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つぎはぎの真相・後編

「高橋さん、あれ⋯⋯」

湊が高橋の背後を指差す。

「え?何が⋯⋯」

高橋が振り返る。


直後――。

高橋が猛スピードで駆ける。

澪も高橋の奥を見る。

「はっ」

その視線の先には、一人の男性が倒れている。

男性に近づいた高橋が呼びかける。

「大丈夫――」

「どうした、高橋さん」

「死んでる」

高橋の声には、いつもの軽さはなかった。

開いた口。光のない双眸。背中に刺さったナイフ。

澪は何も言えなかった。


「高橋さん、この人って⋯⋯」

湊が呟く。

「猪野長次⋯⋯」

黒いパーカーに黒い帽子。監視カメラで見た猪野長次本人だ。

「じゃあ、犯人死亡で事件解決⋯⋯?」

「だったらいいな」

高橋が猪野の足元を指さす。

そこには、目が全て1のサイコロ。

そして――。

「こっちは嬉しくないけどな」

『i am glad to meet you again.actor』と書かれたチケットがあった。


「高橋さん、どうします?猪野さん見つかりましたけど」

「遺体でな」

高橋はため息をつく。

「猪野が犯人じゃなかったのかよ」

「そうっすね、こっからどうします?」

「まずは情報待ちかな」

「『監視カメラは?』」 

「ああ、確かに。見てみるか」


「まじか⋯⋯」

監視カメラの映像を映した画面。そこには、黒いパーカーに黒い帽子の男性がいた。

「これって⋯⋯」

「健一さんじゃん」

ナイフを握った健一が猪野の背中を睨んでいる。


「健一さん、何で?」

「恋人と妹を殺された恨みだろうな、健一を探すぞ」

「まぁ、そうなりますね」


ブブッ。

「もしもし、高橋です」

『ああ、高橋さん。鑑識の撫子です』

「ああ、君か。どうした?」

『凶器のナイフですが、指紋が検出されました』

「それで、誰のだったか分かるか?」

『はい。篠森健一さんのです』

「じゃあ、篠森健一が犯行に及んだのか」

『ええ、おそらく。それと、指紋関係の話があと二つあります。いい話と悪い話とどっちからがいいですか?』

「そういうのってどっちから聞くべきなんだ」

高橋は独りごちる。

「アメリカンジョークでは、悪い話で『あなたの家が燃えている』いい話で『それが嘘』っていうのが有名ですけどね」

「じゃあ、ここは日本だから、いい話から」


『いい話は猪野の指紋を調べたところ、第一の事件の凶器についていた指紋と一致しました』

「悪い話は?」

『あなたの家が燃えている』

「は?」

『嘘です』

「おい」

低い声が響く。

「冗談言ってんじゃねぇぞ」

『すいません』


『悪い話は、第二の事件の凶器についていた指紋が猪野のものと一致しませんでした』

「じゃあ、誰のなんだよ?」

『すいません、警察のデータベースでは一致するものはありませんでした』

「他にも質問いい?」

湊が無線に話しかける。

『いいよ、コミュ症探偵の相棒さん』


私ってそんな呼ばれ方されているんだ⋯⋯。少し、失礼じゃない⋯⋯?


