第八十一話 望まぬ栄華と、招かれざる召喚
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
カーム国との取引が始まって一ヶ月。
物流は驚くほど順調に回り始め、私たちの拠点には定期的に資金と物資が運び込まれるようになっていた。
現在は、ギルド【凪の観測手】からの依頼を受け、この地の生態調査を支援するための支部を兼ねた、念願の「宿泊施設」の建築に勤しんでいる。
これによって冒険者の出入りが増えれば、村はさらに活気づくでしょう。
定住希望者まで現れてくれたら万々歳ですが……ふと、私は作業の手を止めて、目の前に広がりつつある光景に戦慄した。
(待てよ……私はただ、自分たちの暮らしを快適にしたかっただけなのに。これ、いつの間にか私が『村長』になりつつあるのでは? 下手したら、このまま人が増え続けて町になってしまうのでは……?)
毛頭そんなつもりはなかった。
だが、理想 of 生活を追求し続けた結果、とんでもない規模の事態を招き寄せていることに、今更ながら気づいてしまったのだ。
「んんん……」と頭を抱えて唸っていると、空から見覚えのある姿が舞い降りてきた。
「ユエ殿、お久しぶりです!」
【凪の観測手】のジーク殿だった。
私は瞬時に「営業スマイル」を貼り付け、努めて穏やかに応じる。
「おや、ジーク殿。お久しぶりですね、本日はどうされましたか?」
「お忙しいところ恐縮ですが、少々国の方で問題が起きまして……」
その言葉に、私の顔から血の気が引いた。
まさか、私たちが卸した回復薬や素材に不備でもあったのだろうか。
「えっ、不備ですか!? 私たちが納品した物に何か……!」
「いえ、違います! そうではなく、闇組織の不穏な動きが各国で活発化しておりまして。調査の結果、どうやら帝国の王族が深く関与していることが判明したのです。ついては、帝国の知識を持つ皆様に、事実関係の確認と共有をお願いしたいとの要請が国から出まして……」
ジーク殿の言葉に、私は内心で(ついにアイツらの尻尾が、国の方でも掴めたというわけか)と毒づいた。
カイルという愚か者が派手に動けば、公の調査の手が及ぶのは時間の問題だったのだ。
「ついては、一度境界の町フロンティアの凪の観測手支部へお越しいただきたいのです。」
……なるほど。
一応は帝国関連の身として、正式に呼び出しがかかったわけだ。
身の潔白を証明するためにも、これに応じない選択肢はない。それにしても……。
(本当に、アイツらはどこまでも迷惑な連中ですね。)
私は内側で怒り心頭に発しながら、すぐさま準備を開始した。
ジーク殿が先に戻ったのを確認し、まずは鍛錬に励んでいたラウを呼びつける。
「ラウ! 今すぐお風呂に入って、出かける支度をしてください」
「えっ、急にどうしたんだよ?」
「いいから!」
戸惑う彼を浴室に押し込み、続いて研究に没頭しているシェリルにも声をかける。
事情を話すと、彼女の口からも「……あのクソどもめが」と、普段の淑女らしからぬ毒がポロリと漏れた。同意である。
留守を預かるセドリックにも事情を話し、ラウとシェリルを連れてしばらく拠点を離れることを伝えた。
傍らでノアが不安げに「僕は、どうすればいいの?」と聞いてくる。
「大丈夫ですよ。用事が終わったらすぐに戻ります。君とセドリックとノエルがいてくれたら、この拠点の仲間たちは安心できる。任せましたよ」
そう言い含めると、彼は渋々ながらも納得してくれた。
私は必要な道具をすべて空間収納に放り込み、足早に村を出発した。
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今日の話は、ここまで。残りは、また明日おやすみなさい。




