第七十一話 魔導工学と美食の開拓、来訪への備え
ご来訪ありがとうございます。ゆっくり楽しんでいってください。
凪の観測手の面々を見送った私たちは、販売の目処が立ったことで、すぐさま量産体制に入った。
まずは親世代の魔牛やクワックチキンの選別を済ませ、さらに新たな食肉用の魔物候補をリストアップしていく。
この村にしかない特産品を、一つでも多く確立させるためだ。
同時に、植物系統でもこの地独自の資源候補に着手した。
実は、近辺を探索した際、非常に有用な植物を見つけていたのだ。
その名は『黒鬼松』。
この松の樹液は驚くほど万能で、加熱して薄く広げることで、プラスチック板に近い代用品になることがわかった。
さらに、魔晶石の粉末を混ぜたインクで術式を書き込めば、まるで現代のプリント基板のようなものが作れる。
これには、シェリルと二人で手を取り合って喜んだ。
全く同じ物は無理でも、これがあれば現代の利便性に近い魔道具を再現できる可能性がある。
日本にいた頃、エンジニアやプログラマーの知識を趣味で深く追求していたシェリルは、それ以来連日ラボにこもっている。
好きこそ物の上手なれとはよく言ったもので、元来の物作り好きに火がついた彼女なら、この世界の素材を使って私たちの生活を劇的に変えるシステムを形にしてくれるだろう。
一方、私はというと、この世界で目覚めた頃に食べたクリスタルロブスターの品種改良に没頭していた。
あの味をさらなる高みへと昇華できないか。試行錯誤の結果、予想だにしない変異が起きた。
「……おぉう。なんだ、これ」
出来上がったのは、複数の属性を宿した影響で、殻が虹色に輝く個体。
『レインボークリスタルロブスター』――略して虹ロブだ。
見た目の美しさは最高なのだが、肝心の身は……美味しさを求めたはずが、想像を絶するほど不味くなっていた。
品種改良、大失敗である。
しかし、その殻の輝きは工芸品や装飾品として一級品の価値がある。
これは食用ではなく、素材用の加工品として養殖することに決めた。
気を取り直して改良を続け、ようやく納得のいく個体が完成した。
真珠のような光沢を持つ白い殻のロブスター、その名も『パールロブスター』だ。
茹でる前は透明な身が、熱を通すと柔らかなクリーム色へと変わる。
一口かじれば、カニのような旨味とバターのような濃厚さが溶け合う、最高にクリーミーな味わい。
「よし! 今日はこれで品種改良はおわり!」
予定外の変異体も生まれてしまったが、結果オーライだ。
次に私は、ギルド長と約束した道の整備に取りかかることにした。
シェリルに開発してもらった結界装置を複数、ゴーレムたちに託す。
道路整備のついでに、一定間隔で設置する街灯へ取り付けていくよう命令を出した。
この装置は、魔力濃度の高いこの地の環境を逆手に取り、大気中の魔力をそのまま結界維持の燃料にする仕組みだ。
これで、一週間の死地も安全な街道へと姿を変えるだろう。
ゴーレムの手が足りなくなったので、追加で製造して建築と整備を急がせた。
一ヶ月後には、ギルド長が手配した商人の会談、そして国からの公式な調査団がやってくる。
犯罪は犯していないし、やましいことは何一つない。だから大丈夫だとは思うのだけれど……。
「……まぁ、なるようになるか」
押し寄せる外の世界の足音を背後に感じながら、私は新時代を切り拓く作業を再開した。
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のこり1話は、21時までに投稿予定。