「『あのチケットについて何か分かった?』」

『ごめんね。特に、分かってないんだ』

湊は澪から送られてきたメッセージを読み上げた。

「『サイコロも?』」

『うん、カウントダウンやカウントアップでもなそうだしね』

「確かに、最初は2、次は4、その次は1だね」

「日付か?いや、犯行時刻かもしれないな」

『死亡推定時刻を確認しましたが、数字と一致しませんでした』

「じゃあ、日付?」

「4から1に戻るのは何でってなりますよ?」

「そうか、そうだよな」

高橋が頭を抱える。

「犯人誰なんだよ〜」

「俺のセリフ取らないでくださいよ」

「誰のセリフでもねぇぞ」


『あっ』

「どうした?」

『高橋さん、監視カメラで篠森健一が見つかりました』

「どこだ?」

『位置情報送ります』

スマホに、地図が映し出される。

地図上の公園の位置に点が示されている。

「行くぞ」

「はい!」


「何やってんだ?あいつ」

公園では、ブランコに座っている健一が星が瞬き始めた空を見上げている。

「篠森健一さんですね?」

健一がこちらを見る。

その目には、光るものがあった。

「署まで、ご同行願いますか?」

「フッ」

その顔には、大仕事が終わったようなそんな安堵が滲んでいる。

「ああ、構わない。だが、その前に俺の話を聞いてくれないか?」

高橋が答える前に健一は話を続ける。

「俺たちは仲良かったんだよね。奈々とも五百里とも親父とも」

「だから、何だ?」

「いや、特に」

健一は長い息を吐く。

「猪野はさ、奈々も五百里も殺したんだ。だからさ、」

澪はその顔には見覚えがあった。

湊がたまに見せる優しく儚く恐ろしい笑顔だった。


「死んで当然だよね」


「どんな殺人鬼でも愉快犯でもテロリストでも死んで当然なんて人間はいねぇんだよ」

「それは警察の意見か?それとも、何も大事なものを喪っていないあんた個人の意見か?」

高橋の舌打ちが夜空に響く。

「俺だって守れなかったものがあんだよ」

「へぇ、それは署で詳しく聞こうか」

「ああ、最初からそのつもりだ」

そのまま健一は高橋に連れてかれた。

「一件落着かな」

湊が頭に手を当てる。

「帰ろっか、澪」

「う、うん」


何かが引っかかる⋯⋯。凶器の指紋のこと?第二の事件に落ちてたボタンのこと?

もう眠くて頭が回らないや⋯⋯。


         *


ジリリリ。

目覚ましがここぞと言わんばかりに仕事をする。

「眠い」

澪はまだ重いまぶたをこすりながらテレビをつける。

ニュースキャスターがスポーツ報道で日本が優勝したことを告げている。

「湊見てるかなぁ」

スマホを見ると、湊からのメッセージがあった。

『ニュース見た?』

テレビは切り替わり、次のニュースになっていた。

「昨夜未明、殺人事件が起きました」


あれかな⋯⋯。猪野さんが亡くなった事件かな⋯⋯?


「被害者は八戸武雄さん、八十一歳」

「え?」

澪は混乱する。

昨日にまた違う事件が起きたの?


