまず、立ち退き依頼を受けよう!」
クレアはきょとんとしている。
「おお、アルトがやる気満々だ」
冒険者ギルドにたどり着くと、メリルが待ち受けていた。
今日の立て看板の内容を見る。
Fランク依頼、ギルド南地区10世帯の立ち退き依頼
Fランク依頼、北地区での30本の木を伐採、ギルドへの運搬
木材の調達が復活している。昨日と全く同じだ。まぁ、たったの30本では宿屋は作れない。
しかし、今日の本命は立ち退き依頼の方だ。
依頼の説明を聞くため、アルトはテーブルを挟んで、メリルと向かい合う。クレアはアルトの右後ろ辺りに立った。
テーブルの上に地図が広げられた。
冒険者ギルドを中心にした円形の村、村の東西と南北にまっすぐ大きな道が通っている。また、それぞれの道の間にも大きな道がある。
つまり、大きく北東地区、北西地区、南西地区……と8つの地区に分かれているのだ。
そのうち、南西地区のテント10世帯に移動してもらう計画だ。
10世帯のうち9世帯は冒険者、残り1世帯が商人とのことだ。
地図には移転先の候補地も10か所記載されており、そのどこかに決めてもらうところまでが依頼内容だった。
候補地は村の中心近くに集まっている。また、宿屋の建設は領主の勅命であるらしく、交渉はスムーズに進むに違いない……というか、そもそも田舎の冒険者ごときが逆らったら、死罪だ。
とは言え、アルトも所詮は4歳児。そんなに事細かに説明できるものではない。基本的には挨拶をして、手紙を渡して、移転先を決めてもらって終わりということだった。
話の途中から、遥か後方で剣の素振りを始めていたクレアを呼ぶ。
「クレアー行くよー!」
クレアが目を輝かせて聞いてくる。
「私、何すればいい?」
アルトは考える。
「いつも通り……かな?」
「なるほど」
と答え、何を納得したのかは分からないが、クレアは剣を構えた。
アルトは慌ててたしなめる。それじゃ脅迫だ。
さて、まだ朝早い時間ではあったが、すでに出かけている冒険者パーティーもいる。目についた人からどんどん声をかけることにした。
当然のことながら、アルトが先導する。
「こんにちは。冒険者ギルドから派遣されてきました『魔剣』のアルトとクレアです」
クレアが後ろでペコッとおじぎをし、アルトは手紙を渡す。相手が読み終えるのを待って、地図を見せ、移転先を決めてもらう。そこまで終えて、アルトが切り出した。
「ところで、実は僕たち、冒険者を始めたところなんです。もし、引っ越しの暇がなければ、ギルドに依頼を出しておいてくれたら、僕たちが荷物を運んでおきます」
相手も冒険者、ランクのことは理解している。なるほどと納得し、気が向いたら考えておくと答えてくれた。
Fランクの依頼がなければ、作ればよい。これがアルトの考えていた作戦だ。
とは言え、ダンに察知されては困る。出かけたこれからがチャンスだ。
南地区の移転依頼を足がかりに南地区で仕事を募集し、自分のテントとの行き帰りで西地区、クレアのテント方面の東地区、木材調達の北地区。アルトの行動範囲は村中に広がる。きっと10個の依頼くらい作り出せるに違いない。
立ち退き依頼は同様のやり取りを繰り返し、5世帯の冒険者との交渉が完了した。他の4世帯は留守だったので、後に回すことにする。
商人のテントも留守であったが、メリルから商店の場所も聞いていた。南西地区からすぐ近く、南東地区にある一番大きなテントがそれだった。入口にはバルディア商会という看板が掲げてある。ダンと何度も行ったことがある店だ。しかし、店長っぽい人は見たことがなかった。
中に入ると、店員の女性が出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
白いシャツに黒いベストとスラックス、ベストの襟やポケットの折り返し部分には緑を主体にしたタータンチェックの装飾が施されている。この店の制服だ。
「こんにちは。冒険者ギルドから派遣されましてきました『魔剣』のアルトとクレアです。店長のノーマンさんはいますか?」
「少々お待ちください」
店員は答え、奥に入っていった。すぐにノーマンが出てきた。商店とは言え、所詮はテント、狭いものだ。
ノーマンも服装は店員と同様だ。加えて、銀髪を七三に分け、丸眼鏡をかけ、白い手袋をしていた。なかなかこの村ではお目にかかれないような風貌だが、制服のいたるところが少しくたびれ、全体的に疲れて見えた。
「これはこれはアルト君とクレアさん。いらっしゃいませ」
ノーマンと2人は初対面だった。きっと奥で話を聞いていたのだろう。アルトがそんなことを思った矢先、ノーマンがさらに付け加えた。
「ダン様、ブロン様にはいつもご贔屓にしていただいております」
突然、父親の名前が出てきたことに、アルトもクレアも面食らってしまう。
それでも、依頼を先に進めようと、アルトが話す。
「今日はギルドの用事で来ました」
手紙を差し出す。
ノーマンは内容を読み始める。冒険者たちより、時間をかけゆっくりと読む。
アルトはなぜかすごく緊張した。声をかけようか迷っていると、ノーマンが口を開いた。
「なるほど、移転先の候補地はどこになりますか?」
アルトは地図を手渡す。
これまたノーマンはじっくりと地図を眺める。
「これ以外の土地を借りることはできないでしょうか?」
これまでにない返答だ。アルトは言い淀みつつも答える。
「それは……メリルに聞いてみます」
「では、ここを借りられるか聞いてください」
そう言いながら、ノーマンは地図の一点を指さした。
それは宿屋の建設予定地と冒険者ギルドの間にある小さな三角形の土地だった。




