第九十話 白銀の咆哮、潰える野望
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帝国跡地の静寂を切り裂き、森全体が震えるほどの衝撃音が鳴り響いた。
開戦の合図と同時に、カイルの配下であるキメラの少年が、目にも止まらぬ速度でセドリックへと接近する。
しかし、その鋭い一撃が届く直前、視界を埋め尽くすような白銀の巨体が間に割り込んだ。
「……ッ!?」
渾身の突進を正面から受け止められ、少年は驚愕に目を見開く。
その前に立ちはだかったのは、守護獣ノエルだった。
『セドリック! この子は私が相手をするから、他のダークエルフをお願い!』
「了解しました。ノエルさん、お任せします」
セドリックは信頼を込め、短く応えた。
キメラとしての圧倒的な身体能力を持つノエルであれば、相手が同質の存在であっても遅れは取らない。
セドリックは即座に、周囲から襲いかかるダークエルフの集団へと意識を切り替えた。
【セドリック視点:冷徹なる制圧】
次々と襲い来るダークエルフたちに対し、セドリックはラウから伝授された、魔力を込めた掌打を繰り出す。
「はぁっ!」
的確に放たれた一撃が腹部を撃ち抜くと、凝縮された衝撃波が全身を駆け巡る。
ダークエルフたちは声を上げる間もなく意識を断たれ、次々と地面に崩れ落ちた。
「気絶さえさせてしまえば、奴隷紋による強制支配も一時的に無力化できるはずです。これでも元変異種……そして、ユエ様が高度な魔獣を素材に創り上げた造育人間ですから」
制圧の最中、セドリックの鋭い魔力知覚が彼らの体内の異変を捉えた。
「……なるほど。体内に二つの魔核がある。人工魔核そのものは完璧な造りのようですが、元々の魔核と激しく反発し合っていますね。互いの魔力が干渉し合い、本来の性能を引き出せていない……これでは宝の持ち腐れです。今の彼らなら、問題なく全員制圧できるでしょう」
【ノエル視点:キメラ同士の激突】
『くっ! この子、結構強い……!』
ノエルは少年の腕を掴み、そのまま地面へと叩きつけた。
大地が爆ぜるような轟音が響く。
少しやりすぎたか、とノエルが案じたのも束の間、少年の傷はキメラ特有の超再生によって一瞬で編み上げられ、完治した。
『加減が難しいな……』
思考した瞬間、少年の姿が掻き消えた。
直後、背後から強い衝撃を受け、ノエルは前方へと吹き飛ばされる。
ノエルは即座に空中で体勢を整え、追撃に備えた。
「ズドン!」という音と共に放たれた少年の飛び蹴りを両腕で受ける。
あまりの威力にノエルの両腕がへし折れたが、それも瞬時の再生によって元の形に戻った。
少年は着地するやいなや、再び背後を狙って超高速で回り込んでくる。
だが、ノエルはその動きを完全に見切っていた。
少年が背後に回るよりも速く、ノエルはその場で鋭く反転。
驚愕に目を見開く少年の懐へ正面から飛び込み、その身体を力強く羽交い締めに封じ込めた。
『今度は逃がさない!』
正面から逃げ場を完全に塞がれ、ミシミシと骨の軋む音が鳴る。ノエルの脳裏に、かつてユエが語った言葉がよぎった。
――この子がもしキメラなら、魔核を破壊しない限り死ぬことはない。
『なら、このまま気を失うまで……!』
逃れられぬ圧力に、少年は呼吸を奪われ、やがて酸欠で意識を失った。
ノエルは少年を優しく地面に横たえると、全ての元凶である男、カイルへと向き直った。
【カイル視点:予想外の壊滅】
「なんだ……! なんだこれは! 何が起こっているんだ!?」
カイルは、眼前の光景が信じられなかった。
精鋭であるはずのダークエルフたちが、あの猫の獣人たった一人に、手も足も出ず次々と制圧されているのだ。
「それと、あの鬼熊はなんだ! あいつもおかしいぞ……!」
キメラの小僧が腕を折ったはずなのに、瞬きする間に再生して立ち上がった。
さらに恐ろしいのは、その戦い方だ。
あれだけの力がありながら、ああさまに殺さないよう手加減をして戦っているではないか。
「……あの獣人だけでなく、魔物の分際であの熊まで、人間並みの知性で立ち回っているというのか……?」
カイルが戦慄に震えていると、ノエルがとてつもない殺気を放ちながら、こちらへ向かって接近してくる。
「ま、まずい! お前たち、私を守れ!」
悲鳴のような命令を下すが、周囲を見渡せば、すでにセドリックによって全ての部下たちが無力化されていた。
「な!? いつの間に……っ!」
カイルは咄嗟に懐から閃光弾を投げた。
「カッ!」と視界が真っ白に染まる。その刹那、彼は震える手で、隠し持っていた『転移魔石』を破壊した。
それはソル・レヴァント一族の先祖が残した遺産であり、現存する数は片手で数えるほどしかない、正真正銘の遺失技術。
これを使えば、帝国の再興はさらに遠のく。
だが、この場を生き延びるためには、もはやこの「最後の手札」を切る以外に道はなかった。
「……おのれ、次は必ず殺してやる! 覚えていろ!」
剥き出しの憎悪を込めた捨て台詞と共に眩い光が溢れ、カイルの姿は森から掻き消えた。
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今日の話は、ここまでです。つづきは、また明日。おやすみ。