「自宅の玄関前で亡くなっているのを八戸さんの息子が通報したそうです。警察は一昨日から続いている連続殺人犯の犯行と見て捜査している模様です」


また新たな被害者が⋯⋯。


「澪起きてる?」

玄関では、湊が澪を呼ぶ。

「どうしたの?」

「高橋さんから連絡」


「で、あの事件は昨日の事件と何か関連が?」

「関連も何も、サイコロとチケットがあったんだ」

「まじっすか⋯⋯。目と文面は?」

「サイコロの目は全て3」

「2、4、1ときて次は3。どういうこと?」

「俺だって知りたいな」

スーツの内ポケットから手帳を取り出す。

「チケットは『see you again. actor』だってさ」

「『また会おう』?もう事件は終わりってこと?」

「いや、『また会おう』だから次の事件のことを示唆しているのではないか。少なくとも上はそう見ている」

「まじか⋯⋯」

「そしてだ」

額に手を当てて、ため息をつく。

「八戸さんの死亡推定時刻には、健一は俺が尋問してたんだよ」

「高橋さん⋯⋯。駄目だよ、犯罪に加担しちゃ」

「してねぇよ」

高橋はため息をつく。

「それに、今回の凶器についていた指紋は健一のものとは一致しなかった」


「だから犯人も分からないんだよな」

『このサイコロの謎を解けばいいんじゃないの?』

澪もメッセージで会話に参加する。

「でもな〜、何だ?この数字」

テーブルには、手帳に書かれた4つの数字の羅列。

「とりあえず、適当に思いつくもの言ってくか」

「アルファベット!」

「B、D、A、Cってことか、でもbdacなんて単語知らねぇぞ」

「ほな違うか」

澪が袖を引っ張る。

目で訴えた内容を湊は分かってくれたみたいだ。

ポケットからスマホを取り出す。

「『人物ってことはない?』」

「どういうことだ?」

「『奈々さんが2、五百里さんが4、猪野さんが1、八戸さんが3っていう何かが割り振られているのじゃないか』」

「だとしても、どういうことだ?」

「『さぁ?』」

「まぁ、そうだよな」

「つうか、八戸さんってどんな人?」

「そうか、まだ言ってねぇか」


「ニュースはどこまで公表していいって言ったっけな」

「被害者の名前と年齢、通報者、現場ぐらいだったかな」

「ああ。じゃあ、被害者はめちゃくちゃ金持ちだったことは知らないことってことだな」

「へぇ、そんなことが⋯⋯。で、それで」

「え?」

「それだけ?」

「あと、そのお金を何人かに貸していたっていうのもあるが⋯⋯」

「それもさ、何か手がかりには欠けるくない」

「ぐっ、俺に言われてもなぁ」

そんな会話を聞きながら、澪は思考を巡らす。


4つの事件。サイコロ。チケット。凶器についた指紋。健一さん。復讐。動機。公園前の歩道橋。猪野さん。時間。アリバイ。監視カメラ。謎のボタン。裁判官。闇バイト。お金の貸付。

