第八十話 女王の憤怒と、過ぎ去りし日の悔恨
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
ー・・・・ー
【聖樹王国アイナ・サリア】
その首都であり、万翠の都と謳われるシルヴァリスの王城は、かつてない騒然とした空気に包まれていた。
「……もう一度申せ。ダークエルフの集落が、人族に襲われただと!?」
玉座に座す女王、メルティナ・アイナ・サリアは、報告を受け、その端麗な顔を憤怒に染めた。
自国の愛すべき民が蹂躙されたという事実に、彼女は即座に兵を出し、救助を命じる。
しかし、現場に到着した兵たちが目にしたのは、無惨に打ち捨てられた亡骸と、もぬけの殻となった集落の姿だった。
生き残った者はすべて、跡形もなく連れ去られていたのである。
残された痕跡は、西の国――ドワーフの王ボルガ・バリスが治める【バリス】からの襲撃であることを示していた。
メルティナは直ちに使者を送り、厳重な説明を求めた。
だが、返ってきたのは信じがたい回答であった。
バリス国でも同様の拉致事件が多発しており、今や諸外国からの抗議に窮しているという。
さらにバリス側の調査により、一連の事件の黒幕として、旧ソル・レヴァント魔導帝国の王族の末裔が率いる闇組織の関与が浮上した。
バリス側は無実を主張しており、実際に闇組織がその領内に潜伏しているという情報はメルティナの耳にも届いていた。
(……おそらく、事実に相違あるまい。バリス国王もまた、災難に見舞われたか)
「しかし、帝国の残党め……! あの時のような過ちを、また繰り返すつもりか!」
数千年の時を生きる高等妖精であるメルティナにとって、当時の記憶は昨日のことのように鮮明であった。
帝国の名を聞くたび、彼女の心には激しい怒りと共に、最愛の姪――ルナ・キングスレイの姿が去来する。
悔やんでも悔やみきれないのは、当時の帝国が大陸随一の魔導技術を誇っていたことだ。
ルナの類稀なる才能を惜しみ、彼女を帝国の技術学校へ送り出したのは、他でもないメルティナ自身だった。
留学中、ルナは第四王子に見初められて婚約し、そのまま帝国に定住してしまったのである。
「あの時、私がルナを送り出しさえしなければ……」
女王は深く、重いため息と共に嘆いた。
だが、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。彼女は鋭い視線を家臣たちへと向けた。
「者共、聞け。バリス王の言葉が真実か否か、各周辺諸国へ直ちに使者を送れ。事実を白日の下に晒すのだ。そして――」
メルティナは玉座の肘掛けを強く握りしめた。
「行方不明となった我が民を救い出すため、騎士団と魔導師からなる『特務調査団』を即座に編成せよ。一刻の猶予もない。連れ去られた民の足跡を追い、奈落の底まで追い詰めてでも連れ戻すのだ!」
女王の決然たる命令に、居並ぶ家臣たちは一斉に平伏した。
かつて愛した姪が、今や「帝国」とは真逆の信念を持ち、まったく異なる姿で生きているとは露知らず。
彼女はまだ、運命の歯車が再び噛み合い、激しく回り始めていることに気づいていなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
下の**【☆☆☆☆☆】評価とブックマーク**で応援いただけると、執筆の大きな励みになります!




