第八十四話 禁忌の告白と、数百年の邂逅
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ギルド長室が、一瞬で凍りついたような沈黙に包まれた。
「秘密……? キメラ……? それは一体、何のことだ」
アルヴィン殿が困惑したように呟く。
私は隣のシェリルに「いいよね?」と目配せをした。
彼女もまた、先ほど聞いた不穏な報告から最悪の事態を連想したようで、硬い表情で頷き返した。
「アルヴィン殿、それとジーク殿。できればこのことは、本当に信頼のある人にしか話さないでください。おそらく、かなり深刻な話になると思います」
私の真剣な眼差しに、アルヴィン殿は姿勢を正し、重々しく「わかった」と答えた。ジーク殿も同じく、息を呑んで耳を傾けている。
私は、闇組織が各国で進めている計画の正体を告げた。
「彼らの目的は、おそらく人造生物兵器『キメラ』を作り出すことです」
「人造生物兵器……!? それは、一体何なのですか!?」
驚愕する二人に、私はキメラの定義を説いた。
「キメラとは、現存する最強格の希少な魔物たちの戦闘能力や再生能力など、各殺戮兵器として最も強力な部分だけの遺伝子情報を元に、設計図を新しく製作して、一つの最強の魔物へと生成された生物の総称です」
二人は絶句した。アルヴィン殿が真っ先に正気を取り戻し、絞り出すような声で問いかける。
「……闇組織が、その『キメラ』を製造している可能性があるということですか!?」
「はい。今聞いた詳細、そしてこれまでの人工魔核事件の流れを見る限り、彼らは何らかの形でキメラの製法を手に入れたと予測できます」
私は、なぜその考えに至ったか、自身の「過去」について語り始めた。
「私の生きていた時代……ルナ時代に、研究途中の資料が紛失したことがありました。その時、私の研究室を自由に出入りしていたのは、当時の婚約者であり、帝国の第4皇子でもあったヴァルガス・ソル・レヴァントという男です。もしあの時に彼が資料を持ち出していたのだとすれば、その血族が禁忌の技術を秘匿し、現代に伝えていてもおかしくはありません」
アルヴィン殿は、私が「ルナ時代」と口にしたことに目を見開いたが、私はそれを制するように、再び魔道具に手を置いた。今から話すことが真実であると証明するために。
「アルヴィン殿、信じるか信じないかはお任せします。私は、今から話すことがすべて真実であることを証明するために、再びこの魔道具に手を置きます。私は、今から数百年前の帝国時代にルナ・キングスレイという名のエルフとして、キメラ研究をしていました。あの大災害の中心にいたのも、私です」
理由は思い出せないが、裏切られてキメラ生成の魔法陣に突き落とされたことで魔術が暴走し、あの大惨事が起きたこと。そして、数百年の時をかけて誕生した自身が、キメラであることを告げた。
アルヴィン殿は眉間を抑え、魔道具の反応に目をやった。嘘偽りのない「真実」の輝き。彼は深くため息を漏らし、壮絶すぎる内容に苦しみながらも、私を真っ直ぐに見据えた。
「……内容が壮絶すぎて理解に苦しむが、これが真実なのだな。奴らがその『キメラ』の生成に成功した場合、具体的にどうなるのだ?」
「今の時代ではわかりませんが、あの当時、もしキメラが完成していれば、一体で国一つを滅ぼすことも可能だったと推測できます。再生能力が極めて高く、止めるのは困難でしょう。完全に倒すには人工魔核の破壊が手っ取り早いですが、防御力も桁外れで、傷をつけることすらやっとのはずです」
私はさらに、目の前に実物が二体……私とラウがいることを説明した。他にも仲間がいるのかという問いには、正直に「あと二人います」と答え、隠していたことを謝罪した。
アルヴィン殿はしばらく考え込んだ後、言った。
「……まずは君たちの戦闘能力を実際に見せてほしい。判断を下すには、その力を見極める必要がある」
「人目のつかない広い場所であれば、お見せすることは可能です」
「すぐに手配しよう。ジーク、今話した内容は絶対に外に漏らすな。それと、今から言う重要人物を至急呼ぶよう手配しろ」
ジーク殿は震える声で「わかりました」と答え、アルヴィン殿が急ぎ認めた手紙を携えて、重要人物のもとへと飛び出していった。
「ユエ殿、正直に話してくれたことに感謝する。もし黙ったままだったら、取り返しのつかない被害が出ていた可能性がある。自身の扱いがどうなるか分からない中で、よほどの覚悟があっただろう」
アルヴィン殿の声には、隠しきれない畏怖と敬意が混じっていた。
「まさか、あの大災害の真相を知ることになるとは……ただの事故だと思っていたのに。帝国の王族どもめ、なんと愚かな。また、同じ過ちを繰り返そうというのか……」
「とりあえず、準備ができ次第よろしくお願いします」
私たちはそう締めくくり、その日はギルドが手配した宿へと向かった。
アルヴィンが私たちの身の安全と、外部への情報漏洩を防ぐために用意したその場所は、実質的な軟禁場所でもあった。
私たちは、これから訪れるであろう激動の予感に身を置きながら、嵐の前の静けさを静かに噛み締めるのだった。
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今日の話は、ここまで。また明日。