連続殺人。


「はっ」

澪の中で何かが弾けた。

「分かった⋯⋯」

「どうした?」

湊が振り返る。

「湊、この事件分かった」

「じゃあ」

「うん」

二人は揃えて頷く。

「高橋さん、全員を集めて」


そうして、篠森健一、四本天真、四宮敦子、四谷参月が集められた。

その前に湊が立つ。

もちろん、その手にはスマホ。

「さて、みなさんに集まってもらったのは他でもありません」

両手を大きく広げる。

「この事件の犯人が分かりました」

「え?事件?」

四本が驚く。

その光景を澪は観察する。


四本が驚いている。いや、四本だけが驚いている。

「あれれ?おかしいですね。四宮さん、四谷さん。事件と聞いて驚かないんですか?」

湊の口角が上がる。

「え、ええ。ニュースで見ましたし」

「そうですね、確かに」


「では、本題に入りましょうか」

湊はスマホを見る。

「この事件の犯人は⋯⋯」

ビシッと指を指す。

その先には――篠森健一。

「篠森健一さん、だけではなく⋯⋯」

「え?」

高橋が間の抜けた声を出す。

「高橋さん、今いいとこなんですよ」

「ああ、すまんすまん。だが、俺にも分かるように説明してくれ。俺は澪から説明を受けてないんだ」

「確かに」


「柴木奈々さんが亡くなった第一の事件、篠森五百里さんが亡くなった第二の事件、猪野長次さんが亡くなった第三の事件、八戸武雄さんが亡くなった第四の事件」

湊は順に指を立てていく。

「実はこれらの4つの事件⋯⋯」


「犯人が全て違うんです」


「そう考えるとかなり事件がすっきりします」

湊は人差し指を立てる。

「まず、第一の事件。おそらくこれは、僕たちの推理が当たっているのでしょう」

「猪野がストーカー絡みで奈々を殺したってことか?」

健一が問いかける。

「ええ、そういうことです。問題はここからです」

湊は続いて中指も立てる。

「第二の事件、監視カメラに猪野さんが映っていたので僕たちは猪野さんが犯人だと考えました。ですが、それは偶然です」

「ということは、他に犯人が⋯⋯」

健一が愕然とした様子で膝から崩れ落ちる。

「ええ、それはあなたですよね」

湊は視線を向ける。

四宮敦子に。


「え、私?」

「はい、あなた確か、僕たちが取り調べているときこう言いましたよね。『早く犯人を捕まえてくださいね』って」

「え、ええ」

「ですが、僕たちは五百里さんが亡くなったなんて一言も言ってませんよ」

「はっ」

四宮は左手が口元を隠す。

「なぜ、『犯人』などとおっしゃったのでしょう?あなたは五百里さんが殺されていたことを知っていたんではないですか?」

「そ、そんなの言いがかりよ」

「他にもありますよ、これとかね」

湊はポケットからボタンを取り出す。

第二の事件のとき、五百里の近くに落ちていたものだ。

「これが、なんだか分かりますか?」

「い、いえ」

「いいえ、あなたはよく見ているはずです。そうですよね、裁判官の四宮敦子さん」


湊はボタンを掲げる。

「これ、文字がかすれて見えづらいですが、『裁』って書かれているんです」

湊は目を細めて、小声で呟く。

「俺には、そう見えねぇけど」

「実際そうなの、他の人に見せてみてよ」

澪が先を促す。

「まぁ、いいや」


湊は一歩踏み出し、四宮に近づく。

「そのスーツ、胸のところ、ほつれてますね」

四宮は思わず視線を下げる。

「そこって元々裁判官バッジが付いていたんじゃないですか?」

「確かに、そうだったかも」

四本が手を叩く。

「⋯⋯」

四宮は何も言わない。


「じゃあ、最後。指紋ですね」

湊が顔を近づける。

「第二の事件の凶器にあなたの指紋がついていると思うんですが、試してみます?」

その顔には、笑顔が貼り付けられていた。

「いいわ、もう」

四宮もそれにつられるように笑う。

「そうよ、私がやったのよ。指紋もやる必要ないわよ。私の指紋だから」

「ふ〜ん。で、動機は?」

その声は酷く冷めていた。

「日本を貶めるやつは死ぬべきなのよ。母親が死んだ?父親が倒れた?知ったことじゃない。罪は罪なのよ。でも、あの女は無罪になった。だから、私がこの手で裁いてやったのよ」

