第八十八話 強襲の予感と守護者の咆哮
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【カーム国での演武開始の四日前――帝国跡地近郊】
カイル・ソル・レヴァントが地下拠点で祝杯を挙げてから、着々と進軍の準備は整えられていた。
不気味に脈打っていた「繭」は、カイルの野望に応えるように禍々《まがまが》しい羽化を遂げた。
金の角を持ち、黒と紫のグラデーションが混じる蛇の尾を生やしたその少年は、カイルにとって「デポを攻略するための鍵」であり、最強の兵器であった。
「いよいよだ。この駒を使い、デポに眠る全てを我が手に収める」
カイルは、人工魔核を移植され、意志を奪われたダークエルフの精鋭たちを率い、全軍をもって進軍を開始した。
彼らが目指すのは『戦略物資集積区画』。
しかし、その進軍ルート上には、かつて彼らが実験体を「置き去り」にした森の先に、ユエたちが作り上げた安息の地――ヘリックス村が存在していた。
【ヘリックス村:拠点(演武当日)】
進軍開始から四日。
ユエたちが首都からの重鎮を待ち、演武を始めようとしていたまさにその時、帝国跡地の西側を抜けたカイルの軍勢が、ヘリックス村の防衛圏へと足を踏み入れた。
ユエの帰りを待つセドリックたちがいる拠点で、突如として緊急警報が鳴り響いた。
「セドリックさん! これ、一体……!」
「ノア君、落ち着いて。今、ビーコンで確認します」
セドリックが『アナライズ・モノクル』を起動し、レーダーを走査する。
レンズ越しに映し出されたのは、鬱蒼とした森の向こうからこちらへ到達した、複数の不穏な魔力反応だった。
「ノア君、君はすぐに皆を連れて避難所へ避難してください」
「セドリックは!? 一緒に来ないのかよ!」
詰め寄るノアに、セドリックは傍らに立つ白銀の巨体を見上げた。
「私は異変の起きた現場へ向かいます。……ノエルさん、私と一緒に来ていただけますか?」
『わかった。一緒に行こう』
「僕も行く!」と食い下がるノアに対し、セドリックはその肩を優しく、しかし力強く掴んだ。
「いいえ、ノア君。君はここで皆を守る義務があります。ユエ様から魔術を徹底的に教わった君こそが、この拠点の最後の砦なのです。君にしか、ここは守れません」
セドリックは、予備として預かっていた通信機をノアに託した。
ノアは震える手でそれを受け取り、泣きそうな目でセドリックを見つめる。
「……無事に戻ってきてよ、セドリック」
「私はユエ様が作り上げた造育人間ですから。そう簡単にはやられませんよ」
セドリックは優しく微笑んでノアの頭を撫でると、奥の部屋から出てきたミラたちにも深く頷き、現場へと急いだ。
【現場への急行】
村を出て深い森の中を走る中、ノエルが念話で呼びかけた。
『セドリック、私の背中に乗って! その方が速いから』
セドリックがその背に飛び乗った瞬間、ノエルは地面がえぐれるほどの踏み込みを見せ、まるで砲弾のような速さで走り出した。
自身とセドリックを障壁で包み込み、立ち塞がる巨木をなぎ倒しながら突き進むその姿は、圧巻の一言だった。
「これは……正直、凄まじいな」
凄まじい衝撃に耐えきれず、セドリックは思わずノエルの背に爪を立ててしまった。
「あ! すみません、ノエルさん!」
『大丈夫、全然痛くないから。しっかり捕まっていないと落ちちゃうよ?』
見れば、ノエルの背は鎧のような鱗に覆われており、傷一つ付いていなかった。
セドリックは遠慮なくその鱗に爪を立て、振り落とされないよう身体を固定した。
【対峙:暴虐の皇族】
現場に到着した二人が目にしたのは、異様な集団だった。
数人の人間と、無理やり従わされているとおぼしきダークエルフたち。
そしてその中心には、ユエと同じ「金の角」と「黒紫の蛇尾」を持つ少年が立っていた。
「……あの少年も、ユエ様と同じ姿だというのか!?」
セドリックがその光景に戦慄する中、突如現れたノエルたちの威圧感に、相手側も色めき立った。セドリックはノエルの背から飛び降り、鋭く言い放つ。
「止まりなさい! ここより先は我々のテリトリーです。直ちに引き返しなさい!」
すると、一人の男が傲岸不遜な態度で前に出た。
「何だ貴様らは。獣人風情がこの俺に指図するのか!? 俺はソル・レヴァント魔導帝国の正当な血を引く男、カイル・ソル・レヴァントである! ここは俺が支配する土地だ、どかぬのなら命はないと思え!」
「(カイル……この男が、ユエ様たちの怨敵か!)」
セドリックの表情から温厚さが消え、冷徹な排除の意志が宿った。
「ノエルさん。この男はユエ様やミラさんたちの仇です。容赦はいりません――ここで、息の根を止めましょう!」
『ミラ達を苦しめた奴ら……許らない!』
ノエルが放った怒りの咆哮は、木々を震わせ、周囲を圧倒した。
怯む部下たちを尻目に、カイルが狂気じみた号令を下す。
「構わん、排除しろ! 帝国復興の邪魔をする者は皆殺しだ!」
「ノエルさん、ダークエルフの方々は操られているだけのはずです。できるだけ傷つけずに無力化をお願いします!」
『わかった! 手加減する!』
主が不在の地で、仲間の怒りと誇りが、暴虐なる侵略者との戦いへと火を灯した。
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書くのに時間かかってるので21時超えるかもです。一応あと2話今日中に出す予定です。