「それで、あんたも人殺しになったと」

「ええ、でも未練はないわ。私は裁判官として役目をしたのよ」

「もういい、黙れ」

湊が冷たく言い放つ。


「さて、第三の事件です」

その声にはいつもの明るさが戻っていた。

「これも簡単ですね。犯人はあなたでしょう?篠森健一さん」

「ああ、罪を認めるよ」

健一は大人しく両手を上げる。

「だが、捕まる前にやりたいことが一つ増えた」

健一が突然立ち上がる。

その手にはナイフ。


「ひっ」

健一は四宮に向かって全速力で駆ける。

「お前が五百里を殺したんだなっ!」

ナイフを振りかぶる。


ヒュッ。

トン。

カラン。

ドサッ。

「ったく、仕事を増やすじゃねぇよ」

そう呟く高橋の足元で健一が気絶している。

「た、高橋さん⋯⋯。そんな威力のチョップをいつも俺にしてんの⋯⋯」

「大丈夫大丈夫」

高橋は親指を立てる。


いや、その状況で言われても不安しかないよ⋯⋯。ほら、湊だって震え上がってるし⋯⋯。


「だからな、湊」

高橋が笑顔で湊の肩に手を置く。

「お前も食らっても大丈夫だよ」


高橋さん、笑顔が笑顔過ぎて怖いんだけど⋯⋯。


「で、第四の事件の真相は?」

「ああ、はい」

湊はコホンと咳払いをした。


「第四の事件はあなたですよね?」

湊は微笑みかける。

「四谷参月さん」

四谷の肩が震える。

「わ、私じゃないです」

「犯人は皆そう言うんですよ」

湊はより口角を上げる。

「と言っても、証拠がないんですよ⋯⋯」

「⋯⋯」

「証拠がない!?」

湊はスマホの画面を見て叫ぶ。


「み、澪さん。証拠がないっていうのは⋯⋯?」

「証拠がない」

「じゃあ、どうするんですか?」

「なんで、敬語?」

「一応、こうやって探偵役のときはほぼ全員に敬語なんです。ただ一人を除いて」

「うん、湊は背後には気をつけてね」

「分かってますって」

湊は後ろから飛んできた高橋のチョップを捉える。

「で、なんで四谷さんなの?」

「サイコロの謎がそうだし、多分合ってる。だから、探偵役続けて」

澪はウインクする。

「う、うい」


「さて、取り乱しましてすみません」

湊は頭を下げる。

「さて、証拠がないと先ほど言いましたが、あるにはあるんです」

「なんなんですか?」

「指紋ですよ、指紋」

「あっ」

「この4つの事件、凶器には全て指紋がついているんです」

湊が指を立てる。

「指紋鑑定しましょうか」


「そして、不可解な謎がもう一つ残っています」

湊はスマホを見せる。

「サイコロの謎です」


「ですが、犯人が分かってしまえば簡単なものです」

湊は順に指を立てていく。

「第一の事件は2、第二の事件は4、第三の事件は1、第四の事件は3」

ニヤリと不敵に笑う。

「これは犯人の名前を示唆しているんです」


「猪野長”次”の2、””四”宮敦子の4、篠森健”一”の1、四谷”参”月の3、確かに対応してませんか?」


「さて、ここまでつらつら話しましたが、まだ大事なことを言ってませんでしたね」

湊が四谷の胸ポケットを指さす。

「すみません、それ見せていただけませんか?」

「うっ」

「分かります、人に見せたくないですね。借用書なんて」

四谷の顔が歪む。

「高橋さん、レッツ職権乱用」

「湊、後で覚えておけよ」

高橋が四谷に近づく。

「見せていただけますか」

「⋯⋯」

「やましいことがないならご協力お願いします。それとも見られたら何かマズいことでも?」

「もう、いいですよ」

四谷は胸ポケットから一枚の紙を高橋に叩きつける。

「澪の予想通りだな」

それは借用書だった。

貸し出し人の欄には、八戸武雄の文字。

「で、私が殺したって証拠はどこにあるのよ?」

四谷はどうだと言わんばかりに続ける。

「ナイフに私の指紋がついていたとしても、それは証拠にはならないじゃない!」

「ええ、そうですね」

湊の声は残念そうだった。

しかし、その顔は笑っていた。

「でも、今この瞬間に証拠できましたね」

「は?何言って――」


『ナイフに私の指紋がついていたとしても、それは証拠にはならないじゃない!』


湊の背中では、澪が愛用のボイスレコーダーを握っていた。

「さぁて、俺はいつ凶器がナイフなんて言いました?」

「い、いやニュースで⋯⋯」

「すまねぇな、それはマスコミに伏せているんだわ」

高橋も応戦する。

「さて、次はどうする?」

じりじりと近づく湊。ぎりぎりと歯を鳴らす四谷。

「クソっ」

四谷が舌打ちする。

「全部そうだよ、あの爺さんから金を借りていたのも、爺さんを殺したのも」

「それは自白と捉えてよろしいですか?」

高橋が淡々と確認する。

「ご自由に」

「では、署までご同行願いますか」

高橋は四宮と四谷を連れて歩き出す。

その途中、四谷と澪の目が合った。

「なぜ、私だと分かった?」

澪は一息置いて、


「言葉は嘘をつきませんから」


そうして、事件の幕は降りた。



          *


夜。

取調室では高橋と四谷が話している。

「ちなみに、指紋全員お前ら犯人と一致したよ」

「へ〜、それ私に言う事?」

「一応な」

高橋は腕を組む。

「聞きたいことが二つほどある」

「何?お姉さんが聞いてあげるよ」

「なぜ、自分のことを示すサイコロを置いた?あのチケットは何なんだ?」

四谷はフッと笑う。

「渡されたんだ」

「誰に?」

「顔は見えなかったけど、背格好はあの、澪だっけ?、あれぐらいだったよ」



暗い路地裏。

「クソっ、あのジジィ。明日までに金を返さないなら利子を倍増するって無茶だろ。こっちだって好き好んで借金してるわけじゃないんだよ」

道端の空き缶を蹴り飛ばす。

意外と遠くまで飛び、四谷はそれとなくその軌道を見ていた。

カァン。

その先には、人がいた。

山高帽に丈の短いジャケット。身長に見合わないだぶだぶのズボンと大きすぎる靴。

そして、ひょっとこのお面。

「こんにちは。四谷参月さん」

その声には少しあどけなさが残っていた。

「誰?君は。夜道は危ないよ」

「借金で首が回らないようだね」


「殺しちゃえば?」

「え?」

突然の非現実的な言葉に困惑する。

「大丈夫、バレたりしないから」

「何で?」

「今さ、警察は違う事件を調べているんだよ。それの真似をすればいいんだよ」

「でも⋯⋯」

「まだ、良心があるよね」

お面で表情は見えないがおそらく笑顔なのだろう。

「でもさ、殺さないと自分が死んじゃうよ。それくらいなら、私の計画に乗らない?」

その声は自信に満ちあふれていて、こちらまで自信がつくようなそんな感覚だった。

「これを現場に置いてね」

差し出された手には、サイコロとチケット。

「あ、ゴメン。自己紹介がまだだったね」


「私、オーディ。オーディエンス、略してオーディ。よろしくね、アクター」



          *

時は戻り、現在――。

人気のない映画館に一人の少女がいた。

暗くて、よく顔は見えない。

少女はポップコーンを掴み、口に放り込む。

「あ〜あ、もう終わりか〜。でも、意外と面白かったな」

コーラを飲み干す。

「また会おうね、月島澪《メインアクター》」


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